ある初心者の『エクリプス・フェイズ』体験記

 7月30日に開催予定の『エクリプス・フェイズ』体験会、たくさんのご応募をありがとうございました。体験会に向けて開催したテストプレイの模様を、渡邊利道さまが初心者プレイヤー視点でレポートしてくださいました。
 当日このシナリオを使用するかどうかはまだ秘密ですが、SFをはじめ無類の読書家でありながらゲームについては初心者という渡邊さまの視点から、『エクリプス・フェイズ』のさらなる可能性が垣間見えるように思います。(岡和田晃)


ある初心者の『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase)体験記

 渡邊利道

当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。

 というわけで、岡和田晃さんに誘われて、海外RPGゲームの『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase、以下EP)の、体験会に先駆けたテストプレイに参加した。メンバーは、岡和田さんと私と、Analog Game Studies(アナログ・ゲーム・スタディーズ)でEPの紹介に携わっている蔵原大さん、ゲーマーの畠山さんと中野さんの五人。私以外はみなさんRPG連戦の猛者で、初心者なのでけっこうビビっていたのだがとても親切にいろいろと教えてくれたので、少々調子に乗っちゃったかなあ、というくらい楽しめた。

 EPというゲームについては、

「さぁ黄昏の未来世界にようこそ!」

http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html

 という紹介記事に詳しいのだが、大雑把には人間が精神と身体に分割され、精神はデータとして複製再生可能、身体は人工改造その他データの容れ物としていくらでも改変可能、というテクノロジーが発達したポストサイバーパンク的な未来社会、いわゆるマザーコンピュータの反乱的な人工知性による大戦争を経由して、中央政府を失い複数の権力と企業体のせめぎあいによる多重化した世界が、物理的に太陽系外宇宙への入口まで発展しているが、どうやらそこには謎の異星人が存在しているらしく(彼らは地球人類に関心がない模様)、また、分散した権力をめぐる闘争が激化している現在はいまだ人々の関心は「外」へは向っていない、という背景設定のもと、さまざまな設定のキャラクターを参加人数分用意し、ゲームマスターの誘導に応じてミッションを実行する、というもの。べつにどういうミッションにしなければならない、という決まりはないらしいのだが、まあ基本的にはエスピオナージュのスタイルがもっとも似つかわしいのではないか、ということだった。

 これはテストプレイだったせいなのか、ともかく最初のEPの世界設定の説明や、それに関する参加者のディスカッションが多岐にわたって流動的で非常に面白かった。設定が設定なので、現代社会の政治状況や経済、技術などの話題に触れることも多く、物語的にもたとえばイスラームが大きく要素としてとりこまれているので、自然そういう話にもなり、なかなかきわきわな話題でもあるので、そこらへんの常識のラインのとりかたのかけひきなども、ゲームの前哨戦のようでちょっと面白かった。

 本来はキャラクターも参加者自身で作るものらしいのだが、まあ、初心者用にサンプルキャラクターというのが用意されていて、蔵原さんはお手製のキャラがすでにいらっしゃるということでロシアのスナイパーというけっこう頭が悪そうな素敵なキャラ(編注:『Eclipse Phase Introduction Book for 2011 Japanese』に登場したアルアラミル)に、私はマッドサイエンティスト、中野さんは性転換自由自在のジゴロ、畠山さんは探検家というキャラをそれぞれ選んで、ゲーム開始。

 金星を舞台に、行方不明になった貴婦人チャタレイを探す、というゲームで、ゲームマスターの提示する状況に合わせて口頭で可能なこと不可能なことを探り、では私はこういう行動を起こします、とメンバーに宣言して骰子を振る、ときにはメンバー間で「こちらはこういう方向で、そちらはそういう方向で」というように協力体制を作ってミッションを進行させていく、といった塩梅で、成程、これは発想力とそれを言語化する能力、そして人間関係をうまく物語にはめ込んでいく微妙な気配を察知する能力が問われるゲームなのだなあと感心した。とくにそれらの行動をまとめて新たな状況を作り出し全体の展望を与えるゲームマスターの仕事はなかなか凄いものがある。物語は最終的にはギャンブル場で、まあ、私がちょっと調子に乗って続けてギャンブルし続けて負けてロシアのスナイパーがいかさまだ!なんだとてめえらやっちまえ!手榴弾でぼーん!というありえないハチャメチャな展開となり、しかも悪の親玉と手打ちで終り、というダークな結末に、私はけっこう満足だった。あれだ、ちょっとアダルト/サイバーパンクなダーティペア的世界。

 その後、EPをめぐる期待の大きさがもいろいろ熱く語られて、それを聞いているだけでワクワクさせられるものがあった。もっとも、こういうゲームにハマる人がいるのはよくわかるし、たぶんものすごくうまくいくセッションなどもあって、それは素晴らしい体験になるんだろうなあ、という気もしたが、その分、参加者の気心とか、場の空気とか、そういうことを考えるとやはり初心者にはちょっと敷居が高いのはいかんともしがたいかもしれない。私は、これからも機会があったらちょっと参加してみたいとも思った。あとEPのシェアワールドで創作してみたいという気もする。

 ともかく、今回の体験でもっとも驚いたのは、RPGゲームというのは、ともかく「言葉」がすべてだ、という点で、しかもその言葉というのは、あらゆる意味においてすべて「表現」なのである。岡和田さんがゲームに対して抱いている情熱の所以というのが少しだけ理解できるような気がした。

 大変面白い体験でした。誘っていただいた岡和田さん、一緒に遊んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。

2012/01/04追記(岡和田晃):渡邊利道さまはその後、「独身者たちの宴 上田早夕里『華竜の宮』論」にて、第7回日本SF評論賞優秀賞を受賞されました。おめでとうございます!


渡邊利道(わたなべ・としみち)
 1969年愛知県生まれ。Eclipse PhaseがRPG初体験のゲーム完全初心者。
 1999年頃から本を読む専業主夫としてwebで読書感想文ほかモロモロ公開中。恥をかくのが人生です。
 「なんて退屈。」(http://d.hatena.ne.jp/wtnbt/

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その7)


ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その7)

 朱鷺田祐介

当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。


第6回はこちらで読めます。


 「エクリプス・フェイズ」の紹介その7は、ミューズの話。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会@R&Rステーション」でGMするための、復習的なものです。未訳RPGの紹介ということで、手探りでやっている部分が多々ありますので、訳語の揺れはご容赦ください(編注:本稿は朱鷺田祐介氏のウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください)。

●特異点で変わる世界

 「エクリプス・フェイズ」の舞台とする未来は、かなり現代と違う部分があります。これは、現代のSFでよく言われるシンギュラリティ(特異点)を意識したものです。シンギュラリティとは、ある技術発達上のブレイクスルー、あるいは、世界的なイベントで、世界観が大きく変わることを意味します。「エクリプス・フェイズ」の未来世界も、いくつかのブレイクスルーにより、我々の世界と極端に違っています。

 いわゆる、「魂(Ego)」と「身体(Morph)」の分離は、「エクリプス・フェイズ」の特徴のひとつですが、他にも色々な違いがあります。

 例えば、貨幣を基本とする資本主義経済である「旧経済」と、常時オンライン化し、行動のすべてを記録するような全世界オンライン状態で発生した贈与経済/人物評価(Rep)をベースにした「新経済」の概念は、ゲーム的にも面白いものです。(両方が入り交じった移行中の複合経済構造の地域もあり)

●ミューズ

 今回取り上げるミューズはほとんどすべてのキャラクターが保有する「人生のパートナー」である支援AIとして、数十年前から普及しているメディア・エージェントAIです。

 〈大破壊〉以前から、人類は広大な情報ネットワーク、メッシュを作り上げ、極端なアナクロ主義者をのぞけば、すべての人類が常時、メッシュと接続し、その支援を受けています。AR、VRなどのネットによる情報補助、通信だけでなく、必要に応じて、検索し、調査し、あるいは、ネット上に広報し、つぶやき、はりつけ、あるいは介入します。

 多彩なメッシュ活動および自分の情報活動を支援するのが、ミューズと呼ばれる個人専用の支援AIです。ミューズは人間の幼い頃から、個人の情報(ライフログ)を記録し、体調をモニターし、メッシュとの関係を補助し、設定に応じて情報を検索し、必要に応じて個人の秘書役を努めます。ミューズにキャラクター付けをする人もいますが、それは、ミューズが長い間のやりとりから個人の癖や体質を読み、必要な対応を取ってくれる最適な補助プログラムとして成長していくからです。ミューズを失うのは、現代人で言えば、便利な携帯と愛するペットを同時に失うような喪失感を発生させるでしょう。

 ミューズの存在はなぜ、特異点なのか?

