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市立小樽文学館企画展「テレビゲームと文学展」レポート


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市立小樽文学館企画展「テレビゲームと文学展」レポート

  岡和田晃 (協力:玉川薫(市立小樽文学館)、八重樫尚史、高橋志行)

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 2012年8月11日から9月23日まで、北海道の小樽市にある市立小樽文学館において、「テレビゲームと文学展」という企画展が開催されました。
 日本各地には様々な文学館が存在していますが、なかでも「テレビゲーム」と「文学」の関わりをテーマとして大々的に打ち出すというのは、きわめて珍しい試みです。

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【「テレビゲームと文学展」フライヤー】

 文学館というと古臭くて堅苦しいというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。けれども、そうしたイメージを払拭すべく、文学館の側も革新的な試みを打ち出すようになってきています。
 同じく北海道にある札幌の北海道立文学館では2014年2月8日か~3月23日まで、日本におけるスペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説としてのSF)の第一人者であり、北海道におけるSFファンダムの始祖的な存在である作家・荒巻義雄をテーマに据えた「「荒巻義雄の世界」展」が開催されました。同展では、スペースオペラや伝奇ロマン、あるいは脳科学や精神医学、コンピュータ・サイエンスへの関心を全面に押し出され、著名なSF作家やSF評論家を交えたシンポジウムなども執り行われました。

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【「「荒巻義雄の世界」展」フライヤー】

 小樽市は小林多喜二や伊藤整を輩出した古き良き文学の街でもありますが、加えて、荒巻義雄や川又千秋といった、スペキュレイティヴ・フィクションの代表的な作家と縁が深い街でもあります。
 その市立小樽文学館での「テレビゲームと文学展」は、会期中に1335人の来場者を集め、盛況だった模様です。2014年4月4日~6月8日の期間には、「ゲームと文学」シリーズ第二弾としまして、「ボードゲームと文学展」も開催される予定となっています。そこで第一弾にあたる「テレビゲームと文学展」の模様を、簡単にご紹介してみたいと思います。

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【会場写真】

 展示は、大きく第一部「テレビゲーム史」、第二部「ゲームを生んだ文学、文学を生んだゲーム」、第三部「テレビゲームと文学の身体性・双方向性」に分けられます。
 第一部の冒頭に掲げられたコンセプトは、下記のようなものです。このコンセプトに加えて、黎明期から家庭のエンターテインメントとして定着するまでの「テレビゲーム史」が、1952年のコンピュータと対戦する三目並べ『OXO』の登場にまで遡る形で解説されます。

 テレビゲームは、1950年代に生まれ、80年代の家庭用ゲーム機の爆発的普及で、日本、さらに国際的にも世代を超えた遊びになりました。
 テレビゲームは、それよりはるかに長い歴史をもつ「書物による文学」と密接な関係があります。
 またテレビゲームの双方向性(遊び手によって物語自体が変化していく)と体感性は、従来の読書における作者と読者の関係にも変化をもたらしています。
 そしてテレビゲームで定着した複数の遊び手の同時参加により物語が変化するおもしろさは、ネット小説を生み出す原動力になり、文学の未来をも予感させます。
 この企画展は、テレビゲームと、その下地となったパーソナルコンピュータ技術、そして伝統的な文学の歴史を紹介し、相互の影響を考察しながら、テレビゲームを「文学的視点」で見直すものです。
 本展にあたり、多大なご協力をいただいた方々に、心より御礼申し上げます。

 第二部では、まず「世界の神話・民話・伝承・古典」と題して、『ギルガメッシュ叙事詩』、『ラーマーヤナ』、『聖書』、『古事記』、『イーリアス』、『アーサー王伝説』、北欧神話や御伽草紙が、「そのほとんどが作者不明で口承(こうしょう)で伝えられました。あらゆる物語の母胎(ぼたい)であり、ファンタジー文学の原郷(げんきょう)であり、おおくのテレビゲームの主人公が活躍(かつやく)する世界でもあります。」と紹介されました(年若い参加者でも理解できるように、適宜ルビがふられています)。
 続いて、「文学とテレビゲームをつなぐカギ、それが「テーブルトークRPG」」と題して、アナログゲームそれも会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)の役割が、次のように強調されました。

