アナログゲームのユニヴァーサル・デザインに向けて:RPGのナラティヴとコミュニケーションを考える


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アナログゲームのユニヴァーサル・デザインに向けて
――RPGのナラティヴとコミュニケーションを考える――

冠地情×岡和田晃
(冠地情:ピアサポート・グループ「イイトコサガシ」主宰)
(岡和田晃:Analog Game Studies代表、ゲームライター/文芸評論家)

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去る2011年11月23日に「Mission Imposible 01――発達障害と想像力の世界」というイベントが開催されました。
こちらは、「会話型RPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム、TRPG)が好き、もしくはRPGに興味のある発達障害の当事者、発達障害支援に関わる支援者・専門家と、RPGの専門家とが一堂に会し、会話型RPGを楽しむコラボレーションイベント」のことを意味します。

ピアサポートグループ・イイトコサガシ、そして、広汎性発達障害に関わる精神医療の専門家が参加する明神下ゲーム研究会(旧称:明神下TRPG研究会)の共催となっているこのイベントに、アナログゲームのクリエイターや研究家からなるプロジェクトAnalog Game Studies も協力させていただきました。

Analog Game Studies では、明神下ゲーム研究会に参加し、「会話型RPGと教育」、「会話型RPGと発達障害」、「会話型RPGとナラティヴ」などの観点から、ゲスト講師を交えつつ、さまざまな議論を重ねてまいりました。その経験を実地で活かそうというのが、今回実現した「Mission Impossible 01――発達障害と想像力の世界」というイベントなのです。

「Mission Impossible」では、Analog Game Studiesからは岡和田晃、齋藤路恵、田島淳がゲームマスター、八重樫尚史がプレイヤーとして参加しました。またAGSからの協力者はイベントの開催に先駆け、ピアサポートグループ・イイトコサガシの代表、「冠地情」(かんち・じょう)さまの主宰する発達障害ワークショップに参加し、発達障害の方々と現場でコミュニケーションを交わしてきました。

以下の記事は、発達障害および精神保健について、読者がある程度の関心と基礎知識をお持ちいただいていることを前提に書かれています。『アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?』など、各種資料等をあらかじめご参照のうえ、読み進めていただけましたら幸いです。
また、以下の記事は各種アナログゲームを治療行為に使うことを一般に推奨するものではありません。Analog Game Studiesの情報をご利用になったことによって生じた損害・トラブル等に関しまして、Analog Game Studiesおよびイイトコサガシは一切賠償責任を負いかねますことをあらかじめご了承ください。

イイトコサガシのワークショップは、「コミュニケーション能力向上ワークショップ」と題し、演劇的な要素を交えながら、発達障害の当事者と支援者が対等な立場でコミュニケーションを楽しく試す、というものです。

ワークショップの流れは下記のとおり。

・参加のしおりの説明(10分~15分)
・自己紹介(15分~20分)
・アイスブレイキング(コミュニケーションのウォーキングアップ)(30分)
・休憩(5分)
・ワークショップの説明(30分)
・会話によるコミュニケーション能力向上ワークショップ:二人バージョン(50分~60分)

アイスブレーキングでは「アイコンタクト」や、「昨日あったことを15秒でまとめて話す。そして話が途中でも、体内時計で15秒だと思ったところで手放す」。会話によるコミュニケーション能力向上ワークショップでは、与えられたテーマで相手に2回共感し、2回質問するという目標。そして、他人の会話でよかった点をわかりやすくほめるというような内容が行なわれました。

特に興味深いのが、ワークショップで学習できる楽しくコミュニケーションを進めるための方法論が、会話型RPGのテクニック、とりわけ「ナラティヴ」(語り)のあり方に深くつながりそうなところです。

もちろん、RPGの「ナラティヴ」が治療行為ではないように、イイトコサガシのワークショップも治療行為ではありません。イイトコサガシのホームページでは、ワークショップの形式について、下記のような説明がなされています。