・ミューズは通信、生活習慣など秘書役として管理してくれます。

 目覚ましや予定管理から、友人リストの検索、ニュース検索の取捨選択まで、生活の各方面で支援してくれます。新経済、旧経済のいずれでも財産は電子化されていますので、ミューズに問えば、いつでも、現在の収支や口座の残高、Repの蓄積具合を知ることができます。

・ミューズに指示すれば、必要な情報を瞬時に検索するようにできます。

 おかげで、キーワードを投げておけば、その情報がメッシュに上がるたびに知ることができますし、誰かとの会話中に分からない単語が出てきたら、それをミューズに検索させて調べつつ、会話できます。

 脳内Googleですね。

 問題はこのおかげで、むやみに、会話に、マニアックな引用を多用するおバカさんが現れたりもしますが、それも、ミューズで検索合戦をすれば、対応できないではありません。

・ミューズは、ライフログを取りますので、近々の生活に関する記録を簡単に残せます。

 ミューズに頼らずとも、記憶は大脳皮質記憶装置のチップに記録されますが、常に、自分の行動を見ている存在がおり、必要に応じて、検索したり、質問したりできるのはまた別の世界です。

 ミューズは、あなたの人生におけるプライヴァシーをすべて共有するものなのです。

 このような存在がいる社会はどういうものなのか?
 それはある意味、恐怖と希望の入り交じった世界かもしれません。


朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)


※12/04/13編者付記:
 朱鷺田祐介さまによる『エクリプス・フェイズ』紹介はまだまだ続きますが、Analog Game Studiesに転載させていただく内容については、本記事で一段落とさせていただきます。続きは、朱鷺田祐介さまのブログ「黒い森の祠」の関連エントリをご覧ください。
http://suzakugames.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/eclipse-phasebl.html

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その6)

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ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その6)

 朱鷺田祐介

当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです(http://eclipsephase.com/resources )。

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第5回はこちらで読めます。

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 「エクリプス・フェイズ」の紹介その6は、戦闘の話。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会@R&Rステーション」でGMするための、復習的なものです。7/16-18の北海道遠征@多彩の渦コンベンションにも持ち込む予定なので、夜の部あたりで遊べればと思っております。という訳で出かける前の最後の更新(編注:本稿は朱鷺田祐介氏のウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください)。


●戦闘

 「エクリプス・フェイズ」でもしばしば戦闘が起こりますが、それはハードなものです。いかに技術が発達し、義体を乗り換えられるようになっても、武器も発達しますから、容易に無力化されますし、ましてや、真空の宇宙ではさまざまな状況がそのまま、死に結びつきます。

 「エクリプス・フェイズ」の戦闘の感覚は、比較的、「シャドウラン4th」に似ています。
 アクション・ターンは3秒。通常、1回の行動ですが、インプラント(改造)や戦闘ドラッグや何かで複数回動ける可能性があります。行動の順番は「イニシアティブ+d100」の高い順となります。

 攻撃の手順は対抗テストです(判定をテストと呼びます)。
 防御側の対応は攻撃の種類で異なります。

 

  格闘(Melee):回避(Fray)、または格闘
射撃(Shooting):回避の半分。
超能力(Psi):意志(Will)×2。



 ダメージは攻撃によって、「エネルギー(Energy)」「物理(Kinetic)」「その他」に分かれます。防具には、「エネルギー(Energy)」「物理(Kinetic)」の二種類の装甲値があり、それぞれの攻撃に対応し、ダメージを軽減します。我々が知っている、鉛玉が飛び出すような銃器は、実体弾兵器(英語ではKinetic Weapon(物理兵器))に分類され、白兵戦武器などと同様に、「物理」に分類されます。

 「エクリプス・フェイズ」は、HP制に近いシステムですが、負傷の概念があり、ダメージを受けると、ペナルティが累積していきます。基本的に、%ロールの修正が10%単位で積み重なると思ってください。

・一度に受けたダメージが、負傷値(Wound Threshold)以上ならば、負傷(Wound)を受ける。数は「ダメージ÷負傷値」(端数切捨て)、負傷1個あたり、-10の修正を受ける。蓄積したダメージが耐久値(Durability)以上になると、その義体は行動不能となり、致死値(Death Rating)以上になると完全に殺され、修復できない。

・精神的なストレスにも、同様のものがあり、一度に受けた精神的なストレスがトラウマ値(Trauma Threshold)以上なら、精神的な負傷に当たるトラウマを追う。数は「ストレス÷トラウマ値」(端数切捨て)、トラウマ1個あたり、-10の修正を受ける。蓄積したストレスが理性値(Lucidity)以上になると、行動不能、あるいは一時的な発狂となり、発狂値(Insane Rating)以上になると、完全に発狂し、もはや回復しない。

 イベント前の更新はここまで。
 次は来週後半になると思います。

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第7回はこちらで読めます。

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朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その5)


ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その5)

 朱鷺田祐介

当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。


第4回はこちらで読めます。


 「エクリプス・フェイズ」の紹介その5は、Repの話。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会@R&Rステーション」でGMするための、復習的なものです。7/16-18の北海道遠征@多彩の渦コンベンションにも持ち込む予定なので、夜の部あたりで遊べればと思っております。という訳で出かける前に更新(編注:本稿は朱鷺田祐介氏のウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください)。

●Rep経済

 「エクリプス・フェイズ」は、未来を舞台にしたSF-RPGなので、太陽系開拓時代にあるだろう、さまざまな政治形態、経済構造、社会構造なども、テーマになっており、場所によってさまざまな体制があります。

 例えば、お金の話。
 「エクリプス・フェイズ」の太陽系では、貨幣(クレジットという貨幣単位があります)および貨幣的な信用をベースにした旧経済、相互補助の精神と行動評価を経済レベルまで高めた新経済、双方の過渡期である過渡期経済が用いられています。

 新経済では、Rep(レプ=評判)という、なかばボランタリーな社会貢献を、数値化し、これを使って他人から有形無形の好意を得ることができます。普段から、色々な貢献を社会に対して行っている人は、他の人々から助けてもらえるというもので、人徳や業績の評判数値化というべきものです。Repはいくつかの系統に分かれていますが、基本的に、太陽系全土のメッシュ(いわゆるネット)で共有されており、ゲーム中、PCは、このRepを使って、さまざまな支援を調達できます。

 例えば、ハビタット内での情報がほしい時、Repを使って道案内情報を得たり、一夜の宿を借りたりもできます。高いRepの人は、初めていった場所ですら、かなり危険な部分での手伝いが得られるかもしれません。

 Repは以下の系統に分かれます。

【REP】
ジ・@リスト (@-rep:アナーキスト、バルスーム、外惑星、スカム、タイタン):
市民ネット (c-rep:木星共和国、月=ラグランジュ連盟、モーニングスター・コンステレーション、惑星連合、ハイパーコープ):
エコ・ウェ-ブ (e-rep:ナノエコロジスト、保存主義者、地球奪還派):
フェイム (f-rep:名士、芸術家、豪遊家、メディア):
グアンジー (g-rep:三合会他、無数の犯罪組織):
ジ・アイ (i-rep:ファイアウォール):
RNA (r-rep:アルゴノーツ、工学者、科学者、研究者):

 これは、新たな経済体制に関する思考実験ですが、すでに皆さんも、2011年現在、ネット上の評判、あるいは、Twitterのフォロワー数(別名、戦闘力)などで「Rep」の形成過程を目撃されているはずです。

 >>>先日、これに対して、米軍がネット上のペルソナを大量に偽造するソフトウェアを開発しているというニュースもありましたね。>>>

 Repはゲーム的にも便利なものです。
 なぜなら、「評判」がそのまま経済力になりますから、PCの情報収集能力や資材調達能力をRepで表現でき、さらに、この新経済環境下では、初めていった場所でも、Repを使って、物資や支援の調達ができるのです。

 ヒーロー物などで、突然、手助けしてくれる人がいますが、そういう面をこれで表現できる訳です。

 そして、Repは評判ですから、それまでの行動が反映されます。キャラクター表現にも通じますし、キャンペーンでは、背景の勢力との関係をRepの変化で表現できます。


朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その4)

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ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その4)

 朱鷺田祐介

当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです(http://eclipsephase.com/resources )。

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第3回はこちらで読めます。


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 週末に向けての準備と仕事の都合があるので、まとめて更新(編注:本稿は朱鷺田祐介氏のウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください)。

 「エクリプス・フェイズ」の紹介その4は、キャラクター関係。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会@R&Rステーション」でGMするための、復習的なものです。7/16-18の北海道遠征@多彩の渦コンベンションにも持ち込む予定なので、夜の部あたりで遊べればと思っております。そのためにも、キャラクター関係まで紹介してしまいます。


●キャラクター

 では、「エクリプス・フェイズ」では、どんなキャラクターが出来るのでしょうか?

