《遊びに潜む民俗 1》
●本文:草場純(遊戯史学会・理事)、解説ほか:蔵原大
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《本 文》
◆◆♪あぶくたった 煮え立った 煮えたかどうだか 食べてみよ ムシャムシャムシャ。◆◆※注
( https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=Nfv3cY8VnLY )
野外の童(わらべ)遊びが滅んでいく中、まだ残っているのが、この「あぶくたった」とあとは「花一匁(はないちもんめ)」「初めの一歩」ぐらいでしょうか。ところでこの「あぶく」は何のあぶくなのでしょうか。何が煮え立ったのでしょうか。もう少し遊びを追ってみましょう。
「あぶくたった」では、コドモ達は輪になって一人のオニを取り囲みます。オニはしゃがまされ、ムシャムシャムシャのときに つつかれたりします。ですから、煮えるのはオニなのですが、果たして鬼が煮えるものなのでしょうか。そうでないなら、オニ とは一体何でしょうか?
この後、二度同じことを繰り返し、三度目に「もう煮えた」と言われ、オニは別の場所に移されます。そこはコドモ達によって「戸棚」とされます。
◆◆♪トダナに仕舞って、鍵かけて、ご飯を食べて、お布団敷いて、電気を消して、もう寝ましょう。◆◆※注
コドモたちが寝てしまうと、オニが「トントントン」と言います。コドモ達が「何の音?」と聞くと「風の音」などとオニが答え、コドモ達は「ああよかった。」と応じます。そして三回目(とは限らないが)にオニが「お化けの音」と答えて、コドモ達は逃げ、ここから鬼ごっこが始まり、掴(つか)まった子が次の鬼になるわけです。
煮られ、食べられ、戸棚に仕舞われ、お化けになるモノって何でしょう。実はこれは「小豆(あずき)の精」なのです。
古代の社会には、イモ文化圏、マメ文化圏、イネ文化圏、ムギ文化圏、コーリャン文化圏などがあり、それらは重層しつつ基本的には産業革命まで続いたとされます。「あぶくたった」は、そうした日本文化の古層にまで辿れる遊びだと思われます。
いや逆に、産業革命以後の近代文化に覆われたイネ文化の、そのまた下に隠されたイモ・マメ文化だからこそ、遊びの中にようやく命脈を保ってきたとも考えられます。
それは丁度ヨーロッパで、万聖夜(ハローウィン)の夜にジャック・オ・ランタンを先頭に飛び出してきて、翌日の万聖節には上層のキリスト教に覆われて再び地下へ消えていく、キリスト教以前の精霊たちのようです。
すなわち子ども達は、遊びの中に文化の古層を学ぶのだとも考えられるのです。<終わり>
※解説者注:皆さんご存知のように、いわゆる民謡とは、役所や企業から押し付けられた既製品ではなく、各地の人々が個別に工夫した風習・口伝です。民謡には時代・地域ごとに多彩なバリエーションがあります。ですから皆さんがお聞き及びの「あぶくたった」と本文のそれとが若干異なることはご了承ください。
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《解 説》
草場純氏は、双六の前近代史研究などで知られるゲーム研究者です。
本文は、草場氏が以前にNPO法人世界のボードゲームを広める会「ゆうもあ」の機関誌『ゆうもりすと』に掲載した記事の転載です。
なお草場氏はtwitter上で、三宅陽一郎氏(デジタルゲーム学会・理事)と共に「ゲームデザイン討論会」を開催しております。
・第一回目の記録 http://t.co/13dMZ4mlST
・第五回目の記録 http://togetter.com/li/682287
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【むりやり関連書籍】
●草場純ほか『ゲーム探検隊』
http://www.amazon.co.jp/dp/4903746011
●柳田 國男『明治大正史 世相篇 新装版』
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=1590820
●二宮宏之『深層のヨーロッパ』 (民族の世界史シリーズ)
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