ゲームブックとの邂逅


 アナログゲーム、特にアナログゲームと(広義の)物語を語るうえで、ゲームブックについて外すことはできません。
 ゲームブックとは一見小説(等)のような体裁を取りながら、ゲームのようにストーリーが分岐し、提示されるパラグラフを選択していくことで展開が変わるという独特の形式を有した物語ジャンルのことを指します。戦闘やより精密な物語を再現するためのルール・システムが搭載されたり、あるいは「本」という体裁ならではの楽しい仕掛けが施されている作品も多く、世界観に合わせてバラエティ豊かなラインナップが存在しています。
 日本においては、1984年のスティーブ・ジャクソン&イアン・リビングストン『火吹山の魔法使い』(浅羽莢子訳、社会思想社現代教養文庫)が火付け役(同作品のシリーズだけで200万部を超えるベストセラー)となり、大ブームが巻き起こりました。
 近年、ゲームブックの復権が着々と進行しているようですが、そんな折、ゲームブックを愛する小珠泰之介さまが、「ゲームブックとの邂逅」という題で優れたレポートを寄稿して下さいました。
 ゲームブックをご存知の方もそうでない方も、お読みになっていただけましたら幸いです。(岡和田晃)


ゲームブックとの邂逅
 小珠泰之介


 その晩、私は帰宅の途中で書店に寄り、とある一冊の本を買い求めました。それから、百円ショップにも行ってトランプを一つ購入しました。

 家に着いて、さっそく娘に「はい、おみやげ」と本とトランプを手渡します。私は平静を装いつつ、次の瞬間に起こるであろう歓喜の声を待ち受けていました。
それがこの本です。

『バニラのお菓子配達便!~スイーツデリバリー~』
藤浪智之 著 佐々木亮 イラスト
バニラのお菓子配達便! ‾スイーツデリバリー‾ (角川つばさ文庫) [新書] / 藤浪 智之 (著); 佐々木 亮 (イラスト); 富士見書房 (刊)

 実はこれ、ただの物語ではありません。この記事をお読みになる方はきっとご存知でしょうが、これはゲームブックなのです。

 “つばさゲームブック”と銘打たれたこの本は、子ども達を対象にした「角川つばさ文庫」の一冊として、この冬に発売されました。

 この本のことを知った私は、発売日を心待ちにしていたのでした。

 私には小学二年生の娘がいます。この子が最近、読書に興味を持ちはじめてきたので、何か夢中になれるような本が無いだろうかと考えていました。そこに、この本が出るタイミングがぴったりだったのです。

 他にも、この本への個人的なある想いを抱いているのですが…それは後述しましょう。

「わあ、なにこれ!」

 娘は予想どおり、カラフルで可愛らしい表紙に、いっぺんで釘付けになりました。それから、ぱらぱらめくって「ええ!?どうなってるのこれ?」と言ってきたので、私はゲームブックの遊び方を話すことにしました。

「1から順番に番号が書いてあるでしょ、それから何番に進むか、自分で次の行動を決められるんだよ…」

 とはいえ、私の話はそっちのけで、自分で勝手に本を読み始めてさくさく設定を理解し、夢中になっていく娘なのでした。

 ケーキ屋さん、妖精、フォーチュンカード、運命判定、謎解き…すべての要素が小学生の子どもをとりこにするだろう事は予想していました。なぜなら、私自身がそうだったからです。

 私が子どもの頃はゲームブック全盛期でした。社会思想社の『火吹山の魔法使い』『バルサスの要塞』を始めとした「ファイティング・ファンタジー」シリーズや、東京創元社の「ソーサリー」シリーズはその代名詞的存在です。