形式:当事者会(自助会)であり、セルフケアグループ(ピアサポート)です。
トラブルが発生しない運営を*最優先*しています。
ワークショップ内でトラブルが起きたことは一度もありません。

【お願い事】後々のトラブルを回避する意味で、このワークショップに参加した場合の影響について、事前に主治医、専門医に相談していただくことを強く推奨致します。
(当事者が主催している会であること、当事者同士で行うワークショップであること、支援する専門職の同席が原則ない等を、ワークショップ資料(http://iitoko-sagashi.blogspot.jp/2010/11/blog-post_23.html)を基に説明していただけると助かります。参加の是非、参加した場合の影響はイイトコサガシでは判断できませんし、その後の責任も負いかねます)。
未診断の方もご参加いただけますが、イイトコサガシでは参加後一切の責任を負いかねます。あらかじめご了承の上、ご参加下さい。

そこで、2011年10月23日に東京都練馬区で開催された第151回イイトコサガシ・ワークショップ終了後、イイトコサガシの代表である冠地情さまに、「発達障害当事者会のワークショップと会話型RPG」という観点から、お話をうかがってみました。ちなみに冠地さまは、『ルーンクエスト』など、海外ゲームを遊びこんできたベテラン・ゲーマーでもあります。

 ※すでにAnalog Game Studiesでは、顧問の草場純氏による「会話によるコミュニケーション向上ワークショップ(イイトコサガシに参加して)」を公開しております。併せてご覧ください。