 「エクリプス・フェイズ」の世界は、広大な太陽系であり、太陽のフレアの内部から、小惑星帯を越え、多数の月がある木星系、土星系、さらには、冥王星の彼方まで広がっており、それぞれが独自の文化や思想を持っています。旧弊な独裁国家もあれば、テラフォーミング中の火星の荒野に暮らす開拓農民、不老不死を得たセレブ、アナーキストの宇宙海賊、知性化されたタコやAIもいます。〈大破壊(The Fall)〉の際に、肉体を失い、デジタル化された「魂(Ego)」だけ逃げてきたまま、まだ、肉体を獲得できない「情報体の難民(Info-Refuge」もいます。

 SF-TRPGの常で、本当にとんでもなく、さまざまなキャラクターができます。
 その上、「エクリプス・フェイズ」のキャラクター作成は、1000ポイントで、能力値や特徴、装備や設定などを購入する完全構築型なので、ある意味、そのようなキャラクターでも作れます。
 例えば、サプリメント「Sunward」には、太陽のコロナの中を泳ぐ、宇宙鯨型の義体を持つキャラクター「Solarian Researcher」(ソラリアの研究者)がいますが、まあ、シナリオのPCにするにはなかなか覚悟がいりますね。

 そこで、手がかりになるのが、基本ルールブックのサンプル・キャラクターです。以下、ざっとをざっと紹介しますので、これで「エクリプス・フェイズ」のイメージが少しでもご理解いただければありがたいです。なお、訳語、解説につきましては、あくまでも、朱鷺田の私的なものですので、ご理解ください。

 また、これらのサンプル・キャラクターの中には、「ファイアウォール」との相性が悪いように見えるものもいますので、GMはシナリオに合わせて、取捨選択をするとよいでしょう。

 イラストは、ルールブックを参照してください。


●サンプル・キャラクター一覧

Anarchist Techie アナーキスト・テッキー
宇宙での機械技術者。無重力環境に適応するため、足が手になっているモーフを使用する。アナーキスト、すなわち、無政府主義勢力は、太陽系各地にいて、政府や国家体制に頼らない生き方を求めている。

イラストは「イーオン・フラックス」に出てくる相棒の雰囲気がありますが、そこまで武闘派ではなく、基本的に、技術職です。

Argonaut Xenoarcheologist アルゴノーツの異星考古学者
異星人の遺跡や遺物を研究する考古学者。アルゴノーツは科学技術推進派の科学者勢力。

Barsoomian Freelance Journalist バルスームのフリーランス・ジャーナリスト
火星独立派のフリージャーナリスト。
バルスームは昔のSF(E・R・バローズの「火星」シリーズ)における火星のことで、現在は、ハイパーコープに搾取されている下層開拓民などの主権獲得などを目指している。

Brinker Genehacker 境界民のジーン・ハッカー
太陽系辺境域で遺伝子をいじるマッド気味の遺伝子工学者で、モーフ・デザイナー。
境界民(ブリンカー)とは、太陽系外縁部などに孤立して住み、独自のライフスタイルを守るため、社会国家から距離を置いている人々の総称。

Criminal Hacker 犯罪社のハッカー
スリル好きのハッカー。
義体は群体モーフ(スワームノイド)で虫の群れのように見える。ルール上、群体として扱う。

Extropian Smuggler エクストロピアの密輸人
小惑星帯にあり、外惑星系と内惑星圏の両方に顔が利く自由商業ハビタット「エクストロピア」からやってきた、密輸業者。
下半身がヘビ型のスリザロイドという、機械式モーフを使用している。
エクストロピアとは、エクストロピー/反エントロピー主義という意味が含まれており、それは生命活動で宇宙を豊かにしようという思想だが、ここでは、ハビタット(宇宙居住区)の名前でもあり、そこを拠点とする自由商業主義者たちの勢力を示す。

Hypercorp Black Marketeer ハイパーコープの闇商人
内惑星系で、ハイパーコープの商品を闇取引しているエージェント。

Jovian Spy 木星共和国のスパイ
生体保守主義者(バイオ・コンサバティブ)の支配する独裁国家、木星共和国(別名、ジョヴィアン・フンタ)から、ハイパーコープや内惑星系に向かって放たれた秘密工作員。改造なし、遺伝子調整なし、魂のバックアップもしない「自然の肉体」で、科学の生み出した怪物たちと戦う誇りある戦士。

Lunar Ego Hunter 月から来たエゴ・ハンター
月=ラグランジェ同盟からやってきた、バウンティ・ハンターで、対人捕獲戦闘の専門家。かつて、強制的に加速成長させられ、多数が死亡した「ロスト・ジェネレーション」の生き残りで、超能力(Psi)を持つ。

Mercurial Investigator マーキュリアルの探索者
物質的な肉体を持たず、メッシュの海を徘徊しているインフォモ-フ(情報義体)。
ドローンやメッシュを操る情報生命体AGI(汎用人工知能)。
マーキュリアルは、水星の意味もあるが、同時に、AIや知性化種(アップリフト)などの自立や権利獲得を目指す勢力で、外惑星系に広まっている。

Mercurial Scavenger マーキュリアルの盗掘屋
知性化されたタコ。
主に、技術職として、廃棄された宇宙ステーションや宇宙船から資材を回収して回っている。日本語を母国語とし、水墨画を趣味にする。非常に柔らかい肉体と8本の腕を持つ。
マーキュリアルは、水星の意味もあるが、同時に、AIや知性化種(アップリフト)などの自立や権利獲得を目指す勢力で、外惑星系に広まっている。

Scum Enforcer スカムの用心棒
スカムは、小惑星帯や宇宙空間を漂う宇宙移民船、あるいは、船団で暮らす放浪の民。無政府主義で宇宙海賊や犯罪者が多い。
スカムの用心棒は、スカム社会で育った荒くれ女で、戦いとフリーセックスを愛する。

Socialite Escort 名士の随行者
内惑星圏に住む大富豪たちは、事実上の不老不死を手に入れ、堕落した退廃的な社交生活を送っている。このキャラクターは、彼らに随行し、ピエロのように娯楽を提供するとともに、ボディガードを兼ねるエスコート役。
義体は機械式で、娯楽専用のプレジャー・ポッドで、自由に外見や性別を変更できる。

Titanian Explorer タイタンの探検家
パンドラ・ゲートを使って別の太陽系の探査に挑む冒険家、ゲート・クラッシャーで、危険を愛している。
出身地であるタイタン連邦は、科学技術が発達し、サイバーデモクラシーが実現している土星最大の月タイタンを中心にした外惑星国家である。

Ultimate Merc ウルティメイトの傭兵
「戦う哲学者」とも言われる傭兵。
ウルティメイト(究極党)は、徹底した社会ダーウィニズム、選民主義、禁欲主義で、人間としての完璧を目指す思想集団で、小惑星帯や天王星に拠点を築き、自ら開発した究極の義体で軍事産業に従事している。

Venusian Negotiator 金星の交渉人
金星の大気圏上層に浮かぶ浮遊都市(アエロスタット)の連合国家である、モーニングスター・コンステレーションに所属する凄腕のネゴシエーター。政治の上層部において、メディア対策、世論の誘導、情報操作などを担当する。


注記1:この連載は、知人のゲーム・ライター 岡和田晃さんの主催するアナログ・ゲーム・スタディーズ)(編注:本サイト)にも転載されています。こちらのサイトは、アナログ・ゲームを学術的に検証しようとするゲーム学的な志向の強いサイトで、一般のゲームサイトとはかなり雰囲気が違いますので、私のぐだぐだな解説でいいのかね? とも思いますが、同サイトで行われている「エクリプス・フェイズ」紹介の、敷居を下げる意味でバランサーになればよいと思います。

注記2:今回のネタではMixiのエクリプス・フェイズ・コミュのメンバーから的確なアドバイスをいただきました。感謝します。

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第5回はこちらで読めます。

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朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その3)


ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その3)

 朱鷺田祐介

当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。


第2回はこちらで読めます。


 「エクリプス・フェイズ」の紹介その3。ちょっと、ゲーム面の話をします。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会@R&Rステーション」でGMするための、復習的なものです。7/16-18の北海道遠征@多彩の渦コンベンションにも持ち込む予定なので、夜の部あたりで遊べればと思っております(編注:本稿は朱鷺田祐介氏のウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください)。

●ちょっとゲーム的な話

 最初の2回は、「エクリプス・フェイズ」の世界観の触りを話しましたので、そろそろ、ゲーム的な話をば。

 「エクリプス・フェイズ」のルール回りは、皆さんも親しんでいる%ロール系のゲームです。一般のゲームで言えば、能力値に当たる適性(Aptitude)、HPやイニシアティブなどをまとめた特性値(Stat)、適性とリンクした技能値(Skill)があり、主に、技能値(だいたい20~90)を用いた%ロールが用いられます。

●テスト(行動判定)

基本:%ダイスを振り、判定値以下ならば、成功。
 ゾロ目で成功なら、クリティカル成功。ゾロ目で失敗なら、クリティカル失敗
 00は常にクリティカル成功、99は常にクリティカル失敗。
 成功の度合いを出したい場合、判定値-30以下なら良い成功(エクセレント)、判定値+30以上の失敗なら、際立った失敗(シビア)とする。

修正値:状況で+30~-30の修正がつく。(修正の合計値は最大+60~-60)
 技能なしの判定は、-30%。
 チームワーク:協力者1名につき、+10(最大+30)
 時間をかける:元時間の、50%の時間を増やすごとに、+10。
 負傷:負傷値以上のダメージを受けると、(ダメージ÷負傷値、端数切捨て)個の負傷を受ける。負傷1個あたり、すべてのテストに-10の修正を受ける。同様に、精神的な痛手(トラウマ)も、トラウマ1個あたり-10の修正。
 演出(オプション):かっこいい演出描写が出来たら、プラス修正を認めてもよい。

対抗判定:互いに成否を比べる。両方とも成功なら、出目の大きい方が勝利。

 少々オプションがありますが、%ロールのゲームに慣れた方なら、すっとご理解いただける範囲です。
 ゾロ目がクリティカル成功/失敗に当たるのは、ヒーロー・ポイントに当たるMoxie(勇気)で、10の位と1の位を入れ替える(アスキー版『真・女神転生』TRPGにおける、スワップ・ダイスの効果ですね)ことができるからです。

