【テーマ連載】CBT的アプローチのセッション運営(第1.5回)


【テーマ連載】CBT的アプローチのセッション運営(第1.5回)

伏見健二、岡和田晃

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Analog Game Studiesに、伏見健二さまによる「CBT的アプローチのセッション運営(第1回)」(初出:「ブルーフォレスト通信1」、グランペール、2010)をテーマ連載の第1回として再掲したところ、各方面より大きな反響をいただきました。すでに、(公式窓口である)Analog Game Studiesの公式メールアドレスに寄せられたご意見「私がTRPGをセラピーとして使わない理由」(早瀬以蔵)を、対論として全文掲載させていただいております。

続く本記事は、主として早瀬以蔵さまのご批判に対し、執筆者である伏見健二さま、Analog Game Studies代表の岡和田晃が応答を行なうとともに、本連載「CBT的アプローチのセッション運営」の今後について語るものです。(岡和田晃)

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●伏見健二の応答

寄稿くださった早瀬以蔵先生、WEB上にてご指摘とご教示をくださった滝野原南生先生をはじめ、本論へのご意見やご批判、危険性についての迅速なご指摘に感謝いたします。

論の進行と共に、その実運用、危険性や限定性についてと段を踏んで言及する予定でありました。

しかし本論が治療をテーマとするものであることを踏まえ、そのリスクに対してより慎重に扱うべきものであるということ、それはむしろ『最初に』提示するべきであった、また、この論が「独り歩き」する危険が多大にある、とのご批判はたいへんに的を射たものであり、首肯いたします。

よって、以下、危険性について強調しておきます。

この論を全論、非公開化するべきだとのご意見もありますが、欠点を確認し、その修正を共有する、という意義もふまえ、また、今後とも会話型RPG(TRPG)シーンにおいて精神保健の知識の啓蒙と、問題共有するという意図において、反論や危険視の声も含めての継続公開をAnalog Game Studiesにお願いいたしました。

・本論は、知識の未熟な者をもって治療行為・医療行為をするようにと誤読させる危険をおおきく孕んでいる。

・TRPGのセッションが、治療効果をうたって人を集めることにより、政治活動、宗教活動、あるいは詐欺をはじめとする犯罪等に悪用される恐れがある。

・セラピーセッションが成功するとは限らない。このセッションによって、クライアントが治療効果を得られなかったために悲観を深める危険性がある。そのときに、ゲームコミュニケーションだけではその方への継続的な支援の手が届かない。

・セラピーセッションはTRPGそのものの楽しみとはまったく異なる目的手法であり、TRPGという娯楽の形式を誤認させ、その理解と拡大を歪める危険性がある。

一方、TRPGの有効性/特殊性に対して、また「娯楽」の概念定義に関しては異論、異説もある件かと存じます。私も考えを深めてゆきたいと思います。

そして、以下の形を現在の持論として述べさせていただきたいと思います。

・TRPGをはじめ、対人コミュニケーションをその娯楽の根幹とする趣味においては、障害や疾病の理解を深め、受容を高めるべきである。

・障害や疾病を持っていても、ほとんどの場合、本人はそれをコントロールできており、また、良質な娯楽を必要としている。彼ら/彼女らは愉快で魅力的な仲間であり、なんらかのコミュニケーション障害を理由として過度に危険視する必要はない。

・基本的な知識を持つ者が配慮をもってTRPGを一緒に楽しむことで、大きな相互支援効果を上げることができる。

最後に、この論考について、より多くの方に周知され、説を深めるべきとの意図を持って掲載を決断され、また、識者各位からの意見を集めてくださったAnalog Game Studies代表岡和田晃氏に深く感謝いたします。早瀬以蔵さまのご批判をふまえたうえで、今後Analog Game Studies上で公開していく内容につきましては、ソーシャルワークとTRPGとの関係を主軸とした研究と実践の模索という形に方針を変更させていただき、公開すべき進展がありましたら、その成果をご報告させていただきたいと考えております。

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伏見健二(ふしみ・けんじ)
1968年東京生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒。作家、ゲームデザイナー、介護福祉士。
日本の主要なアナログゲームクリエイターのひとり。21歳の時に代表作であるテーブルトークRPG『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー)を発表。小説家としても多数の作品を発表する。冒険企画局に所属の後、テーブルトークRPGの専門集団(有)F.E.A.R.の設立、小規模出版によって多様なゲームシーンを発掘紹介する(株)グランペールの設立と相次いでゲーム企業の設立に携わる。またインターネット黎明期に千人の会員を持ったWEB上ゲームサークルG99の主催者でもあった(現在は解散)。
介護を本業とする現在も、福祉資格取得の講師やスキルアップセミナーの講師を行いながら、ゲームデザインや出版やイベントに携わり、ことに小規模出版の支援や障害者支援に力を入れて幅広い活動を行っている。

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●岡和田晃の応答

本テーマ連載は、Analog Game Studies代表岡和田晃によって企画・推進されました。

岡和田晃が「CBT的アプローチによるセッション運営(第1回)」(以下、「本稿」)をAnalog Game Studiesでの公開に値すると判断したのは、次の3点を理由とします。

・会話型RPG(TRPG)の運用メソッドを、新たな社会的文脈へと繋げていること。

・会話型RPGの運用メソッドという形式を通じ、精神保健の啓蒙を推進していること。

・会話型RPGの現場では往々にして見過ごされがちな事態について、改善の契機となりうること。

本稿の再掲にあたっては、Analog Game Studies内の当記事への査読担当者による査読を行ないました。結果、原則として文面を変化させる必要はないという結論に至りました。その理由は、大きく分けて以下の4点になります。