■イイトコサガシの出発点

岡和田:はじめてイイトコサガシのワークショップに参加させていただき、とても感銘を受けました。とりわけ、日常生活で意識を向けることのない「話し方」(ナラティヴ)のあり方について、改めて考えなおすきっかけとなったように思います。
冠地:ありがとうございます。
岡和田:このようなワークショップを企画された背景は?
冠地:中学3年生の時に演劇のワークショップに参加したのが出発点です。宮沢賢治の「ツェねずみ」という作品を発表するワークショップでした。そこに参加して良かったのは、親以外の大人とコミュニケーションできたことですね。高校では、「青梅青年の家」というところで、『竹取物語』を全12回で上演するという宿泊型のワークショップに参加しました。そこで、「あーでもない」「こーでもない」と試行錯誤してかぐや姫のいち場面を創り上げるのがとても楽しかった。こうした活動が、僕の原点です。
岡和田:演劇経験を福祉の分野に活かそうという意識は、いつ芽生えたのですか?
冠地:僕が32、3歳の時に「燃え尽き症候群」的になって、偶然『ジャイアン・のび太症候群』という本を表紙だけ見て「中味を見たいけど、開けたらブラックボックスを覗いてしまう」という恐ろしさを自覚したのが最初です。その本についてネットで調べたのですが、そうしたら「発達障害」の説明に行き当たって、まさに「俺じゃん」と。つまり、発達障害を自分の問題として捉えられるようになったのですね。その後、発達障害関連のオフ会に出るようになって「コミュニケーションに関して言えば、僕は経験も素養も恵まれていたんだな」と思うようになりました。出会いや自分を試すチャンスに恵まれていたんです。そこで、僕のような相対的に言えば「恵まれている」人間が動く必要があるだろうと。自分のコミュニケーションのベースを活かして、当事者会をやるべきだろうと。
岡和田:立ち上がられたわけですね。
冠地:ええ。僕をオフ会に誘ってくれた人は「コミュニケーションが苦手だけれども、そのような自分をどうにかしたい」という動機で、オフ会をずっと継続開催していたんです。その人がある日、僕を遊びに誘ってくれて、何も言わず2時間くらい歩きました。その後に、「情さんはなぜ当事者会をやらないのですか?」と言われたんです。
岡和田:冠地さんが適任だと見込まれたわけですね。ただ、試行錯誤をしていくうちに、おそらく、さまざまな問題も生まれてきたと思うんですが……。
冠地:トラブルが起きて、運営が疲弊して、当事者会が解散して……。という流れを、僕らは1年半の準備期間のうちに、すごくたくさん耳にしていたんですね。そうならないようにするにはどうしたら……という点からイイトコサガシの運営はスタートしました。
岡和田:イイトコサガシは何年から始まったのですか?
冠地:2009年の11月ですから、まだ2年経っていないんですが……。
岡和田:それで151回のワークショップ開催ですから、アクティヴなミュージシャンのライブ本数みたいですね。(編注:※2012年7月現在で250回以上。)
冠地:9都府県ですから、さしずめツアーといったところですか(笑)。で、トラブルが起きないようにと気を配りつつ、「なぜそもそもトラブルが起きるのか?」という点を追究していくと、「ルールが曖昧だから」という点に行き着いたんです。発達障害の当事者会って、よく言えばフリーダムなルールで運営していたところがほとんどなんですが、それだと問題が起きた時に、当事者会の運営にぜんぶしわ寄せが来ちゃうんですよね。(※2012年7月現在で28都道府県で開催。)
岡和田:運営側の監督問題にされてしまう。
冠地:ええ。口幅ったい言い方かもしれませんが、僕はトラブルシューターとして当事者会に参加したいわけじゃありません。カスタマーズ・サポートをしているわけでもありません。当事者の中には往々にして「無意識に、自分を被害者にして、ある誰かを加害者にすることで、自分に興味を持ってもらう」という処世術をとってしまう人がいます。もちろん悪気があってのことではないのですが、そういう人が入ってしまうと、トラブルが起きる頻度が上がります。だからルールを明文化して、「こういうことが起きたら、こういう対応をしますよ。それに納得した人だけ参加してください」と方針を、リスク・ヘッジの基本として掲げてきました。納得した人に来てもらうことで「ワークショップを楽しくやりたい。安全にやりたい」という理念を守ることができます。
岡和田:よくわかりました。それでは、当事者会に参加することで、発達障害の当事者の方には、具体的にどのようなメリットがあるとお考えでしょうか?
冠地:人に共感してもらうことができます。イメージでいえば、アルコール依存症の「断酒会」のようなものですね。心に傷を持っている同士が、そこで癒されます。「自分と同じように苦しんでいるんだなあ」と。発達障害の人は、極端な思考に走ってしまう部分がありますが、それを、みんなで話すことで、和らげるという効果があります。
ただ、最初はいいんですが、共感してもらうだけだと、苦痛を和らげる効果しかありません。次のステップに行けるかというと、難しい面があります。最終的には、個人の「能力」の話に行き着いてしまいます。就職するのは能力だし、恋人とうまくやるのも能力だし……といった具合に。
だから僕は「次のステップ」へたどり着くための場として、イイトコサガシがやっているような演劇の要素があるワークショップを提示しているのですね。それと、イイトコサガシが発足する当時、オープンでやっている当事者会って少なかったんです。同じ思いを抱く仲間を見つけるまで苦労したので、「イイトコサガシ」で検索すれば、すぐに出てくるようにしたかったのです。
岡和田:「次のステップ」について、もう少し詳しくお聞かせください。
冠地:みんな就労支援や(具体的な)能力開発を期待してしまうんですが、うちのワークショップに出ることが直接就労に結びつくことは、普通に考えてありえません。でも、逆にいえば、うちのワークショップで行なっているようなコミュニケーションを楽しめないと、友だちができる可能性も、就労ができる可能性も少なくなってしまうと思います。
僕がいつも説明しているのは、ワークショップで養成されるのは「自分のことを、わかりやすく相手に伝える能力」。自分の思っていることや考えていることを正しく説明することへの気付きになるんですね。それが不十分だと、社会生活を行なううえで、いつもすれ違ってしまいます。
もう一つは、「自分のわからないことを質問して埋められる能力」。これができると、職場や友だちとの人間関係もうまく築けるようになります。この2つの力をいかに養成していくかが、ワークショップのテーマになっています。