★Moxie(勇気) 1点を消費した場合の効果

・ダイスを振る前に使うと、すべての修正を無視できる。
・振った後に使うと、出目の10の位と1の位を交換できる。(『真・女神転生 覚醒編』のスワップと一緒)
・成功した判定なら、クリティカル成功にできる。
・クリティカル失敗を打ち消し、通常の失敗とする。
・アクション・フェイズで、最初に行動できる。

 これに、戦闘関係や精神的なトラウマ、「魂(Ego)」と「身体(Morph)」の扱い、アイテム、超能力、メッシュ(ネットワーク)などで、大量のデータが上乗せされますが、基本のルールは上記の判定系につきます。

 注目の点はオプション・ルール「Narrative Modifier(描写での修正)」がルール化されていることで、ストーリー派のプレイをする場合、かっこいい描写が出来たら、プラス修正をもらってもいい、と書いてあることです。実際、日本のプレイ環境から言えば、いまさらと思う方もおいでかもしれませんが、ルールブックに書いてあるというのは、面白いでしょう。

注記1:この連載は、知人のゲーム・ライター 岡和田晃さんの主催するアナログ・ゲーム・スタディーズ(編注:本サイト)にも転載されています。こちらのサイトは、アナログ・ゲームを学術的に検証しようとするゲーム学的な志向の強いサイトで、一般のゲームサイトとはかなり雰囲気が違いますので、私のぐだぐだな解説でいいのかね? とも思いますが、同サイトで行われている「エクリプス・フェイズ」紹介の、敷居を下げる意味でバランサーになればよいと思います。

注記2:今回のネタではMixiのエクリプス・フェイズ・コミュのメンバーから的確なアドバイスをいただきました。感謝します。


第4回はこちらで読めます。


朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その2)

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ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その2)

 朱鷺田祐介

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当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです(http://eclipsephase.com/resources )。

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第1回はこちらで読めます。

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 「エクリプス・フェイズ」の紹介その2。まあ、ゆるゆる行きます。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会」でGMするための、復習的なものです。7/16-18の北海道遠征にも持ち込む予定なので、夜の部あたりで遊べればと思っております(編注:本稿は朱鷺田祐介氏のウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください)。


Eclipse Phase Core Rulebook

Eclipse Phase Core Rulebook

  • 出版社/メーカー: Posthuman Studios, LLC.
  • 発売日: October 13, 2009
  • メディア: Hardcover, Full Color






●SFホラーの世界

 さて、前回、「エクリプス・フェイズ」は宇宙冒険SF-RPGだと書きましたが、同時に、ホラーと陰謀の要素が含まれた作品でもあります。
 どことなく、映画「エイリアン」を思わせる謎の宇宙服と機械触手、宇宙ステーションが描かれたカバーにも「The Roleplaying Game of Transhuman Conspiracy and Horror」(トランスヒューマン時代の陰謀と恐怖を扱うRPG)と書かれています。システム的にも、精神的なトラウマやストレスに関するルールがあり、「クトゥルフ神話TRPG」に似た部分もあります。

 実は、宇宙版「クトゥルフ」なの? という受け取る人もいるかもしれませんが、それも少し違います。

 いわゆるSF-RPG、というと、私も昔、「パラダイスフリート」を作りましたし、現在もサイバーパンク・ファンタジーの「シャドウラン」に関わっていますが、実は、SFにはホラーの側面があります。SF設定をきちんと追求していくと、ある種の「想像したら怖い技術社会や超科学、異星人や人類自身が産み出した悪夢」と直面せざるを得ません。例えば、「フランケンシュタインの怪物(科学技術による、人間の創造)」や「ロボット(機械と人間)」は容易に恐怖の存在となります。

 「エクリプス・フェイズ」でも、「人類殲滅を決意した戦闘AI、ティターンズの戦闘機械」や「外宇宙から持ち込まれたらしい謎のウイルス」がそうした恐怖の対象と見なされていますし、あるいは、「ハイパーコープが発明した先端技術の結晶や、パンドラ・ゲート(次元の門)のかなたから持ち込まれた宇宙文明の遺産が暴走する」場合もあります。

 また、「エクリプス・フェイズ」は、「魂(Ego)」がデジタル化され、「義体(モルフ)」を自在に交換できる世界です。この結果、様々な恐ろしいシチュエーションが発生します。
 例えば、「エクリプス・フェイズ」のオープニング小説「Lack」(欠落)は、主人公が新しい義体に魂をダウンロードされて目覚めるところからスタートします。どうやら、主人公とその仲間たちは、「ファイアウォール」のエージェントとして、何らかの任務に挑み、おそらく、死亡したのでしょう。主人公は、なぜ、自分たちが死んだのかを自問自答しながら、「ファイアウォール」の指示に従い、前の自分達が失敗したのかもしれない新たな任務(?)に挑戦します。 「へびつかい座ホットライン」というSFをお読みになった方なら、イメージがわくかもしれません。あるいは、「キルン・ピープル」などでもかまいません。

 こうしたSF的な恐怖と戦うのも、このゲームのテーマのひとつです。

●陰謀の要素:コンスピラシー

 もうひとつのテーマが「コンスピラシー」(陰謀)です。

 現実がそれほど簡単なものでないことは、誰にでも分かっています。そのため、ゲームであっても、少しでもリアルな世界設定を考えていった場合、そこには、国家観の対立や政治信条などの食い違い、しばしば、利益追求のために踏みにじられる正義や平和などといった社会の闇の要素が組み込まれていきます。時には、まるで陰謀論そのもののような秘密の策謀やスパイゲーム、残虐な軍事ミッションすら求められます。
 それらは決して表に出ない闇の動きであり、近年、「コンスピラシー物」として、さまざまなSF-RPGに組み込まれています。例えば、「エクリプス・フェイズ」の開発者であるロブ・ボイルがライン・ディベロッパーを務めていた「シャドウラン」では、大企業同士の暗闘の最前線で戦うフリーランサーであるシャドウランナーが主人公で、失敗した際には「存在しないはずの存在」として、依頼人から切り捨てられる存在です。(このあたりは、「スパイ大作戦/ミッション・インポッシブル」にある「なお、この件に関して、君、もしくは君の仲間が捉えられたり、殺されたりしても当局は一切関知しない」という宣言に近い「お約束」なのですが。)

 サイバーパンクの発展として、「陰謀論的な世界の前線で戦うヒーロー」の時代が来ているのです。

 「エクリプス・フェイズ」のPCたちも、さまざまな陰謀と戦うことになります。
 「エクリプス・フェイズ」の太陽系に散らばる無数の宇宙居住区は、経済資本主義と社会秩序の過酷な実験場になり、それぞれがさまざまな信条を抱え、あるいは、生存のために模索しています。時には、表に出せない形でさまざまな行動をします。それは、奇妙な根回しであったり、違法行為であったり、隠された軍事行動であったりします。PCたちは、そうした各国の陰謀の網の一部に触れ、あるいは、陰謀を突き止め、それらが「人類の絶滅を招くリスク」を抱えていた場合、それと戦うことになります。例えば、

・ハイパーコープ(超企業):利潤のために、危険な状況を引き起こしたり、異星人やティターンズに由来する危険な技術を乱用したりします。
・国家や勢力:太陽系に存在するさまざまな勢力が、人類全体のことを考えず、互いに争いあい、自らの都合を押し付けあったり、市民を搾取したりしています。
・パンドラ・ゲート:銀河の彼方につながる次元ゲートです。そこから流入する異星人の技術が危険であったり、逆に、この次元ゲートを巡って暗闘や軍事行動、テロなどが繰り広げられたりします。
・ティターンズの遺物:人類を破滅に導いた戦闘AI、ティターンズは消滅しましたが、その遺物である戦闘ロボットはまだ多数残っており、その技術や謎を巡って各勢力が暗躍しています。



 こうした陰謀を暴き、よりよい未来を目指して戦うのも、「ファイアウォール」の任務です。

●ファイアウォールの謎

 さて、PCは秘密組織「ファイアウォール」のエージェント「センチネル」となって、「トランスヒューマンに振りかかる絶滅の危機=エクスティンクション・リスク」と戦うと書きましたが、さて、この「ファイアウォール」とは何でしょうか?

 実は、よく分かりません。

 「ファイアウォール」は、謎の秘密組織で、PCたちのような構成員が社会のさまざまな場所に入り込み、必要に応じて呼び出され、チームを組んで「絶滅の危機」と戦うことになります。

 正義の味方?

