【テーマ連載】CBT的アプローチのセッション運営(第1回)

Analog Game Studiesはアナログゲーム全般をエンターテインメントとして優れたものとして捉えていますが、同時にその社会的価値を高め、広く証し立てることを大きな目標として掲げています。
そこで今回は、商業媒体において発表された、心理学における認知行動療法を援用しつつ会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)を運営するためのコラムを、執筆者の許可をいただき、Analog Game Studies上で再掲させていただきます。

今回の記事を書かれたのは、伏見健二さま。
東洋風の世界観、「悟り」といった独創的な目標設定でRPGの新時代を切り開いた『ブルーフォレスト物語』、スチームパンクをベースに広義の社会参加・人間讃歌をシステム内に組み込んだ『ギア・アンティーク』、南米風の世界観のもと、ダイナミックな空戦システムと人と人ならざるものの往還を表現した『ドラゴンシェルRPG』など、作家性豊かなゲーム・デザインで知られる、日本を代表するゲーム・デザイナーの一人です。
あるいは『サイレンの哀歌が聞こえる』などの平明ながらも情感豊かな小説の書き手として認識されることも多いでしょう。
近年は、介護の現場で培った問題意識や方法論のゲーム・デザイン/運用への応用を模索されています。

Analog Game Studiesは伏見健二さまの問題意識に共鳴し、アナログゲームを、そしてアナログゲームを語る言葉をさらに豊かなものとするため、微力を尽くさせていただきたいと考えています。

なお、本文の冒頭にもありますが、本コラムで紹介するものは治療行為ではありません。会話型RPGを通じた介護、支援、コミュニケーションのレベルのアプローチです。治療に関しては専門医や臨床心理士の判断を仰いでください。介護や支援、コミュニケーションについての基本的な知識やスキルの習得は専門書や専門機関をあたっていただければと思います。本稿の方法論を実際に適用する際にも、本文中のチェックリストを活用し、専門家と相談の上でプレイングを行なってください。

会話型RPGが遊ばれる現場において、精神疾患を有していたり障害を有していたりする方の状況が正しく理解されず、いわゆる「困ったちゃんプレイヤー」として排斥されてしまう事例がままあります。これらの問題や対応について、容易な解決を見ることは難しいでしょうが、認知行動療法の予備知識があれば、そのプレイヤーを理解し、受容し、ゲームの仲間として楽しいひとときを共有するための何らかの糸口、思考のヒントを得られるかもしれません。少なくとも、従前よりも状況をより的確に理解することができるようになるのではないでしょうか。

本コラムをきっかけに、まずは、皆さまも考えてみてください。そして、得られた結論を一足飛びに実践へと移すのではなく、下段解説部でも紹介している伏見健二さまの「バイステックのRPG」(「つぎはぎだより3」所収、つぎはぎ本舗、2011、同コラムは体験版からもアクセス可能)もお読みください。
そして可能であれば、うつ病、精神疾患、障害、認知行動療法等の専門書へアクセスし、知見を広げる契機としていただけましたら幸いです。

なお、活動趣旨にも記載がありますが、本テーマ連載ならびにAnalog Game Studiesへのご意見につきましては、analoggamestudies1★gmail.com(★→@)にて承っております。すべてにお返事ができるとは限りませんが、ご意見をお持ちの方はお寄せいただけましたら幸いです。(岡和田晃、下段の解説部を含む、11/04/28一部補足修正)

本稿をお読みの方は、お手数ですが、あらかじめ「CBT的アプローチのセッション運営(第1・5回)」に記された「危険性の確認」をご確認ください。(2011/05/23追記)

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【テーマ連載】CBT的アプローチのセッション運営(第1回)
(初出:「ブルーフォレスト通信1」、グランペール、2010)

伏見健二

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■最初に知っておいていただきたいこと

鬱、妄想などの精神疾患症状が起きている場合、また精神障害者、知的障害者、なんらかの行動障害が発生している場合において、それをサポートして解決するのは純粋に医学的アプローチに基づくものでなければなりません。

それらの障害や疾病の理解については、このゲームルールブック(編注:会話型RPG『ブルーフォレスト物語』およびサポート誌『ブルーフォレスト通信』)ではまったく情報量は不足していますし、また、執筆者自身、医師や臨床心理士ではありません。この章が治療行為を推奨するものではなく、またその効果を保障するものではないことをお断りしておきます。

