Castle Tintagel

海外式LARP入門ワークショップ in キャッスル・ティンタジェル体験記


岡和田晃 (協力:齋藤路恵、髭熊五郎、高橋志行)

2013年1月24日に開催された「中世ファンタジーライブRPGコンベンション カーミニアLARP」の入門ワークショップに参加してまいりました。その模様を手短に報告させていただきます。
カーミニアLARPとは、東京・目白にある中世ヨーロッパ文化発信カルチャースクール「キャッスル・ティンタジェル」で行なわれているライブアクション・ロールプレイング(LARP)です。

主催団体のキャッスル・ティンタジェルでは、ドイツ西洋剣術を中心に――服飾文化やカリグラフィーなどを含めた――さまざまな講座が提供され、楽しみながら、中世ヨーロッパの文化に親しめるような配慮がなされています。また、代表のジェイ・ノイズ氏は、デジタルゲーム『ファイナル・ファンタジーⅩⅡ』や映画『ベルセルク』の西洋剣術スタントアドバイザーをつとめた実績もあるほどで、本場の中世剣術を現代に伝えるエキスパートだと言えるでしょう。このキャッスル・ティンタジェルがどういう団体かを詳しく知るには、以下の紹介動画が手っ取り早いので、ご存知ない方は、いちどご覧になってみてはいかがでしょうか。

動画を見ると、とても面白そうですが、あまりに本格的なため、「ちょっと敷居が高いかな……」と少々不安をおぼえもしたというのが、偽らざる所感でありました。しかし、実際に足を運んでみると、アットホームで、さながら「町の剣道場」のように話しやすい雰囲気が作られており、事前の不安がまったくの杞憂であったとよくわかりました。外国人の参加者も少なくないため、ちょっとした異文化交流のような趣きがあったということも付け加えておきます。

この「キャッスル・ティンタジェル」では、通常の各種講座のほか、中世風ファンタジー世界「カーミニア」を舞台にしたLARPが定期的に開催されています。中世剣術の講座が、あくまで武道の一環として中世の技術を学ぶものだとするならば、LARPは想像の翼を広げて、「体験すること・楽しむこと」により重きを置いた試みなのではないかというのが、筆者の第一印象です。

そもそも“ティンタジェル城”といえば、アーサー王伝説ゆかりの地。史実と想像の世界のあわいに漂うような、幻想味あふれる場所です。ここから名前をとっているキャッスル・ティンタジェルは、現実の中世文化のみならず、想像の世界の中世文化をも提供するのか、まったく野心的だなあと感嘆いたしました。

LARPの舞台であるカーミニア世界は、本格的な地図(http://www.castletintagel.com/larp/Karminya/k-geo.html)や年表(http://www.castletintagel.com/larp/Karminya/k-history.html)が完備され、気品を残しながらも、どこかしら懐かしさすら感じさせるハイ・ファンタジー世界です。とりわけ『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のような会話型ロールプレイングゲームや『イルスの竪琴』といったハイ・ファンタジー文学がお好きな方にとっては、まさしく垂涎ものの世界観なのではないかと思います。
ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック) [大型本] / ロブ ハインソー, アンディ コリンズ, ジェームズ ワイアット (著); 桂 令夫, 岡田 伸, 北島 靖巳, 楯野 恒雪, 塚田 与志也, 柳田 真坂樹 (翻訳); ホビージャパン (刊)星を帯びし者 (イルスの竪琴1) (創元推理文庫) [文庫] / パトリシア・A・マキリップ (著); 脇 明子 (翻訳); 東京創元社 (刊)
キャッスル・ティンタジェルのLARPでは、何よりもまず、このカーミニア世界という中世ヨーロッパに魔法とモンスターを加えたような世界を、一人の人間(あるいはエルフ、オーク、etc……)として生きることを楽しむ、その過程に重きが置かれている印象がありました。

もちろん日本でも昔からLARPは「ライブRPG」という名前で開催されてきましたが、会場の都合や安全確保の問題など、さまざまな事情から、遊ばれるのは大幅に簡略化されたものであることがほとんどです。もちろん、日本式の「ライブRPG」にも、開催側にとっても参加側にとっても負担が少ないという長所があります。それゆえ、日本式「ライブRPG」の可能性も、さまざまに吟味されていくべきしょう。ですが一方で、キャッスル・ティンタジェルが開催しているような海外式LARPは、あえて日本式の「ライブRPG」と差別化をはかることで、どういう楽しみ方ができるのか、その特徴をより強く打ち出しているように思えます。