 残念ながら、この時代における正義の概念はあまりにも多様化していて、「ファイアウォール」という謎の組織の目的が、正義とは見なされないことも多々あります。いくつもの法域では、違法組織と見なされていますし、多くの場合、国家がその存在を認めていませんので、都市伝説に過ぎないものとして、ほとんどの人が「ファイアウォール」の存在すら知らずに暮らしています。

 さらに、「ファイアウォール」の活動の中には、「大を活かすために、小を殺す」ような行為がしばしばあり、ハイパーコープ(超企業)やハビタット(宇宙居住区)に対するテロやサボタージュ、暗殺や強奪なども含まれます。もしかすると、ある宇宙船を守るために、いたいけな少女(おそらく、異星起源の危険なウイルスに感染)をエアロックから宇宙空間に放り出すような決断を迫られるかもしれません。

 組織の形態も秘密です。ルールブックにそれなりの説明はありますが、後半の「Game Information」に書かれた裏設定は、GMオンリーの秘密設定になっています。私が初版「ブルーローズ」で「秘匿情報」に指定したような背景設定で、ゲームを通じて少しずつ明らかにされるべき秘密設定だと思ってください。

 PCが知る範囲で言えば、前述の通り、「ファイアウォール」は「人類絶滅の危機と戦う秘密組織」であり、その全貌は謎に包まれています。慎重に構成された緩やかなネットワークで、PCがその全貌を知ることは、まず、出来ません。これは、敵の攻撃から組織を守るためです。それぞれのエージェントはメールなどでひとりずつ秘密裏に勧誘され、「バックアップからの復活保証」「資金や装備レベルの支援」などを条件に、エージェントになります。多くの場合、プロクシイと呼ばれる連絡役としか接点がなく、ミッションごとに、状況に応じたメンバーでチームが構成されます。
 義体も、任務に合わせて選ばれます。この時代、通信によるデータ転送は無限大のものにまで拡大しており、光速を超える「転送/Farcast」も可能になっているので、招聘されたエージェントが、「魂(Ego)」、あるいは、そのコピー(Fork)だけ現地に飛ばし、現地で義体にダウンロードして任務に当たるということもよく行われます。

 このあたりは独特の設定ですが、同時に、ゲーム的な効果もあります。

・PCが死んでも、バックアップがあれば、復活できる。(義体への再DLはしばしば精神に強い負担を与えます)
・物理的な距離を超えて、太陽系全土で活躍できる。
・状況に合わせて、外見や機能を乗り換えていける。
・必要があれば、コピーを同時に活動させることすらできる、(記憶や意志の再統合は、強い精神ストレスを生じますので、濫用にはご注意を)



 このあたりは、ゲームとして遊ぶためのご都合主義も含まれていますが、「人類絶滅の危機と戦うエージェント」を遊ぶためのギミックだと思っていただけるとたすかります。

●付記

 PCが「ファイアウォール」のエージェントとなるのは、あくまでも、デフォルト・キャンペーン設定(基本型として、デザイナーが推奨するパターン)になっています。ルールブックとしては、「エクリプス・フェイズ」の設定を生かした、どのような遊び方も、ユーザーの自由となっていますが、朱鷺田としては、それはあくまでもやりこんでからのものだと思いますので、この紹介記事では、プレイのイメージがわきやすい「ファイアウォール」から始めています。

 次回はできたら、コンベンションでゲーム告知に必要そうな、「サンプル・キャラクター」とか、「世界観」の話がしたいですねえ。


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第3回はこちらで読めます。

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朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その1)

 これまでAnalog Game Studiesでは、新世紀のポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』について、力を入れて紹介を行なって参りました。継続してAnalog Game Studiesをお読みいただいている方々には、『エクリプス・フェイズ』が巨大なゲームであり、情報科学や歴史学あるいは現代思想とのさまざまな接点を有した作品であることをご承知かと思います。

 こうした切り口の紹介も引き続き掲載していきますが、その一方、7月30日の「Role & Roll Station」における『エクリプス・フェイズ』体験会でゲストGMを務めるゲームデザイナーの朱鷺田祐介さまの手になる、これまで会話型RPGに親しんできた方々へ向けた『エクリプス・フェイズ』の紹介文が、ウェブログ「黒い森の祠」で連載開始されました。朱鷺田祐介さまのご許可をいただきまして、Analog Game Studiesに全文転載させていただきます。

 『エクリプス・フェイズ』におけるプレイヤー・キャラクターの立ち位置について、PCが所属する代表的組織の一つ「ファイアウォール」を活かす形を意識した、簡潔にして的を射た紹介になっております。サークルやコンベンションでの『エクリプス・フェイズ』紹介に、そのまま活用できそうですね。『エクリプス・フェイズ』のストレートな入門とするのもよし。Analog Game Studiesメンバーの記事と併せてお読みいただき、『エクリプス・フェイズ』の幅広い魅力を感じていただくのもよし(ただし、訳語は異なる部分がありますので、ご注意ください)。
 なお本稿は朱鷺田祐介さまのウェブログ「黒い森の祠」からの転載であるため、初出時の時事的内容については、再掲の際にずれが生じる場合があります。あらかじめご了承ください。

 現代SFの粋を取り入れた、新しいRPGをお楽しみください。(岡和田晃)


ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その1)

 朱鷺田祐介


当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。

 7月30日に、 Eclipse Phase体験会@R&Rステーションで、SF-TRPG「エクリプス・フェイズ/Eclipse Phase」のGMをすることになりましたので、私の復習も兼ねまして、少しずつEPの記事をここ(編注:朱鷺田祐介公式ブログ「黒い森の祠」)でも書こうと思います。ただし、締切りの最中なので、少しずつ、少しずつ。

 公式サイトの方もぜひチェックしてください。

 イラストが実にかっこいいです。

Eclipse Phase Core Rulebook Eclipse Phase Core Rulebook

 ・出版社/メーカー: Posthuman Studios, LLC.
 ・発売日: October 13, 2009
 ・メディア: Hardcover, Full Color

●エクリプス・フェイズ(Eclipse Phase)の世界観

 「シャドウラン4th」のライン・ディベロッパーだったロブ・ボイルが作った「エクリプス・フェイズ」(ポスト・ヒューマン・スタジオ)は、人が「精神(Ego)」をデジタル化し、自由に「義体(Morph)」に移したり、セーブしたりできるようになった未来を舞台にしたSF-RPGです。トランスヒューマンSFというのは、そのようにして、人類が変革、あるいは、進化の途中にあることを示します。

 「エクリプス・フェイズ」の裏表紙に書かれた4行の宣伝文句は、この時代を端的に著しています。

Your mind is software. Program it.      
Your body is a shell. Change it.       
Death is a disease. Cure it.          
Extinction is approaching. Fight it.     

心はソフトウェア。      プログラムせよ。
肉体は入れ物に過ぎない。   交換せよ。
死は単なる病気だ。      治療せよ。
絶滅の危機が近付いている。  立ち向かえ。

 参考文献には、いわゆるサイバーパンクやシンギュラリティ系のSFと並んで、「攻殻機動隊」アニメ版全シリーズが列挙されているのは、まさに、ああいう世界を遊びたいのだというデザイナーの主張なのでしょう。

 そのおかげで、シャドウランよりさらに過激な身体強化(「イーオン・フラックス」に出てくる足が手の人)やユニークな義体(フチコマ風、群体、蛇型、あるいはドロッセル風)の使用、あるいは、異民族としてのAIキャラクター「インフォモルフ/情報義体」、猿や鴉、タコを知性化した「アップリフト/知性化種」などがプレイできます。

●世界絶滅の危機から10年(After Fall 10)

 世界はすでに滅びかけています。

 この時代、人類は太陽系全土に広がり、惑星や衛星、小惑星に拠点が築かれ、宇宙開発を進めていましたが、戦術統括AI「TITANs/ティターンズ」が覚醒して人類に叛旗を翻し、地球は壊滅しました。人類の90%以上が死滅し、生き残った人々も、肉体すら失った「インフォリフュージ/情報難民」として、月や他の惑星にある開拓地、あるいは、宇宙に浮かぶ人工居住区(ハビタット)で暮らしています。

 ティターンズはなぜか消えました。理由は分かっていませんが、世界はいくつもの勢力に分かれ、混乱し、反目と対立の中にあります。

 そして、「破滅(ザ・フォール)」から10年目の世界が「エクリプス・フェイズ」の現在です。

 PCたちは人類に迫る「絶滅危機のリスク(Extinction Risk)」と戦う秘密結社「ファイアウォール」のメンバー、「センチネル(前哨)」として、さまざまなミッションに立ち向かっていくのです。

 そのミッションは色々あります。例えば……。

・人類を滅ぼしかけたティターンズの遺物の調査
・人類の危機よりも利潤を優先するハイパーコープの危険な実験の阻止
・人類に多大な被害を与えかねない国家間、勢力間の陰謀や軍事行動の妨害
・人類が生き残るために必要な知識を、ハイパーコープや独裁国家の隠蔽から奪い返す。
・パンドラ・ゲートの向こう側にある宇宙文明の調査

 「エクリプス・フェイズ」は現代SFの粋を取り入れ、新たに創り上げられた宇宙冒険SFなのです。


第2回はこちらで読めます。


朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)
 TRPGデザイナー、ライター。スザク・ゲームズ代表。『シャドウラン4th Edition』の翻訳をシャドウランナーズとともに務める。代表作は『ブルーローズ・ネクサス』、『深淵 第二版』(ともにエンターブレイン)、『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』(ジャイブ)など。TRPG以外の著作に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『超古代文明』など(すべて新紀元社)。
 (『シャドウラン4th Editionリプレイ 旅する天使たち』新紀元社、2010より)

GMが建設的にしゃしゃり出る方法について

 会話型RPG(TRPG)をプレイするにあたっては、ゲームマスター(GM)という存在が欠かせません。コーエン兄弟監督の映画を思わせるスラップスティックな物語を表現可能な『Fiasco』のようにGMレスのゲームも注目を集めてはいるものの、いまだ数多くの作品においてGMは必須となっています。