・「ブルーフォレスト通信」の他の記事とは内容的に独立した記事であり、例えば『ブルーフォレスト物語』を知らなくても理解することができる。

・初出のままで掲載したほうが、本稿の先進性が読者の方に伝わりやすい。

・本稿の鋭角的に打ち出された問題意識、ならびに会話型RPGという表現を通じて「前に進む」意志は、それ自体として固有の価値がある。

・本稿はすでに、(精神科医を含む)精神保健や臨床の専門家、あるいは相互支援の現場にいる方々から高い評価をうけていた。

これらの理由から、伏見健二さまと相談のうえ、原則として初出のままで公開することとした次第です。

岡和田晃、ならびにAnalog Game Studiesにおける「CBT的アプローチのセッション運営」査読担当者(以下、「私たち」)は、公開後も本稿で問われた問題についての議論を重ねてきましたが、私たちは、これまで会話型RPGにおいて、プレイヤーマナーの問題としてのみ考えられ、プレイヤーへの批判や排斥につながってきた問題が、「CBT的アプローチのセッション運営(第1回)」によって、神経由来の障害や疾病の問題、ひいては個性の違い(*)とも受け止められる事例だということが明らかにされたところに、本稿の最も大きな可能性を見ています。

(*)現在、障害の分野ではICFの考え方(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html)というものが主流となっています。すなわち、障害(や疾病)があっても、それは機能において評価されるべきである、また機能への支援がなされるべきであって、障害(や疾病)があることと「人格」に欠点・問題・欠損があることを混同しないという視点です。

それゆえ私たちは、伏見健二さまの指摘はゲームの場に起こることを説明するうえで、大きな一歩たりうると考えております。そして受容や解決の道のりの模索がなされていることは、古くから存在している問題を解決するための、新たな視点であるのは間違いありません。

近年、福祉の現場において、(「医者‐患者」という関係に留まらない)クライアント同士の相互援助の重要性が説かれ、また実践が模索されています。とすれば、相互支援の考え方を前提としたうえで、会話型RPGが選択される可能性もあるのではないでしょうか。会話型RPGが独特で他に代えがたいものであるなら、それは固有のベネフィットたりうる可能性もあるのではないでしょうか。

しかし私たちはまた、寄稿された対論にある早瀬以蔵さまのご指摘をも真摯に受け止めます。

そして私たちは、伏見健二さまが「CBT的アプローチのセッション運営(第1.5回)」で改めて強調した、危険性についての問題意識を共有します。そのうえで、会話型RPGをはじめとしたアナログゲームと精神保健の問題について、継続して思考の材料を提示していくこともまた、アナログゲームの可能性を広げることにもなると考えます。

それでは本応答をもちまして、「CBT的アプローチのセッション運営(第1回)」についての対論・対論への応答の流れはいったん締めさせていただきます。ただし、ご意見は継続して承りますので、ご意見をお持ちの方は、「活動趣旨」にも掲載されている公式窓口analoggamestudies1★gmail.com(★→@)にまで、メールにてお寄せいただけましたら幸いです。

寄稿依頼に応じてくださり、また数々のご配慮をいただきました伏見健二さま、対論をお寄せいただいた早瀬以蔵さま、ならびに読者の皆さまに深く感謝いたします。

一方、「CBT的アプローチのセッション運営」(第1回)、および「私がTRPGをセラピーに使わない理由」の議論を通じ、精神保健の基礎的な知識の習得に関心が生まれた方は、その一助として、以下のウェブサイト等の情報を参照されてはいかがでしょうか。

・「発達障害者理解のために」(PDFファイル)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/hattatsu/dl/01.pdf

・「みんなのメンタルヘルス総合サイト」
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html

一般書店で容易にアクセス可能な入門書を一冊挙げるとしましたら、星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』(祥伝社新書 190)が参考になります。
発達障害に気づかない大人たち (祥伝社新書 190) [新書] / 星野仁彦 (著); 祥伝社 (刊)

その他、関連分野の専門書にも触れていただければ幸いです。

なお、「ブルーフォレスト通信2」(グランペール、2010)には、本稿の続編「CBT的アプローチのセッション運営(第2回)」が掲載されています。

これは「ブルーフォレスト通信2」に掲載されたもので、「軽度の不安神経症を抱え、コミュニケーション障害の悩みを抱えるクライアントをモチーフに、ソーシャル・スキル・トレーニングの視点で、その行動の積極性を高めるため」の実例を、会話型RPGのセッションを通じて考えるものとなっております。

イメージしてください。あなたに、軽度の不安神経症を抱え、コミュニケーション障害の悩みを有している友人がいたとします。その友人が会話型RPGをプレイしたいと言ってきた場合、あなたはどのようにふるまうべきでしょうか?

こうした問題を、「CBT的アプローチのセッション運営(第2回)は、コミュニケーションの位相から考えるものとなっております。つまり、介護の現場での経験を通して試行錯誤を続けてきた、一人のクリエイターによるシミュレーションが提示されているのです。

「CBT的アプローチのセッション運営(第2回)」は、第1回の内容を前提として書かれた記事ですから、早瀬以蔵さまのご指摘、ならびに本稿で強調された「危険性」の確認は、第2回を読むうえで大いに役立つでしょう。

「ブルーフォレスト通信2」も、併せてご覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)
ブルーフォレスト通信2 / グランペール

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
CBT的アプローチのセッション運営(第1.5回) by 伏見健二(Kenji Fushimi)、岡和田晃(Akira Okawada) is licensed under a Creative Commons 表示 – 継承 3.0 Unported License.