 他にも、ごく平凡な読者だった私が思いつくだけでも、本格的にギリシア神話の世界を彷徨する『アルテウスの復讐』を始めとする『ギリシア神話ゲームブック』三部作、ユーモラスな語り口のJ・H・ブレナンの「ドラゴン・ファンタジー」シリーズ(現・「グレイルクエスト」)、ゲームブックは一人で黙々とやるものだという既成概念を破った二人対戦用『王子の対決』、現代日本を舞台にした名作『送り雛は瑠璃色の』、まさかの怪物が主人公の『モンスター誕生』、アメコミ的ヒーローが主人公のパルプSF風『サイボーグを倒せ』、TRPG『ローズ・トゥ・ロード』の門倉直人氏の『失われた体』など「魔法使いディノン」・シリーズ等々…。まだまだ書き足りないくらいですが、いずれ劣らぬ傑作群です。それから、小説(『グイン・サーガ』『デュマレスト・サーガ』)、映画(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』)、TVゲーム(『ゼビウス』『ドルアーガの塔』『ザナドゥ』)、アニメ(『ルパン三世』『天空の城ラピュタ』)、変わり種としては音楽(『展覧会の絵』)をゲームブック化したものまで多種多様にありました。

 これらが文庫本や新書版(ここ重要)で、しかも小学生でも手が出る値段(たしか400円~千円未満、消費税は導入前)で買えたのでした。

 私的な思い出話をお許し下さい。私が初めて買ったゲームブックは、忘れもしない、赤い背表紙に白抜き文字が印象的な東京創元社の『吸血鬼の洞窟』(デイヴ・モーリス著)でした。薄い本でしたが、吸血鬼退治というシンプルな物語に、様々な罠や敵、謎解きが詰め込まれており、文字どおり本がぼろぼろになるまで読み倒したものです。しかし何より魅力的だったのは、冒頭で描かれていた夕闇が迫った深い森の中、冒険者(=あなた)が恐るべき吸血鬼の館の入口に佇み、いざ死闘へと向かわんとする美しくも緊張感に満ち満ちた情景なのでした。

 私は、このゲームブックという手のひらサイズの異世界にたちまち没入しました。選択肢といってもわずか2つか3つしかないのですが、それでもあたかも本の世界で自分が動き回っている気にさせてくれる媒体はゲームブックしかありませんでした。当時はファミコンが発売されたばかりの頃でしたが、自分の家ではなかなか買ってもらえず、もっぱら友人の家で遊ばせてもらうしかなかったものです。ドラクエ?まだ世の中にはありませんでしたよ。

 私がそうだったように、娘は放っておくと、日がな一日本に没頭していました。

「ねえ、これ、すっごくおもしろいよ!」

「お父さんもやってみなよ。この問題わかると思う?」

「もう二回目、読んでいるよ」

 うんうん頷きながら、私は心の中で叫んでいました。

 ――わかる、わかる、そのワクワクしている感じ。そうだった、そういう面白さ、興奮がゲームブックにはあるんだ――

 そう、いまだに不思議なのです。どうして、本の頁をめくって、行きつ戻りつ、サイコロをころころ転がし、一喜一憂し、アドベンチャーシートにヒントを書き込み、消し、一人でうんうん唸って謎解きを考えるのが、あんなに面白く、飽きずに延々と出来たのか。

 今でこそ、コンピュータゲームでRPGやノベルゲームがあって、遥かにプレイヤーの自由度があって、設定も凝っている完成された世界での冒険が約束されたものなど山ほどあるにも関わらず――私にとってあの頃のゲームブックほどの衝撃と快楽を貪れるものが無いような気がしているのは――何故なのでしょうか。単なるノスタルジーなのでしょうか。

 いたって感傷的に書いてしまえば、それはハイパーリンクでテキスト同士を直結したり、コンピュータが面倒な処理を即座にこなしたり、一分の隙もなく破綻の無い世界を構築することで、逆説的に削ぎ落としてしまった不自由さこそがゲームブックの魅力なのではないか、ということです。

 物語の奇想天外さ、ルールやシステムの独創性はもとより、ゲームブックにおいては、まず頁をめくる行為、少ない選択肢から行動を選びとり、次のパラグラフを探す行為、サイコロを転がす行為、これらがその快楽の大部分を担っているのではないでしょうか。変な話ですが、その過程でちらりと覗かれる他のパラグラフや挿絵にもそれなりの役割が感じられるように思うのです。

 ノベルゲームはゲームブックが洗練されて進化したものじゃないのかって?そうかもしれません。しかし、単純にゲームブックをノベルゲームに移植したとしても、これらの魅力も再現されるかというと疑問があります。