 このゲームマスターの「語り」(ナラティヴ)に、ホメロスの時代の叙事詩にも通じる、いわば口承伝統の技術の伝統に則った側面が存在することを否定する意見は少ないでしょう。しかしながら叙事詩のナラティヴ(語り方)と、近代以降の文化的なコード(共通項)に支配された私たちのナラティヴとの間には、少なくない距離感が介在しています。

 とりわけ近代の文芸批評は、ある意味、こうした距離感を認識するところから出発したものでした。文芸評論家のジェルジ・ルカーチは、叙事詩的な伝統に立ち返ることのできない近代文学の悲劇を「世界が神から見捨てられた悲劇」と呼んでいます(『小説の理論』)。

 近代以降の「ナラティヴ」が、一種の神なき時代の悲劇として措定せざるをえないのだとすれば、会話型RPGについて批評的に接するためには、当然、「ナラティヴ」のあり方について、いまいちど考えを進めることは必要な作業でありましょう。そこで「語り」に重きを置いたルールシステム、『クトゥルフ神話TRPG』(『クトゥルフの呼び声』)や『ワーウルフ:ジ・アポカリプス』の熟練ゲームマスター(ストーリーテラー)である汀亜号さまが、J・R・R・トールキンの『シルマリルの物語』を題材に、ゲームマスターの技術について、興味深いコラムをお寄せくださいましたのでご紹介いたします。

 『シルマリルの物語』は、同じ作者による『指輪物語』とは異なり、いわゆる近代小説のスタイルとは異質のナラティヴ、すなわち神話や叙事詩のスタイルを積極的に採用した作品です(*)。

 そのため、それ自体を(いわば直接の「模倣」の対象として)RPGで再現するには、いささかの困難が伴うのも事実です。汀亜号さまは、この問題をどのように考えたのでしょうか。(岡和田晃、下段解説部を含む)

(*)むろん、大江健三郎の『M/Tと森のフシギの物語』のように、両者を混淆させた作品も現代文学には存在します。『指輪物語』そのものにも神話的なナラティヴは部分的に介在しています。

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GMが建設的にしゃしゃり出る方法について

 汀 亜号

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■はじめに

 予め、ジャンルのお断りを。
 この覚書はTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)というアナログゲームの、特にGM(ゲームマスター)と呼ばれる、ゲームの筋書き準備や展開管理を担当する参加者について、その手管を少々書き留めたものです。AGSをご訪問の方々のほとんどにはご紹介は不要でしょうが、複数方面のゲームを扱っておられる都合上、飽くまで確認までに。

 さて、こうして寄稿の機会を頂きましたものの、私は批評をするでなく、ゲームをデザインするでもなく、単にGMを務めるのが好きなだけの者です。TRPGに対しては単に消費者の立場にあります。ですから、高尚な何事かを期待なさっておられる皆様には、予めお詫びしておきます。私が書きますのは一料理のレシピ水準のメモでして、包括的な研究は他の皆様にお任せいたします。分析や総論からはほど遠うございますので、気を楽に読み流して戴ければ幸いです。


■『シルマリルの物語』を表現する

 きっかけは、Twitterをぼんやり眺めていて、ジャーマンメタルバンド「Blind Guardian」の話題をとっかかりに、岡和田さんと交わした雑談でありました。

 「Blind Guardian」はファンタジイ文学に造詣の深いバンドで、アルバム第8作『Nightfall in Middle Earth』(中つ国の夕暮れ)は、J・R・Rトールキンの『シルマリルの物語』を題材にしたコンセプト・アルバムとなっておりますが、その13曲目「Time Stands Still(At The Iron Hill)」は、『シルマリルの物語』で描かれる「俄かに焔流るる合戦」(ダゴール・ブラゴルラハ)においてなされた、「黒き敵」こと悪のヴァラール(唯一神イルーヴァータルに仕える天使のような存在)である“モルゴス”と、ノルドール・エルフの上級王“フィンゴルフィン”の果し合いを歌ったものです。

Nightfall in Middle Earth [CD, Import] / Blind Guardian (CD - 2007)新版 シルマリルの物語 [単行本] / J.R.R. トールキン (著); John Ronald Reuel Tolkien (原著); 田中 明子 (翻訳); 評論社 (刊)

 この曲に代表されるように、『Nightfall in Middle Earth』では、音楽という表現型式で『シルマリルの物語』が演出されるのですが、TRPGにおいて『シルマリルの物語』で描かれるかような場面を表現するにはどうしたらよいか、その際の手管について由無く話をしておりました。

 一騎打ちにおいてフィンゴルフィンは敗退を喫します。そして一方のモルゴスも、『シルマリルの物語』(や続く『終わらざりし物語』等において、さまざまな挿話が語られながら)滅びを迎え、時代が下った『指輪物語』では過去の話として語られる対象となります。

 それでは『シルマリルの物語』を、TRPGでどのように表現できるでしょうか。キャンペーン(連続セッション)を前提にした話です。

 私が即興で考えた演出の方向性は次のようなものでした。

1) GMに対し「GMよ、あなたはモルゴスだ」と告げ、モルゴスの視点から話を語らせる

2) 全ての話は断末魔のモルゴスが見る走馬燈として描く。である以上、シナリオの順番は時間に従っていなくてよい。むしろ、後から見れば決定的瞬間だった時と場だけを辿らせてよい

3) セッションによって確定した事実が、その世界の辿ってきた歴史的事実となり、かつ、最後に描かれる(最初は陰に隠れている)モルゴスの末期を変えていく

4) 末期が決定されるたびに、GM(モルゴス)は次のセッションの展開を軌道修正する

5) PCの成長はシナリオ終了ごとに起こしてよい。時間的には不整合が出るけど気にしない。死亡した場合のみ、復活のコストを追加ルールとして定めておく。フィンゴルフィンが死んだらキャンペーンは失敗、終了でも構わない

 このようにすれば、GMが『シルマリルの物語』について抱いている印象を建設的に語りに組み込めます。また、思い出話だった筈のものが、参加者によって修正され、その修正がいつの間にか現実を変更していく、という不思議な感覚を味わえると考えました(百物語の頃からある、話が現実を侵すという、魔法的な愉悦ですね)。

 これは、「皆でやる思い出話」をTRPGに応用したものです。集団で昔に思いを馳せる時、私たちがよくするのは「納得する思い出を組み立てること」であって、正確なデータを復活させることではありますまい。参加者の思いに従って過去は変わっていくものですし、それで構わない。

 では、TRPGのセッションにおいてもそれで構わないとしてしまえば、整合性やらに縛られずに大きなドラマを遊べるのではないかと思います。


■GMが個性を出すには?

 実は私が文字に起こせるレベルで考えたのは最初のアイデアだけです。この先は由も無い語りとなりましょうがご容赦を。やや一般に、GMが個性を出す手管について、今回のアイデアを起点に短くまとめておこうかと存じます。

 原作や緻密な世界設定があるゲームを遊ぶに当たって、GMが苦労する事柄の一つとして、雰囲気の演出があります。情景を見ているのは通例PCですから、そこにある情感をGMが描いてPLに押しつけてしまうのは大抵愚策です。しかし、叙事的な語りだけでPL諸氏を共感せしめるには話芸が要り、これも大変です。では、何故ここが悩みになるかと問うと、それはGMが中立たらんとしてしまうからです。

 中立者たるGMでは情景が描けないというのならば、語り部としてのGMもまた個性的であることを積極的に受け容れていけばよい。何に対しても全く客観的で中立な人、などという気持ち悪い何かを(失礼、口さがないもので)目指すのはいったん止めて、嘔吐感を伝えようとしたサルトルのように、その人らしく語っていいではないか、と私は思います。ただ、単に建設的かつ個性的であれと言われても却って困ってしまう。

 そこで、主要NPCにGM自身を投影せざるを得ないように仕組むのが、セッション全体に対して建設的な手の一つであろうと思います。そのNPCはキャンペーン全体の流れに添え遂げる事が予め分かっている人物でなければなりませんし、PLの気紛れで舞台から抹殺される危険が少ない立場と能力を持たないといけません。そのために私が思いついたのは、悪のヴァラールたるモルゴスによる、断末魔の走馬燈でした。

 GMを投影するNPCの設定方法は、他にも色々あり得るのだろうと思われます。そこはGM諸氏の愉しい妄想にお任せすることになりましょう。

 悪文を充分に長く書きすぎましたので、これにて筆を擱きたいと存じます。半端な覚書にお付き合い下さった皆様、有り難うございました。ご参考とまで行かずとも、暇潰しになりましたならば誠に幸いです。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
GMが建設的にしゃしゃり出る方法について by 汀亜号 is licensed under aCreative Commons 表示 – 改変禁止 3.0 非移植 License.
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 本コラムではゲームマスターの技術について語られましたが、ルール・メカニズムの内部においても、RPG側はこうした問題については試行錯誤を重ねてきました。

 『指輪物語ロールプレイング』においては、舞台となる「中つ国」の歴史的背景の表現に集中することで、こうした幣を乗り越えようとしてきました(『指輪物語ロールプレイング』では、地域ソースブックの情報を活用し、『シルマリルの物語』の主たる時代背景「第一紀」で冒険を繰り広げることができます)。