■ナラティヴ・スタイルに必要なもの

岡和田:ところで、冠地さんはイイトコサガシでのファシリテーター(促進役)経験を生かす形で、ナラティヴ(「語り」)を中心に据えた会話型RPGのデザインや運用について考えておられるとお聞きしました。奇しくも門倉直人さんの『ローズ・トゥ・ロード』の最新版など、リアルに物理的事象を表現するだけではなく、「語り」を通して私たちの世界観を異化させ、「リアル」の定義を刷新させるタイプのRPGが、近年注目を集めつつあります。こうしたスタイルを私は「ナラティヴ・スタイル」と呼んでいますが、この点、いかがお考えでしょうか。
冠地:まず「語り」を大事にするという意味合いからすると、「ルールシステムを理解できないと参加できない」という敷居の高さは無くしたいところです。
岡和田:なるほど。ナラティヴの観点からRPGを考えた際、まず共通した問題点として存在するのは、ナラティヴそのものに共通したノウハウそのものが、まだまだ足りていないということでしょうね。
冠地:ええ。それは結局、有能なマスターが個人の能力をもとに運営していく。ゲームマスターのパーソナリティに担保していたものとなっています。
岡和田:もっとコミュニケーションに寄り添った形で、マスタリング・テクニックを再整理していく必要性があるのかもしれません。
冠地:イイトコサガシのワークショップは、いわばナラティヴの枠組みを明文化する作業なんですね。
会話型RPGは枠を作ります。ですが、枠を創ったから狭い世界というわけではなくて、枠を創ったからこそ世界が広がる面もあります。つまり枠そのものを、より「クリエイティヴ」なものとしていきたいんです。
岡和田:非常に面白い考え方です。壮大な作業が必要となると思いますけれども、まずは、相手に向きあって話すナラティヴ・スタイルでのプレイ経験を少しずつアウトプットしていくところから、始めた方がよいかもしれません。
冠地:機会を増やし、ノウハウを蓄積していくということですね。
岡和田:ええ、起こりうる行動パターンがルールにおいて網羅され、厳格に成否を判定できるルールが搭載されたゲームよりも会話を中心とするナラティヴ・スタイルのゲームのことを、より運用が難しいと思う人もいます。
冠地:確かに、そういう面がありますね。
岡和田:そのあたりの溝を埋めるために、コミュニケーションのためのガイドラインというものが存在していると思います。だとえば『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版の『ダンジョン・マスターズ・ガイドII』には、コミュニケーションのための手引きが沢山載っています。子どもと遊んだ例なども紹介されています。そうした実例も参考になりますし、一方で「コミュニケーションとはこういうものです」という一般的な規則や指針から、少し距離を置き、いったん深く潜ってものごとを考えてみるのも大事かと。
冠地:あるいは、コミュニティの安定感を保つためのルールと、コミュニケーションを促進させるためのルールを切り分けて考えることで、得られるものもあるでしょう。
岡和田:ええ。それに、冠地さんのように、発達障害当事者の方が、RPGをプレイして、「発達障害の人とコミュニケーションすることの意義」ことをアピールすることは、個々のプレイヤーにより向き合っていく姿勢にも繋がると思うんです。そうして「ナラティヴ・スタイル」の考え方が技術として共有されれば、もう成功したも同然です。
今回はじめてワークショップで当事者の方と対等な立場でお話しましたが、当事者の方は、ともすると支援者の方以上に、「よりよいコミュニケーションとは何か」ということを考えていらっしゃいますね。そのような改善のための問題意識というものから――私たちが学べるものも大きいと思います。
冠地:アウトプットを蓄積していきましょう。マスターとプレイヤーに、楽しんでもらう。プレイリポートを書いてもらう。支援者さんに書いてもらい、当事者さんにも書いてもらう。そうして、どうすればもっと楽しくコミュニケーションができるのか考える。
岡和田:「Mission Impossible」コンベンションのような場が、そうしたきっかけになれば、嬉しいですね。
冠地:特に当事者と支援者、あるいは障害の立場、共有されたルールがどのようなものかを明確化したうえでのレポートがあればいいですね。
岡和田:障害の実体は、普段、関わる機会が少ない人には見えづらいと思いますので、余計に重要かと思います。
冠地:発達障害の人と支援者さんが同じ卓を囲んでRPGを遊び、そのフィードバックの積み重ねが、ナラティヴ・スタイルの「初級者コース」に連結できたらと思います。いきなり熟練者としての「語り」を求めてしまうから、ナラティヴ・スタイルが万人向けではない、ということになってしまう。しかし、ナラティヴの技術は上達できます。個人差はありますが、段階をふんで行けば、必ず。
岡和田:イイトコサガシのワークショップでは、「昨日は何をしていましたか」というように、自分のことを話す機会が多かったのですが、自分について語るのが得意な人もいれば、私のように(笑)、極端に苦手な人もいると思います。
ただ、それらもいわば個性ですよね。そこから、新しい物語が生まれるとも思うんです。
冠地:標準的なコミュニケーションとは異なる視座から「キャラクター・メイキング」を行ない、仮想の人格を構築することで、話すということに意味が生まれることもあります。
岡和田:自分を掘り下げるという内省的なイメージと、自分を積み上げていくという構築的なイメージが交わる地点を会話で見つけ出すことでしょうか。
冠地:はい、積み上げていくことが、自分を掘り下げていくことと実はイコールということもありますから。