 ちなみに私はゲームブックを遊ぶことは、直感的にはむしろアクションゲームを遊ぶ感じに近いのではないかと感じています。極論だとは思いますが、例えば、戦闘の時や運だめしの時に、念じながら力んでサイコロを振るでしょう?これ、TVゲームでコントローラーボタンを強打したり十六連射に挑戦したりする熱っぽさに近いと思いませんか。プレイヤーの振る舞いとしては意外と似ている気がします。

 とはいえ、ゲームブック最大の特徴が分岐点での選択にあるので、それが全部では当然ない訳ですが、上記の分岐点での選択・ページをめくる・次パラグラフを見つける・結果を読む、という一連のサイクル(すなわち他の媒体にはない行為)の間にえもいわれぬ期待感と興奮が繰り返されます。この焦らされる時間に快楽が潜んでいるという事は明記しておこうと思います。

 もう一つ、遊んだ事がある人ならば分かるでしょうが、ゲームブック読者というのはあらゆる選択肢の結果を知りたいと思うものです。何度も冒険を繰り返して、行った事の無い選択を確認することがあるでしょう。たとえそれがバッドエンドだとしても。悪手を選んだ時に訪れる酷い結末――これをどうしても読まずにはいられなくなるのです。他のゲームでそういう欲求をかき立てるものがあるでしょうか。私にはちょっと思いつきません。

 例えば、英国のスティーブ・ジャクソンの名作『地獄の館』で、私は自分がどれほど非業の死を遂げるのか、恐怖を感じながらも、それらを確かめずにはいられませんでした。それが悪夢にうなされるほどの拷問だったとしても、無類に面白かったのです。(ときにはランダムにページをめくって、そういう場面をピックアップして読んだりもしました。悪趣味と言われればそれまでですね。)

 横道に逸れすぎました。話を戻しましょう。

 この『バニラのお菓子配達便!』は主人公の少女「ばにら」が小学五年生です。小学二年生の娘がちゃんと読めるのか、一抹の不安もありました。難しければ読み聞かせをしながら遊ぼうかとも考えていましたが、それは杞憂に過ぎませんでした。こちらが、運命判定の意味が分かるのかとか、物語の意味が分かるのかとか、いらぬ心配をしていても、子どもは自分なりの遊びを組み立てていくものです。

「わからない事があったら教えてあげるよ」

「だーいじょーぶ!」

「難しい?」

「むずかしくないよ、だって、ここにね、ヒントが書いてあるから、これを読めば分かるよ。お父さん、これ見てよ。このなぞ、わかるかな~?」

 ネタが割れない程度に触れると、第二話の鏡の場所です。この謎解きが一番のお気に入りだったようです。家の中のある場所まで連れて行って、謎を明かしてくれました。それはそれは嬉しそうに。

 そう、このゲームブックは作者の藤浪智之先生が仰っていたように、ゲームブックの面白さの要素がたくさん盛り込まれているのです。

 娘がひととおり遊び終えた様子なので、私もこの本を借りて遊び始めました。子ども向け?…いえいえどうして大人も十分楽しめました。三話構成のオムニバスで、それぞれ違った種類のゲーム性を軸に物語が展開されます。

 第一話は、初心者にもゲームの肝を逃さないようなガイダンスがあって、とても丁寧に作られています。脇役キャラクターの紹介もさりげなくされています。帆振朴斗さんが私は好きですね。

 第二話は、娘も一番好きなエピソードと言っていましたが、冒険と謎解きとが絶妙なバランスの臨場感あふれた怪奇ミステリーです。館とゲームブックというのは相性が良いのでしょう。あっと驚く秘密が明らかになります。

 第三話は、個人的にツボにはまる大好きな作りでして、同じマップでも条件が変わると人々の対応が違ってくるという、一種の隠しパラグラフのシステムになっています。中でも美容院での少しビターな場面が、凄く印象に残りました。

 どのお話にも共通していたのが、人との出会いと、その出会いを通じて解決策がおのずと見いだされていく、という点でした。決して押し付けがましくない手がかりによって、最終的には自分の決断で選択する、という王道の物語。

 個性のはっきりした姉妹と多彩な脇役キャラクター達、そして彼らを取り巻く商店街や公園といった生活感あふれる背景。最後の最後で、この背景がぐっと前面ににじみ出てきたときには、私もほろりとしてしまいました。