 「テレビゲームと文学展」で、もっともたいせつなカギになるこの「TRPG(テーブルトークアールピージー)」について、うんとかんたんに説明しましょう。
 テレビゲームがすきな人はもちろん、やったことのない人、きょうみのない人でも「ドラクエ」は知っているでしょう。
 そのゲームは「勇者(ゆうしゃ)」が主人公であり、それはゲームをするあなたです。「勇者」はひと
りで旅をはじめますが、とちゅうで出あった戦士(せんし) 、魔法(まほう)つかい、商人(しょうにん)、あそび人(にん)が仲間になります。たたかった敵がともだちになり仲間(なかま)にくわわることさえあります。
 旅にはいろいろな困難(こんなん)がまちうけています。大嵐(おおあらし)や火山(かざん)、まよいこんだら出るのがむずかしい洞窟(どうくつ)。そしておそいかかってくる敵。
 とくいな力、欠点もある仲間とたすけあいながら困難をのりこえ、そのたびに「勇者」も仲間たちも成長していき、智恵(ちえ)も力もおおきくなっていきます。
 またその力にふさわしい「聖(せい)なる剣(けん)」なども手にすることができるようになります。
 そして最後にまちかまえている最大最強(さいきょう)のとりでと敵。それをのりこえ、たおさなけれ
ば「勇者」は「ほんとうの勇者」になることはできません。
 このようなゲームは、何かににていると思いませんか? 映画「ロード・オブ・ザ・リング」、その原作「指輪物語(ゆびわものがたり)」。そして「ナルニア国ものがたり」「ゲド戦記(せんき)」。「ネバー・エンディング・ストーリー(はてしない物語)」「モモ」。映画の「スターウォーズ」さえ、そのながい物語はまるで「ドラクエ」のようです。
 これらの物語は、世界じゅうに古(ふる)くからつたわる神話や伝説におおくのヒントをえています。だから国や年にかんけいなく、たくさんの人たちの心をとらえ、感動させます。
 これらの物語をどだいにして、それをみんなであそぶゲームにしたのが「テーブルトークRPG」です。ゲームに参加する人たちが、それぞれ「戦士」になり、「魔法つかい」や「妖精」になり「商人」や「あそび人」になったりする。みんなはこの国におおきな災難があることをしって、それを解決するために、つれだって旅にでます。そしていろいろな困難にであい、そのつど力をあわせてのりこえていきます。
 この「テーブルトークRPG」こそ、「ドラクエ」「ゼルダ」「ファイナルファンタジー」など、みんながだいすきなテレビゲームのもとになった遊びであり、「文学とテレビゲーム」をつなぐもっともたいせつなカギなのです。

 それにあわせて、何も知らない人でも理解できるように「TRPGとは?」といった解説、「ミニチュアを使用した戦争(ウォー)ゲーム」の古典であるH・G・ウェルズがデザインした“Little Wars”に、同作をルーツに持つ(『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の前身)でもある戦争ゲーム“Chainmail”の解説を含んだ「TRPGの誕生と発展」、さらにはゲームブックやリプレイの説明なども盛り込んだ「日本のTRPG」といった解説パネルが掲示され、実際に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版の「赤箱」、『ルーンクエスト』といったRPGのボックスが展示されました。
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【RPGのボックス展示(写真は「日本一周ぶらり旅」さまより引用)】

 とりわけ面白いのはプレイバイメール(郵便を使って遊ぶRPG)風の企画「ヲタブンQuest 往きて還りし物語」が実際にプレイされたことでしょう。「往きて還りし物語」とは物語の基本的な構造で、現在映画化されて大変な好評を博しているJ・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』でも採用されています。この企画は北海道大学RPG研究会が協力し、20人もの参加者を集め、好評を博したということです(北海道大学RPG研究会のほかにも、今回の「テレビゲームと文学展」には、藤井昌樹さま・宮崎佳奈さまが、パネルの文章執筆やゲームデザイン等、さまざまな協力を行っておられます)。
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【「ヲタブンQuest」で使用された各種シート】