衣装を着替えるのは当たり前。
中世ファンタジーの世界のLARPならば、種族によってそれぞれの特徴を衣装の上に乗せます。
(例…ドワーフなら立派な髭、エルフなら長い付け耳、オークなら肌を緑色に塗ります)
実際にラテックス(柔らかいゴム)の剣で戦います。
鎧を着なければ防護点(いわゆる「防御力」)は得られません。
魔法はきちんと呪文を言葉として発します。
盗賊としてカギ開けをするなら、カギ開けの道具は必須です。

上記は、カーミニアLARPのホームページで言及されている海外式LARPならではの特徴ですが、ワークショップでは、このなかから、いくつかポイントをピックアップすることで、参加者が実際に身体を動かしながら(あるいは、ゲームマスター(チューター)が身体を動かして実践するのを目にしながら)、ひとつひとつ、LARPをプレイするとはどういうことであるのかを、感じ取ってもらうことが目的であるように見受けられました。例えば“アーケイン”(Arcane、“秘術”ほどの意)という領域の呪文を使うには、声に出して呪文(スペル)を唱えるだけではなく、必要な動作を行ない、構成要素となる物質を(現実世界で、実際に)準備しておかなければなりません。その過程を、ゲームマスターがいちいち実践して説明をしてくれるのがワークショップのよいところです。

Castle Tintagel

とりわけ筆者が面白いと思ったのは、ワークショップの後半、参加者でエチュードのようなものを行なったことです。これは3人1組で、それぞれ中世風ファンタジー世界の登場人物に成り代わったつもりで、1分間、自由に行動してみるというものでした。
使用するのは「中世風ファンタジー世界」という大枠のみ。「カーミニア」という固有名すら用いません。成り代わる人物については、“職業”と“特徴”の2点をランダムにカードを引いて決定し、細部は想像力を働かせて自由に肉付けします。もちろん、自分がどんな“職業”と“特徴”を有しているのかは、演技を通して表現しなければなりません。

用意されていた“職業”は、「騎士」「貴族」「魔法使い」「市の衛兵」「道化師」「商人」「僧侶」など。一方の“特徴”は、「意気消沈した」「悪意がある」「恋愛中である」など。それぞれ、個性的でバラエティ豊かなものが用意されていました。また、カードには日本語と英語が併記されていたため、日本人プレイヤーと、外国人プレイヤーが、スムーズに交流することもできました。

“職業”と“特徴”が決まると、参加者が見守るなか、ゲームマスターから、ファンタジーRPG風の状況説明が、日本語と英語で、それぞれ読み上げられます。この状況設定が、なんとも個性的でした。
一部を説明しますと……。

「君たちは、牢屋に閉じ込められている。裁判に引きずり出される役を、相手に押し付けなければならない!」
「君たちはダンジョンの奥で、目に見えない魔法使いと対峙した。その魔法使いは、呪文を唱えてくる!」
「君たちの一人が、悪魔に取り憑かれてしまった。悪魔を倒したいが、その悪魔はめっぽう強い!」
「君たちは、酒場で次のクエストの情報を交換している。隙を見て、誰か一人を暗殺せよ!」

なんとも、ドラマ性豊かなシチュエーションばかり。なお、ミッションで登場する“悪魔”や“暗殺者”といった真の顔については、“職業”や“特徴”とは別に、ランダムに(じゃんけんで)決定されました。

筆者は“特徴”として「意気消沈した」、“職業”は「僧侶」のカードを引きました。ここまではまだいいとして……。

「あなたがたの一人はグール(食屍鬼)だ。残りの二人は、足を麻痺させられている。しかしグールはまだ空腹ではない」

これが、筆者のグループに与えられたというミッションだったのです(!)。

じゃんけんをした結果、こともあろうに筆者が「グール」ということになってしまいました。

誰が何の“職業”と“特徴”を演じていたのかは、1分間の演技が終わった後に種明かしをするわけですが、オーバーアクションでかつての仲間を追いかけまわし、立ち止まってハムレットばりの懊悩を独白する謎のグールが、もとは敬虔な僧侶であったことがわかると、会場は大ウケ。こういう美味しいハプニング(?)こそが、ランダムに役割を決める醍醐味なのかもしれません。