■クリエイティヴな雑談の形成

岡和田:能楽師として、引きこもりの青少年の支援をされてきた安田登さんの著作『身体感覚で「芭蕉」を読み直す。 『おくのほそ道』謎解きの旅』には、門倉直人さんの『ローズ・トゥ・ロード』が大きな影響を与えており、参考文献にも明示されています。同書についてはいずれ詳しく紹介したいところですが、実際、まったく分野で活躍しているように見えながら、安田さんと門倉さんの問題意識には共通した部分が、かなり多いように見受けられます。
また、ゲームデザイナーの方で、昔から「ナラティヴ」と福祉の問題について、伏見健二さんが考えてこられました。お二人の問題意識にも相通ずる部分があります。
ここで面白いのは、それぞれのお仕事を追求した結果、ナラティヴ・スタイルへたどり着いたという点ではないでしょうか。だから、冠地さんが考えるよきコミュニケーションのあり方が、より明確になっていけば、より緊密な連携ができるかもしれませんね。
冠地:伏見健二さんとは、普段からゲームや発達障害の話について、色々とお話をさせていただいています。(編注:そのひとつの成果が、伏見健二氏の新作『ラビットホール・ドロップス』に結集。クレジットにはイイトコサガシが「協力」として記載されています)
岡和田:まずはナラティヴ・スタイルの基本を第三者が理解できる形に技術としてまとめることが必要かもしれません。メンター替わりになるような、ナラティヴ・スタイルのマニュアルが必要かと思います。ナラティヴ・スタイルって良いことばかりではなく、きわめて抑圧的な部分もあると思うんですよ。
冠地:マスター主導で抑圧してしまって、プレイヤーが伸びなかったり。
岡和田:そうです。一方、うまいマスターは、相手から面白いリアクションを引き出すスキルに長けています。乗せ上手というか、絶対に技術があるんですよ。
冠地:技術論としてはピラミッド式のコースを考えています。「雑談がしやすい」がスタート。それが第一段階、次の移行手段としては「クリエイティヴな雑談」、ゲームの枠のなかで試行錯誤できる雑談がメイン。次は、「場面を創作できるような」RPG。
岡和田:そのステップアップ方式はわかりやすいですね。ジャン二・ロダーリという児童文学の作家が、机や椅子をゲームの道具に見立てる形でのお話の作り方をマニュアルにしています(『幼児のためのお話のつくり方』)。その延長線上で考えてもよいかもしれません。
RPGという方法には、ともすれば自分の抱えた偏見を強化してしまうというマイナス面も、確かにあります。ですから、ナラティヴによって、個々の偏見に向き合いながら、お互いのスタンスの違いを「話合い」で解決するというのが……。
冠地:僕のイメージに近いんですね。
岡和田:イイトコサガシのワークショップでは「Yes, and……」という、相手が投げかけてくる質問をいったんは肯定するところから始めるコミュニケーションのトレーニングがありますが、これも、自分の殻を破るトレーニングになりますね。
冠地:RPGに近づけると、「Yes,and……」の方法論は「リアリティのある話をつくる」訓練かと思っています。話を振る方も、面白い、ウィットある振り方が求められます。面白い話を振って、面白い答え方を模索する。とにかく、そうした言葉の転がし方の検討から入って、馴染んでもらわないと、ナラティヴ・スタイルのRPGには行き着かないかもしれませんね。それがコミュニケーションをクリエイティヴしていく、クリエイティヴな雑談の形成能力の構築方法に繋がると思います。
岡和田:コミュニケーションに大事なのは、必ずしも流暢に話したり書いたりする技術ばかりではなくて、真摯さを伝えるのが大事かと思います。そう考えると、クリエイティヴな雑談とは、単にウィットの利いたことをいうだけじゃなくて、いかにして真摯さを伝えるのかという作業なのかもしれません。
冠地:発達障害の人は、相手の言っていることを受け止めたうえで、ユーモアを重ねるという形のコミュニケーションをしない(できない)ことが多いと思います。相手の意見を受け止めて円滑に会話を膨らませるという行為が必要なのかもしれません。
岡和田:コミュニケーションは、勝ち負けとは違いますしね。だから、譲るべきところは、譲ってしまってよいと思います。
冠地:ただ、折れてばかりでは傷ついてしまう面もあります。イイトコサガシでは、他人の良いところをふくらませる作業をみんなでやることで、コミュニケーションを創造的にしていく。その経験を共有するというのを目標としています。
特に、発達障害の方とコミュニケーションをとったことがない方は、「障害者」というイメージを、頭の中で肥大化させてしまいやすいと思います。イイトコサガシのワークショップに参加し、当事者と対等な関係でコミュニケーションを試してみていただければと幸いです。