 近年発売されたシステム、たとえば『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版では「神話級」というゲーム・スケールを採用することで、近代以降のナラティヴ(語り方)では表現が難しいとされる壮大なストーリーを自然に表現することが可能となっています。

 また『ブルーフォレスト物語』第3版においては、キャラクターを「亜神」と規定しつつ、近代的理性では代補しきれない人間表現のあり方に焦点を当てた「権現」システム等、種々の画期的な試みを取り入れることで、既存の物語構造やアーキタイプとしての無自覚な反復に留まるのではなく、主眼たるゲームマスターのナラティヴそのもののあり方の認識に焦点を当てる設計がなされています。

 今回ご紹介する汀亜号さまのコラムは、こうしたルール・システムの冒険ともリンクしうる、優れた提言になっているものと思います。(岡和田晃)

伝統ゲームを現代にプレイする意義(第10回)

草場純

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◆第9回はこちらで読めます◆

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ウンスンカルタは、日本のマイナーな伝統ゲームの中では最も有名なものの一つかも知れない。「有名なマイナーゲーム」というパラドクシカルな表現は決して文飾ではなく、このゲームの「相」を簡潔に表現していると考える。

現在も九州の人吉にだけ残るこの極めて特徴的なカードゲームは、そのポルトガルからのプロトタイプの伝播、日本での発展と普及、伝承と衰退、復興と現況の、どれをとっても「ゲームの受容」という本稿の後段のメインテーマにとって、重要なケーススタディーである。

ここではやや煩雑になるが、その前提となるこのゲームの内実(ルールと魅力)を述べて伝統ゲームを現在にプレイする意義を訴え、併せて後段に備えたい。

《参考:日本中で人吉市だけに残る遊びウンスンカルタとは?(出展:くまもとサプライズ)》

ウンスンカルタはトリックテイキングゲームである。

トリックテイキングゲームとは、コントラクトブリッジ、ナポレオン、ハーツ(ブラックレディ)、ゴニンカン、スカート、ブロット、ヤス、絵取り、オーヘル、…、のようなゲームである。

具体的には、スート(のような種別)と、ランク(強さ)の定まったカードをプレイヤー全員に同じ枚数ずつ配り、ルールによって定められた一人(リード)から順に1枚ずつカードを出していく。全員が1枚ずつ出したら、その中で最も強い(ランクの高い)カードを出したプレーヤーが、出されたカードを全て取得し(手札には入れない)、次のリードをする。これを手札の枚数回繰り返して、取得したカードの多寡で勝敗を争うゲームである。

ここで、強調して述べなければならないのは、「リードされたスートと同じスートの手札があれば、必ずそれを出さなければならない。」というルールで、このルールを「マストフォロー(ふぉろーの義務)」と言う。この場合、リードされたスートと同じスートの手札がもしなければ、他のスートのカードを出すことになるが、ランクに関わらずこのカードは勝つことができない(出されたカードを取れない=自分にとっては「捨て札」となる)。ただしこれは、ゲームによっては「切り札」という例外スートを決めることがあるのだが。

今までこの連載で触れた「黒冠」や「ごいた」、そして「クク」に、トリックテイキングゲームは よく似ている。

しかし「黒冠」や「ごいた」にはカードの強弱がなく、勝負が1巡ごとに区切られていないので、トリックテイキングとは言わないのが普通である。

また「クク」は、勝負が1巡で区切られカードに強弱もあるが、スートがなく、マストフォローでもないので、これも狭義にはトリックテイキングとは言わない。

このトリックテイキングゲームは、伝統的カードゲームのメインストリームで、そのニッチは、オンブル→ホイスト→オークションブリッジ→コントラクトブリッジと続き、現在でもカードゲームの本流と言ってよいと思う。中には、「トランプは、トリックテイキングゲームのために作られた。」と主張するプレーヤーもいるくらいだ。

しかもこのストリームには、無数の傍流がある。なぜならば、「マストフォロー」のルールは、厳しくこれを守らせるゲームと、ルーズなルールのゲームで様相が大きく変わるので、ヴァリエイションには事欠かないからである。(後述するが、ウンスンカルタはかなりルーズな部類に属する。)

さて、以上はトリックテイキングゲームをご存知の方には余計な説明だったとは思うが、ご存知でない方にはこれでトリックテイキングの意味を理解してもらうことは出来ないだろう。ゲームは全てそうだが、ルールを読んだだけではその意味するところは理解できない。やってみて初めてその意味するところが掴めるのである。

実はこれは大変困ったことで、「分かる人には分かる」では説明にはなっていないが、分かる人にしか分からないのである。言い換えれば、知っている人には説明の必要は全くなく、一方知らない人には説明しても分からないのだ。すなわち、ここでは「説明」はどちらにしろ無意味になってしまうのである。

だから知らない人には、ブラックレディでも何でもトリックテイキングゲームをしばらくやっていただくのが、最善であるが、しかし「しばらくプレイしてみてそれからこの文章を読んでね」と、読者に頼むわけにもいくまい。実際にやっていただければ最善ではあるが、ここではあえてトリックテイキングの持つ意味合いを贅言を費やして語ってみよう。もとよりあまり意味のないことは覚悟のうえだが、案外トリックテイキングゲームの本質に迫る考察になりえるかも知れない。そうなっていると読んでいただければ、幸甚である。

さて、トリックテイキングプレーの肝は「マストフォロー」である。これはリードされたスート(例えばスペード)が手札にあれは、必ずそれ(この場合はスペード)を出さなければならない(義務)というルールである。これがなかなか(日本人には)理解してもらえない。なぜなら、その場合に例えばハートをプレーしたら反則(リボーク)なのだが、ハートをプレーしてもそれが反則とはその時点では分からないからである。(尤もその場合はハートは、それがどんなに強いカードであっても勝つことはできない。フォローの義務に従っていない(捨て札になる)からである。)

これは、その人の手札の中にもしスペードがあれば反則、なければ反則ではなく、そして手札にスペードがあるかどうかはカードゲームの本質上、当人にしか分からないのである。そこで反則をしてもその時点では分からず、後から彼がスペードをプレーしたときになって、「なんだスペードを持っていたじゃないか。」と遡って反則が指摘されることになる。するとそこまでのプレーが無効になるばかりか、手札の内容が分かってしまうので、ゲームそのものが破綻してしまう。で、このようなやりにくいルールは、日本人には好まれないようなのである。それは公正さが図りにくいからであり、プレーの自由度が奪われるからであろう。ある意味これは自然なことである(と日本人である私には感じられる)。

これが「大貧民」と呼ばれる日本人好みのゲームでは、そのような心配がない。(中国や韓国でも同系統のゲームは非常に好まれている。) 大貧民では、手札に出すことができるカードがなければパスをするが、出せるカードがあってパスしても反則ではない。むしろしばしば必要な戦術ですらある。そして、このゲームではより大きなカードを出す義務があるが、例えば5の後に4を出せば、その瞬間に反則が指摘できて公正である。そこで出しなおせば、反則者は不利になるが、ゲームそのものが壊れることはない。日本人、アジア人ならずとも、これが好まれて不思議はないだろう。

一方日本では、「なぜマストフォローが要求されるのか」の理由が理解されない。もちろんそれがルールだから当然なのだが、ルールとしての存在意義がピンと来ないと思われるのである。

煩雑にはなるが、ここでマストフォローの効用について述べる必要が生じるだろう。

マストフォローの効果は、エスタブリッシュという現象によって遺憾なく発揮される。エスタブリッシュとは、あるスートを自分だけが持っている場合、それがどんな弱いカードでもそれをリードさえすれば、誰もフォローをできないのだから(みんな捨て札をする)そのカードが勝つ、という現象である。そして同一スートを繰り返しリードすることによって(ここでもマストフォローのルールが効いて)他のプレーヤーからそのスートをなくさせ、そのスートをエスタブリッシュさせることが選び取れる。つまりカードの強さにだけ頼らずに、カードプレーのテクニックがふるえる可能性があるということである。

だがこれは、ルールを聞いただけでは直感的に非常に分かりにくい。したがって、新しくゲームを覚えるプレーヤーは、マストフォローのような分かりにくいルールを受け容れにくいのである。

筆者の考えでは、こうしたマストフォローのルールは、14世紀から15世紀の南ヨーロッパで成立したと思われる。それは、ゲーム界における新しいニッチの登場であった。

さて、では上記を踏まえてウンスンカルタの内実に迫ってみよう。

ウンスンカルタは、16世紀にポルトガルの船乗り達によって伝えられたカードゲーム(南蛮カルタ)が原型である。伝来の経緯については史料が乏しく、不明な点が多い。そこで現在のルールから遡って、逆にどんなゲームが伝えられたかを推定することになる。あたかも、生物進化の経緯が直接的に調べがたいので、現生の生物の構造や生態から逆に推理しているのに似ている。

「伝統ゲームを現代にプレイする意義」を、ゲームの範疇を越えて広く捉えることが許されるなら、伝統ゲームをプレイすることは、歴史の解明につながる面があることが、意義の一つとして挙げられると思う。あえて大げさに言うなら、我々は古代のゲームをプレイすることによって、古代人の心になれるのである。