 この感触を、私はよく覚えています。甘すぎず、辛すぎず、ほんわかと包み込んでくれる、このあたたかい優しさを。

 実は、私が藤浪先生のゲームブックで遊ぶのは初めてではありません。初めて遊んだのは、もう二十年も前の事でしょうか。

(あと少しだけ思い出話にお付き合い下さい。ちなみに、私の辿った経歴はただの一ファンとしてはごく普通のものだと思います。さらなるマニアはたくさんいました。あくまで地方の片隅にこういう平凡な読者がいたという参考にして頂ければ幸いです。)

 その昔、今はなき社会思想社から「ウォーロック」というゲームブック専門の月刊誌が出ていました。元々は英国の雑誌の日本版という位置付けで、ゲームブックの翻訳記事と日本独自記事が同居している雑誌でした。創刊が1986年12月。私がリアルタイムで購入し始めたのは第七号からです。初期は毎月17日発売(されないことが多かった)で、値段は480円。もちろん小学生でも買えました。

 とにかく、雑誌棚でのインパクトが物凄かったのです。英国版の表紙をそのまま持ってきてるものですから、日本には無いセンスの異様なモンスターや魔法使いがビビッドな色彩でA4版の大きさでどーんと置かれてあるわけです。小学生の私には、それがえらくカッコイイものに思えたんですね。購入するのに躊躇はありませんでした。大体、「ファイティング・ファンタジー」や「ソーサリー」シリーズの表紙や挿絵で慣れていたし、ああいうのが本物だと刷り込まれた部分もあります。(その後、表紙画は米田仁士さんに変わりましたが、こちらも色んな意味で凄かった。)

 私が初めて定期購読した雑誌がこれでした。新潟県の一地方都市に住む子どもにとっては、「ウォーロック」が遠くの世界に繋がる魔法の扉に他なりませんでした。

 ゲームブックの情報は載っているし、高水準のオリジナル・ゲームブックも遊べるし、全国のファン達の投稿も読めるしで、とにかく熱中しました。

 さらにこの雑誌では、『T&T』(『トンネルズ&トロールズ』)というTRPG(会話型RPG)をサポートしていたので、私は友人たちと休日のたびに集まってはセッションを繰り返すようになりました。友人同士でゲームブックを貸し借りしたり、自作のゲームブックを作って途中挫折したり(なぜか400項目にこだわるせい)、友人宅でライブRPGもどきのイベント(ま、肝試しに毛が生えたものですが)を企画したり、セッションをテープ録音してリプレイをワープロ打ちで作成したり、ひと通りの事(?)は「ウォーロック」誌を経由して、この頃にやっていました。

 ちなみに、これは私がイラストを投稿して掲載された最初で最後の雑誌でもありました。良い思い出です。

 そして、この雑誌に大きく関わっていた人々の中に、藤浪先生がいらっしゃったのです。先生は「わきあかつぐみ」という名前で活躍されていました。ライターとして、また、オリジナル・ゲームブック「スプリンターを守れ」「ブラスターケリー」「銀河宅急便」の作者(あの魅力的なイラストも描いていた)として、あるいは、誌上ロールプレイメール「二つの川の物語」のマスターとして。

 余談ですが、今回この文章を書くにあたって、自宅の「ウォーロック」誌を読み返していたら、「スプリンターを守れ」のページに、なんと自分でメモしていた手書きのフローチャートが挟まれていてびっくり。すっかり忘れていました。

 そういう訳で、私は藤浪智之先生のゲームブックが大好きで、ときおり掲載されると大喜びで遊んでいたのでした。どの作品もほのぼのしたユーモアがあり、ほのかに醸し出される郷愁と、読者に変におもねらない凛とした気品が感じられました。

 さて、その後ゲームブックを取り巻く状況は色々あって、残念ながらかつての盛り上がりは無くなりました。私も次第に疎遠になって、はや十数年経ってしまいました。

 21世紀に入って幾つか復刊もしていますし、新刊も発売されています。今でも大きな書店や専門店にはコーナーがあるのでしょうが、知らない人が偶然に出会えるほどの状況ではないと思います。