全員が終わったら、特に演技が上手だった人を投票で決め、再演を行ないます。それも盛り上がり、そのあとで、自分がどこに気をつけて演技を行なったのか、どうすればより巧くできると思ったのか、などという話を順番に発表していきました。他人の演技を細かく講評するのではなく、自分が気をつけたポイントをお互い言い合っていくというのが、ゲームならではのインタラクティヴィティ(双方向性)なのかな、なんて感想が、頭をよぎった次第です。

そのあと、ゲームマスターから締めの一言。
「あなたがたが今回体験した(即興演技の)ワークショップは、実はLARPのなかで、もっとも難しいものでした。通常のLARPは、あらかじめキャラクター作成を行ない、種族や装備を決め、もっと具体的に肉付けされる情報が増えるので、より演じやすいはずです」

なるほど、逆転の発想でしょうか。もともと、キャッスル・ティンタジェルのホームページで無料公開されているLARPのルールブック「PATORIA SOLIS(パトリア・ソーリス)」(http://www.castletintagel.com/larp/rb.html)は、A4版で66ページもの分量がある本格的なもので、LARPをプレイするのに必要な枠組みが細かに記されています。「PATORIA SOLIS」のルールは会話型RPGのルールとよく似ていますが、たとえ熟練のゲーマーでも、いきなり全部を読んでルールを記憶するのは困難だろうと心配になるほどの密度があります。そして、もちろん、LARPの参加者は会話型RPGの経験者とは限りません。

この問題点を埋めるため、ワークショップでは五感を使い、身体を動かしてみることで、ルールシステムの基本を、アタマとカラダの相互作用で理解できるようにしているのではないかと感じました。
初めて会う人の前で中世ヨーロッパ風ファンタジー世界の登場人物の演技をするのは、初対面同士のカラオケにも似た気恥ずかしさがあります。しかし、キャッスル・ティンタジェルという空間の魔力のたまものか、実際にやってみると思ったほど恥ずかしくはありません。かえって、童心に戻ったような解放感をおぼえました。

筆者は会話型ロールプレイングゲームについてのライティングを生業としていますが、ゲーム上で精密に表現される戦闘シーンや、各種アクションについて、単にルールシステムを通じて追いかけるだけではなく、身体を実際に動かしながらシミュレートしてみるという経験は、なんとも新鮮なものでした。また、筆者はゲームや創作全般に関心をお持ちの人向けに、中世ヨーロッパの社会史についての入門コラムも書いており、その関係で日頃から各種資料にどっぷりと漬かっていますが、そもそもキャッスル・ティンタジェルで行なわれている各種西洋剣術については――昨年、『中世ヨーロッパの武術』という凄まじい労作が出ましたが――このような例外はあれど、日本語で読める資料がもっとも少ない分野の一つです。
中世ヨーロッパの武術 [単行本(ソフトカバー)] / 長田 龍太 (著); 新紀元社 (刊)
昨年、取材した際に、剣術の修練で使われている資料を見せてもらいましたが、いずれも日本でアクセスするのは困難、たとえ入手はできても読み解けないだろうと思われる本格的なものばかりで、それを日本で触れることができるのは、実に貴重な機会であると感じました。

最新のテクノロジーと連動したAlternative Reality Game(ARG)が普及を見せてきたとはいえ、まだまだ日本ではLARPが一般的なものとはいえません。とりわけ、キャッスル・ティンタジェルで行なわれているような海外式LARPは、のびのびとプレイできる環境が整い、熟練のゲームマスターによるノウハウの蓄積がなければ実現不可能です。昔、何冊かLARPの英語版ルールブックを購入しては挫折し、LARPに憧れをおぼえてきた身にとっては、とても贅沢な時間を過ごすことができました。
今後もキャッスル・ティンタジェルでは、カーミニア世界を舞台にしたLARPのワークショップやイベントが定期的に開催され、飛び入りで参加できるものも少なくないようですので、ご興味のある方は、いちど体験してみることをお薦めいたします。あなたのゲーム観が、がらっと変わってしまうかもしれません。

(*)キャッスル・ティンタジェルの許可を得て写真を掲載させていただいております。また、写真は2012年5月12日のLARP入門ワークショップにて撮られたものです。