 第三部では、「身体性」および「双方向性」という、ゲームを考えるにおいて欠かせない視点から、アクションゲーム、格闘ゲーム、体感推理ゲーム、ノベルゲーム、といった試みと「文学」の関係が模索されました。
 「身体性」が主軸となるアクションゲームを分析するにあたっては、「距離」や「間合い」といった視点が不可欠だとの指摘がなされ、ハードウェアやインターフェースの性能向上とともに、3D-CGのような三次元の感覚、あるいは体感型コントローラーの導入などが行なわれてきたと説明されます。面白いのは、直木三十五の剣豪小説『討入』と対比することで、そこにも「文学」とリンクする可能性が存在していることが、きちんと明示されていることでしょう。

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【「テミヤ線ファイター」(小樽文学館の側にある廃線・旧手宮線での格闘ゲーム)】

 それは、「体感型推理ゲーム」の紹介にあたっても同様で、証拠品が袋にとじこんであり、ゲームブックの嚆矢として語られることもある『マイアミ沖殺人事件』(デニス・ホイートリー)との対比で、名詞と動詞の入力で行われる初期のアドベンチャーゲームから、コマンド選択式のアドベンチャーゲームなど、ゲームシステムの違いをわかりやすくヴィジュアルで紹介しています。
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【ゲームシステムの変化が一目瞭然】

 その他、太宰治の『走れメロス』を横スクロール型のアクションゲームにしたらどうなるのかがシミュレーションされたり(『ベストセラー本ゲーム化会議』を彷彿させます)、あるいは小樽文学館の「色内広場」を舞台のオンラインゲームが構想されたりと、既成の枠組みにとらわれず、遊び心いっぱいに文学館という「場」を活かしながら、改めて「文学」のあり方が再考されているのが興味深く感じました。

 むろんここで紹介したのは、「テレビゲームと文学展」の一部にすぎません。ほかにも、展示に合わせてさまざまな参加型の企画が行われました。
 地域の文化を守り育てるために文学館が果たしている役割は、予想外に大きなものです。
 文学館に所蔵された資料のなかには、そこでしかアクセスできない貴重なものがありますし、学芸員の方々による工夫をこらした展示によって、文学を「そこにある、生のもの」として感じ取ることが可能です。
 それは、一人で本を読む経験とは、また学校で習う国語学習とは異なる展望を、私たちにもたらしてくれると確信します。
 「身体性」と「双方向性」に着目した「テレビゲームと文学展」は、知識の修得と実際の参加をうまく両立させた、意欲的な試みであることは間違いないでしょう。
 展示にあたっては著作権侵害などの恐れが生じないように工夫を凝らしつつ、企画展開催中は、会場の撮影やインターネット上での公開を積極的に推奨することで、広く浸透をはかったのことですが、そのような”開かれた”アプローチも興味深いところです。
 今年4月から開催される「ボードゲームと文学」展が、ますます楽しみになりました。

 快く資料の提供と公開許可をいただきました、市立小樽文学館の玉川薫副館長に改めて御礼申し上げます。

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企画展「ボードゲームと文学」

企画展「テレビゲームと文学」に続く、「ゲームと文学」シリーズ第2弾。
世界各地で根強い人気があるボードゲーム。その内部に組み込まれた「物語」に着目し、文学との接点を探ります。また、ゲームの盤面デザインやパッケージイラストなどアート的側面も紹介します。親子で楽しめる展覧会です。

1.魔法ゲーム「魔法のラビリンス」他
2.冒険ゲーム「小さなドラゴンナイト」他
3.おばけゲーム「3匹のおばけ」他
4.推理ゲーム「アロザ殺人事件」他
5.海賊ゲーム「海賊ブラック」他
6.動物ゲーム「やぎのベッポ」他

その他にも楽しい企画が盛りだくさんです。

会期:2014年4月4日(金)~6月8日(日)
休館日:月曜日(5月5日を除く)、4月30日(水)、5月7日(水)~9日(金)、13日(火)
入館料:一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料

市立小樽文学館公式サイトより引用。