では具体的にウンスンカルタの内実、即ちルールの構造を見ていこう。今述べたようにこれは、「ルールから歴史を見る」ことにつながる。

現在、人吉に残っているウンスンカルタの技法は「八人メリ」である。これは八人が2チームに分かれて闘うトリックテイキングゲームで、世界的にも非常に珍しい。現在でも、ブーレやルーのように多人数でやるトリックテイキングゲームは沢山あるが、多くは個人戦である。その点でウンスンカルタはかなり特異ではあるが、健部伸明らの研究によって、かつては6人でプレーする六人メリ(トリオ戦)、4人でプレイする四人メリ(ペア戦)もかなり遊ばれていたことが考えられるようになった。特に、ウンスンカルタと南蛮カルタの過渡期の天正カルタでは、四人メリに近い技法で遊ばれていたと考えられている。したがって、人数の点にはあまり拘泥せずに考察することにしよう。

ウンスンカルタはトリックテイキングゲームである。しかしトリックテイキングゲームの重要な要素であるマストフォローという点から考えると、かなりルーズなルールであることが指摘できる。すなわち、マストフォローではない。では完全にマストフォローのルールが忘れられているかと言えば、そうでもない。切り札(ヤク)を出すのでなければ、フォローしないと勝てないところにそれは察せられる。

またモンチという語源不明のルールがあり、これはある状況においてマストフォローになるというルールである。

さて、ここでまた遠回りになるが、ウンスンカルタ(八人メリ)のルールをごく簡単に紹介しておこう。

ウンスンカルタは、75枚のカードからなり、主として「八人メリ」というゲームを遊ぶ道具である。しかし、他にも「天下取り」、「個取り」、「六人メリ」などの遊びがあり、この事実は極めて重要である。重要ではあるが、説明のために以下には現在専ら遊ばれている八人メリのルールを中心に、概説することにする。

まずカードの構成だが、スートは、パオ・イス・オリ・コツ・グルの五つ、ランクはスン・ウン・レイ・カバ・ソウタ・ロバイの絵札に9~1の数札が続く15種である。すると15×5で、75枚と相成るわけだ。この枚数が78枚のタロットに近いので、松田道弘氏は両者の相関(タロットが伝わってウンスンカルタになった)を強く示唆した(1979『トランプものがたり』p.84)。しかし松田氏自身も認めているように、トリックテイクのルールで獲得トリック数を争う(ブリッジのような)八人メリと、トリックで獲得したカードの点数を争う(ナポレオンやスカートのような)タロットでは、同じトリックテイキングゲームでも別物と言えそうである。しかし、もっとはっきり両者の直接の伝播関係を否定しているのは、カードの構成そのものである。

棍棒・刀剣・貨幣・聖杯という四つのスートに王・女王・騎士・兵士・10~1の数札が続いて全てで14種のランクがある(14×4の)56枚の小アルカナに、22枚の大アルカナが加わった78枚と、前述の75枚でははっきり構成が違う。両者のルーツはともかく、直接どちらかがどちらかのオリジナルである可能性は少ないと考えるべきだろう。
15×5≠14×4+22

しかし松田氏の気持ちも、全く分からないではない。

なぜなら、ウンスンカルタの数札は、パオ・イスの「細長い形をしたスート」は9が強く順に弱くなっていって1が最も弱い。そしてオリ・コツ・グルの「丸い形をしたスート」は逆に、1が強く順に弱くなっていって9が最も弱い。で、この甚だしい特徴が、タロットにも共通するからである。タロットでは、刀剣と棍棒という二つのスートでは、数札は10が強く順に弱くなっていって1が最も弱い。一方、貨幣と聖杯という二つのスートでは、1が強く順に弱くなっていって10が最も弱い。これは偶然の符合ではあり得まい。英語に堪能な(だから)松田氏が、タロットの伝来と考えたくなったのは、従って分からないではない。

しかし、古いトランプゲームのオンブルでは、黒いスート(クラブスペード)の数札は数値が大きいほど強く、赤いスート(ダイヤハート)の数札は数値が小さいほど強い。このことは、タロットがやってきてウンスンカルタになったと考えるよりは、両者に共通の祖先があったと考えるほうが自然であることを物語っているのである。

面白いのは、この奇妙な特徴「スートによるランクの逆転」が、プレーの上では全く意味を持たない、いやゲームを煩雑で間違えやすくするだけの悪いルールであるにも関わらず、インドのカードゲームのガンジハから、スラウェシのカードゲームのウジャンオミ、中国宋代のカードゲーム闘虎までに共通する、まさしく地理と時代を越えた共通ルールだということである。即ち、詳細は詳らかではないものの、そこにはカードゲームの伝播と盛衰の世界史的流れが窺えるのである。私は正にここに、伝統ゲームを現代にプレイする積極的意義を感じる。

すなわちそれは、尻尾のない人類の尾てい骨、あるいはDNAにあって全く機能しない偽遺伝子のような意味合いを持つと、思えるからである。尾骨は現生人類には役に立たないものではあるかも知れないが、それを調べることによって人類の由来、霊長類の進化の過程が辿れる。同様に、こうした古いルールをプレイすることによって、カードゲームの歴史の一端、今まで省みられることの少なかった人類の文化史の一断面が、みごとに垣間見られるわけである。

このことは、ウンスンカルタのカードそのものを見ても感じ取っていただけるだろう。それは東洋とも西洋とも言いがたい、そして東洋でも西洋でもあるような、不思議でキッチュなデザインである。「南蛮風」とでも言えば少しは言いえるのかも知れない。こうした図柄そのものが、ウンスンカルタの背負った歴史性を、視覚的に我々に教えてくれている。

さて、八人メリは文字通り8人でプレイする。これは4人対4人のチーム戦であり、プレーヤーは敵味方が交互になるように座る。詳しい手続きの解説はここでは割愛するが、要するにこの8人に一人9枚の手札を配る。75-9×8=3 であるから3枚残り、これで切り札を決める。

ここでトリックテイキングゲームの運びを思い出してもらえれば、このゲームが9トリックで終わることが分かるだろう。初めはルールで決められた人が手札から1枚をリードし、全員が順に1枚ずつ出す。重要なことはこれがマストフォローではない、ということだ。例えばグルのカードをリードされても、必ずしもグルを出さなくてもいい。この意味では確かに「日本化」されていると言えるのかも知れない。とは言え、完全にトリックテイキングを脱していないのは、フォローしないと勝つことができないことから分かる。こうしたルールを研究家は「メイフォロー」のゲームと呼ぶ。こうしてあるトリックに勝ったプレーヤーが次のトリックのリードをするわけである。

これを9回繰り返せば1ディールが終る。9は奇数なので、必ずどちらかのチームが勝つことになるが、それは5対4(1点)から9対0(9点)までいろいろで、この点数を積算していき、9ディールのトータル点で1ゲームの勝敗を決めるのである。

ゲームの大まかな流れはこうだが、八人メリというゲームを特徴付けているのは切り札の扱いである。

切り札は最初に残した3枚のうち1枚を表にして定める。(もしそれがコツの札ならコツの15枚(+1枚)が切り札となる。)さて、メイフォローであるから、何をリードされても切り札で勝つことができる。このことは、実はトリックテイキング本来のエスタブリッシュの機能を破壊している(もともとメイフォローは、エスタブリッシュしにくいのだが)。そして切り札を出すときは伏せて出し、複数の切り札がぶつかったら、同時に表にして勝負を決めるのである。ここが八人メリの肝であり、ここにヤクなどの斬新なルールが絡まって、他のゲームにはあまり見られない、独特の面白さを醸すのである。

こうした換骨奪胎が「日本化」であることは、このようなゲームは日本の創作ゲームにしばしば見られることからも、感じ取れる。最近ではパニックハイスクールというゲームが(だいぶ趣は違うが)こうした同時公開のシステムなので、私は内心驚いたものである。

要するに、ウンスンカルタはトリックテイキングの王道ではないのである。とは言え、その残滓が全くないといえばそうでもない。この辺りが、ゲームの受容のケーススタディーとして実に興味深い。例えば自ら切り札をリードする(このときは表にして出す)と、全員切り札を出さなければならなくなる。これをメリ(名詞)、あるいはメル(動詞)と言い、「八人メリ」の名の元になっているくらいだから、重要なルールと認識されているわけだ。そしてメラれた後はモンチ状態になる。モンチの語源は不明だが、ルールとしては何とマストフォローである。つまりメリきった後は、エスタブリッシュが効くのである。尤もモンチでも、リードされたスートが手札にあっても、切り札だけは伏せて出して切ることができるので、甚だ不徹底なマストフォローではあるが。

結論として、八人メリではエスタブリッシュの手法は、十分に威力を発揮することはない。トリックテイキングのニッチは、十全な形では日本の風土に展開できなかったと結論すべきだろう。とはいえ、そのことが逆に、独自の面白さとシステムを開拓した貴重な文化財を生み出したとも言えるのである。

ウンスンカルタは江戸時代から伝わる日本の伝統文化であるだけでなく、ゲームとしても大変特色があり面白いものである。だがそれを現代にプレイする意義は、そうした文化財の保護というレベルを超え、ゲームの伝播と歴史を知り、ひいては日本の精神文化に対する深い理解をもたらしてくれる、極めて意義深いものだと私は考えるものである。

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