 そして「ウォーロック」誌も1992年3月に63号をもって休刊となっています。

 ゲームブックが廃れた背景として、TRPGやTVゲームの隆盛に伴って売れなくなったのではないかという人をたまに見かけます。私はこれは違うのではないか、と思っています。そもそもがTRPGのソロ・アドベンチャーとして発明されたとされるゲームブックですから、TRPGが広まったからその役割を終えた、というのは少し変な話です。

 またTVゲームとゲームブックは対立するものではないとも考えます。現に、私の娘もDSで遊ぶかたわら、漫画も読むし、アニメも見るし、読書もするし、同じようにゲームブックも楽しんでいました。どれが一番という話ではないと感じています。

 こんな風に、ゲームブックに対する一口では言えない気持ちが、いまだに私の心のどこかで燻ぶっているのは確かです。おそらくは、あの頃にゲームブックに夢中になった多くの人達も同じ気持ちを抱いているのではないでしょうか。探せば、あちこちで懐古している方々を見かけるからです。

 だから、この『バニラのお菓子配達便!』は、私にとって藤浪先生との再会でもあったのです。と同時に、ゲームブックとの再会でもあったのです。冒頭に述べた、個人的なある想いというのはこういう訳です。

 あの藤浪先生が新作ゲームブックを、それも児童向けの文庫で出版される!というのは、Twitter上のご本人のツイートで知りました。これまでゲームブックというものを全く知らなかった子供たちが、初めて出会う可能性がかなりあると思いました。

 そこで私も『バニラのお菓子配達便!』を娘が喜んで遊んでいた事を何気なくツイートしました。微力ながらも色々な人に知ってもらいたかったのです。すると、なんと!藤浪先生から直々にお返事を頂いたのです。

 私はすぐに、自分がかつてウォーロック誌上で先生のゲームブックを遊んでいた事をつぶやきました。長い時間を超えて、自分と自分の娘が、同じ作者の作品を楽しんだ事、この不思議な気持ちをお伝えしました。

 嬉しいことに先生も喜んで下さいました。そして娘にもこう伝えて欲しい、と仰って下さいました。

「いっしょにページをめくってぼうけんしてくれたこと、ありがとう、です」

 これを早速、娘に伝えました。「お父さんがね、子どもの頃にね…」という思い出話は上の空で聞いていた娘でしたが、メッセージを直接見せると、不思議そうに、でも嬉しそうに読んでいました。

 この時、なにか一本の線が、過去から未来へようやく繋がって伸びていくような、そんな気がしました。無限の選択肢が、とは言いません。わずかな――それこそ2つか3つくらいの選択肢を進んでいった結果、私は今この場所に辿りついているのだと思います。
 あんなに大好きだったゲームブックからしばらく遠く離れてしまい、ぼやぼやしていた時間を、私は果たして取り戻せるでしょうか?

 今からでも?

 遅くはない、鉛筆とサイコロ、それから少しばかりの勇気と運があれば。

 ……さて、これから君はどうする?

・この場を借りて、藤浪先生に「ぜひ続編をお願いします!」とお願いするなら(2へ)、

・他のゲームブックにも手を出して、冒険を楽しみたいなら(3へ)、

・いっそのこと、傑作ゲームブックを作ってしまうか!(400へ)

・別に何もせずに日々の生活に戻るなら(14へ)、

それぞれ進みたまえ。


小珠泰之介(こだま・やすのすけ)
 1975年新潟県生まれ。小学生の頃にゲームブックに出会い、熱中する。「ウォーロック」誌を購読し、イラスト投稿が二回掲載されたことがある(ネコ山ヒゲ夫名義で44号と48号)。中学時代の休日はもっぱら友人と『T&T』をして遊んでいた(時々ゲームマスター)。その後、ゲーム関係から遠ざかり漫画家を志した。10年以上前に、今はなき「コミックFantasy」誌(偕成社)にてファンタジーコミック大賞佳作入選。現在は会社員。
 黒糖そば名義のブログ「芝フ調」で、岡和田晃氏の『ガンドッグゼロ リプレイ アゲインスト・ジェノサイド』の感想を書いた事から、氏と交流が始まり、ゲームブックやTRPGの熱を再燃しつつある。