発達障害の当事者として、コミュニケーション能力向上のためのワークショップを主催し、その技術のより普遍的な応用を模索している冠地さまのお話をうかがいながら、会話とコミュニケーションに焦点を当てた「ナラティヴ・スタイル」のRPGの理解を促進していくためにも、障害がある人も、そうではない人もともに楽しめる、いわば「ユニヴァーサル・デザイン」の発想が必要不可欠であると感じました。
今回は会話形RPGを通して「ユニヴァーサル・デザイン」の必要性を考えましたが、この「ユニヴァーサル・デザイン」のあり方は、アナログゲームの今後を考えるうえでも、重要なものだと思います。
先日、Analog Game Studiesでは、「Mission Impossible」参加のほか、すでにイイトコサガシの協力のもとで「現代によみがえるわらべ遊びの数々」というワークショップを開催しました。これは、当事者の方と支援者の方が、一緒にわらべ遊びを楽しみ、コミュニケーションを試すといったイベントでした。

 この「現代によみがえるわらべ遊びの数々」、来たる8月22日には、第2回の開催が予定されています

今後の冠地さまのご活躍を期待するとともに、Analog Game Studiesにおいても、アナログゲームの「ユニヴァーサル・デザイン」のあり方について、思索を深めつつ、さまざまな活動を行なっていきたいと考えています。(岡和田晃)

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冠地情(かんち・じょう 本名)
1972年生。東京都成人発達障害当事者会「Communication Community ・イイトコサガシ」代表。自分が対人関係を苦手なこと・同様のことで悩んでいる当事者が多いことを実感。過去に行っていた演劇表現ワークショップをヒントに、コミュニケーションを楽しく試す当事者会を立ち上げる。各種ワークショップの開催、発達障害ラジオ「ピカッと生きる!」等の啓発活動、全国各地の当事者会立上支援等、幅広い活動を行なっている。
マンガと海外ドラマ、プロレスをこよなく愛する。

投稿者:

M.Takahashi

1984年生。社会学(相互行為論)・ゲームスタディーズ。