ブログ「芝フ調」http://cocteausoba.blog.so-net.ne.jp/
Twitter 黒糖そばhttp://www.twitter.com/cocteausoba

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ゲームブックとの邂逅 by 小珠泰之介(Yasunosuke Kodama) is licensed under a Creative Commons 表示 – 非営利 – 改変禁止 2.1 日本 License.
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 本文で名前が挙げられたゲームブックのうち、多くは装いを新たにしつつも、現在でも入手が可能となっています。煩雑になるのでリンクは張りませんが、簡単にご紹介させていただきます。
 「ソーサリー」シリーズ4部作、「ドラゴン・ファンタジー」シリーズ(『暗黒城の魔術師』、『ドラゴンの洞窟』、『魔界の地下迷宮』まで刊行済み)、『送り雛は瑠璃色の』、『展覧会の絵』、「ドルアーガの塔」シリーズ(『悪魔に魅せられし者』、『魔宮の勇者たち』まで刊行済み)は創土社からそれぞれ新訳と再編集等を加えた形で出版されています。
 『火吹山の魔法使い』と『バルサスの要塞』は扶桑社文庫から新装版が刊行されています(後述の「ゲームブック・ラボR」でも訳は異なりますがアクセス可能)。
 また『吸血鬼の洞窟』は入手しづらくなっていますが、共通した世界観を用いた会話型RPG『Dragon Warriors』が英語圏では復活を遂げています(Magnum Opus Press、Mangoose Publishing)。
 『地獄の館』はホビージャパンHJ文庫Gより翻案を加えた『ハウス・オブ・ヘル』として発売されています(後述の「ゲームブック・ラボR」でも翻案のない版がアクセス可能)。
 会話型RPG『トンネルズ&トロールズ』は第7版が新紀元社から翻訳・出版され、ソロ・アドベンチャー『傭兵剣士』がリプレイとセットで復活しています。
 また、「ソーサリー」シリーズの『魔法使いの丘』、『魔の罠の都』(『城塞都市カーレ』)、『七匹の大蛇』は、「d20ファイティング・ファンタジー」として、D&D第3版/第3.5版等で遊ぶことが可能なアドベンチャー・シナリオにもなっています。
 なお「ファイティング・ファンタジー」シリーズは携帯電話でのアプリケーション等、デジタル・メディア化も進められてきました。日本でもデジタル・メディアラボが展開を行ない、その試みはサイバーフロントの「ゲームブック・ラボR」というプロジェクトに引き継がれているようです(『モンスター誕生』は『滅びを呼ぶ者、汝は怪物』と邦訳タイトルが変わり、本国の新版を底本としつつ、こちらでアクセスすることが可能です)。

 続いて本文で紹介された『バニラのお菓子配達便!~スイーツデリバリー~』のほか――ゲームブックの「いま」を知りたい方のために――2010年に発売されたゲームブックを5作紹介させていただきます。

ハービー・ブレナン著、高橋聡/フーゴ・ハル翻訳『ドラキュラ城の血闘』(創土社)
 アーサー王伝説を下敷きにしたドラゴン・ファンタジー(現グレイル・クエスト)シリーズで知られるハービー・ブレナンによる伝説のゴシック・ホラー・ゲームブックが装いも新たに復活。
 ドラキュラ俳優ベラ・ルゴシ風の表紙が素敵ですが、俗に「ブレナン節」と呼ばれるユーモアたっぷりの(どことなくモンティ・パイソンにも通じる)ブラックユーモアと、「吸血鬼もの」への愛が存分に堪能できる贅沢な作品です。
 面白いのは、何度か吸血鬼に咬まれると……。
ドラキュラ城の血闘 (ADVENTURE GAME NOVEL) [単行本] / ハービー・ブレナン (著); 高橋 聡, フーゴ・ハル (翻訳); 創土社 (刊)

フーゴ・ハル著、河嶋陶一朗/冒険企画局監修『迷宮キングダム ブックゲーム モービィ・リップからの脱出』(新紀元社)
 ゲームブックの限界に挑戦した傑作『魔城の迷宮』の作者であり、推理ゲームの最高峰『シャーロック・ホームズ10の怪事件』にも関わった、ゲーム職人フーゴ・ハル氏の書き下ろし新作。
 会話型RPG『迷宮キングダム』の世界観に基づいたゲームブックならぬ「ブックゲーム」。フーゴ・ハル氏のこだわりが随所に見られる、ゲームブックを知らない人たち、あるいはすれっからしの方にこそ触れてほしい快作です。表紙を見たとき、すでに冒険は始まっているのだ!
迷宮キングダム ブックゲーム モービィ・リップからの脱出 (Role&Roll Books) [新書] / フーゴ・ハル (著); 河嶋陶一朗, 冒険企画局 (監修); 新紀元社 (刊)

オフィス・イディオム編『豊臣秀吉 名将の決断』(学習研究社)
 「高松城を攻めているとき、「本能寺の変」が起こった。さあ、どうする?」
 豊臣秀吉の生涯をシミュレートするという画期的なコンセプトのゲームブック。選択によってはあっと驚く結末が待ち受けています。
 「秀吉を知る」と題されたコラムも充実しており、日本史学習や戦国時代の武将について知るための入門書としても楽しめます。同じシリーズとして、『織田信長 名将の決断』も発売されています。
豊臣秀吉 (名将の決断) [単行本(ソフトカバー)] / オフィス・イディオム (編集); 学習研究社 (刊)

清水龍之介著/杉本=ヨハネ監修『魔の王の少年』(FT書房)
 アナログゲーム情報誌「Role&Roll」でも何度か紹介された、創作ゲームサークル「FT書房」が発刊した大作ゲームブック。文庫本を模した製本、600を超えるパラグラフ、別冊として(「ソーサリー」へのオマージュともとれる)悪魔召喚の書の活用など、凝ったギミックが見所の作品です。
 「FT書房」はゴシック・ファンタジーRPG(ゲームブック)の名作群への敬意を忘れない創作集団ですが、『トンネルズ&トロールズ』のイギリス版ソロ・アドベンチャーを翻訳権を取得して独自に翻訳・出版するなど、従来のインディーズ・ゲーム出版の枠に留まらない活躍を見せています。

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・FT書房/『魔の王の少年』販売ページ
http://tandt.market.cx/shopping/cart/item_241.html

ジェームズ・ワイアット/ジュレミイ・クロフォード/マイク・ミアルス/ビル・スラヴィクシェク/ロドニ-・トンプソン著、桂令夫/岡田伸/北島靖巳/楯野恒雪/塚田与志也/柳田真坂樹訳、『ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版 スターター・セット』(ホビージャパン)
 世界最初のRPGにして、世界最大のRPGでもある『D&D』。その最新版入門セット。通称「(新)赤箱」。
 小説『ドラゴンランス』等のアートワークでも有名なラリー・エルモアの懐かしい表紙が採用されていますが、中身は最新版。
 この「赤箱」内に入っている「プレイヤーの書」はゲームブック仕立てのソロ・アドベンチャーであり、プレイしながら自然にD&Dの遊び方を学ぶことができます。「プレイヤーの書」に接続して遊ぶことのできるソロ・アドベンチャー「幽霊塔の冒険」もD&D日本語版公式サイトで無料公開されており、新時代における会話型RPGとゲームブックの架け橋ともなりうる作品だと言えるでしょう。(岡和田晃)

ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版スターター・セット [大型本] / ジェームズ ワイアット, ジュレミイ クロフォード, マイク ミアルス, ビル スラヴィクシェク, ロドニー トンプソン (著); 桂 令夫, 岡田 伸, 北島 靖巳, 楯野 恒雪, 塚田 与志也, 柳田 真坂樹 (翻訳); ホビージャパン (刊)

・『D&D第4版 スターター・セット』プレビュー(「プレイヤーの書」の前半が無料公開されています)
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/4th_starter/index.html

・ソロ・アドベンチャー「幽霊塔の冒険」(PDFファイル)
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/support/files/4e_ghost_tower_of_the_witchlight_fens_jp.pdf

・たっぷり冒険を楽しんだら、1へ戻って別の選択肢をあたってみてもいいし、さらなる冒険の旅に乗り出すことにしてもいい。進むべき方向を決めるのは君だ!