多くの場合、これらの治療は、カウンセリングによってのみ行われるものではありません。専門医による投薬や支援が必要となります。これは治療レベルではなく、介護、支援、コミュニケーションのレベルのアプローチである、ということを強調した上で、文章を進めさせていただきます。うつ病、精神疾患の知識や、認知行動療法について、より詳しくお知りになりたい方は専門書をあたってください。

■認知行動療法

認知行動療法(CBT)は、主としてうつ病の行動支援のカウンセリング手法として発展してきました。その特徴と原理は、自己の客観視による不利な自動思考(NATS)の抑制、そして行動経験による克服と適応です。

なんらかの事象に出会ったときに、精神的傷害を受けている者は、自己に不利な思考や感情に囚われます。これは認知の歪み、すなわち「そう理解しなくても良いのに、間違った認識をして、自己の苦しみを増してしまう」ことです。どの瞬間に、どのような自動思考が発生するのかを知ることによって、クライアントと治療者はそれを正しい認知へ、あるいは回避的な認知へと導いてゆくことができます。

それが「思い込み」である場合、その思い込みが間違っていることを確認するためには、行動療法が有効になります。実際にやってみると、考えていたとは違っていた……この経験は、自動思考を塗り変える力となるでしょう。

それが「思い込み」ではなく不利な事実である場合はどうでしょうか。行動療法は成果とはならず、その不利を強調する結果になりかねません。その場合は認知療法が有効となります。不利益のなかになにかの利益を発見する認知を得ることによって、不利は有利に、有益な結果へなることを期待できます。見え方、感じ方は補整が利くことなのです。

成功経験による行動への自信、狭隘で偏向的な認知から、合理的な認知への克服。これがCBTの成果となります。

回復への原理は革命的なものではありませんが、それを容易に入手できないからこそ、うつ病やパニック障害からクライアントは抜け出せないでいます。これまでは治療者の個人差の高かった、分析と支援へのカウンセリング援助技術を、普遍的で手順的なスキルとして共有できるように体系化させたものがCBTなのです。

■TRPGとCBT

TRPGをCBTの視点で導入することは、次のような状況において有益です。

1:児童への行動療法的な教育の手段として。

2:思春期の心理変化において、認知力を高めさせ、行動障害を起こさないための予防的な認知力トレーニングとして。

3:成人において、健常で健康的な精神状態を維持するための心理トレーニングとして。

4:うつに悩まされているクライアントの、休息と自己実現の手段として。

5:なんらかの精神障害、知的障害、行動障害に合わせた、娯楽やソーシャルスキルトレーニングの手段として。

援助者はいずれの場合においても、TRPGをアセスメントツールとして、またCBTツールとして利用することができるでしょう。

注意すべきことは、この干渉はネガティブにも働きうる、ということです。治療的にTRPGを用いる場合、以下の条件をチェックリストとして使用してみてください。

・治療が必要なクライアントであれば、その支援が既に受けられていること。すなわち、精神疾患などがあれば、それが専門医による治療や向精神薬の投与などによってコントロールされており、コミュニケーションや遊びの場を持つことが勧められていることを確認すること。

・一緒にゲームを参加する者が、治療や教育の目的を理解していること。参加者数が、GMのコントロール可能な人員を超えていないこと。とくに配慮が必要なクライアントの場合は、1対1でのプレイを推奨。

・GMがゲーム外のコミュニケーションにおいてクライアントから充分な信頼を得られていること。さもなければ、ゲームの場に、クライアントが充分に信頼する人物がGMへの協力者として存在すること。

・プレイのストレスが大きくならないように配慮すること。時間で区切り、規則正しい休息をとること。また、プレイの中断や終了のときに、クライアントが充分にセッション内容を理解して咀嚼し、刺激を低減できるためのクールダウンの時間をとること。援護が必要なクライアントの場合、帰り道の安全が保障されていること。

では、前述したクライアントタイプごとに、それぞれの注意点を、以下、記述してみます。

■児童とのTRPG

児童がTRPGから獲得するのは、体験そのものです。児童は行動と結果の反復のトレーニングの途上にあり、それを急速に学習してゆきます。

TRPGによる代理的な体験は、そのような児童の豊かさをはぐくむ上で大きな効果を与えます。例えば絵本の読み聞かせのような、相手の反応を見ながら、物語の語り口を変えたり、テーマの強調の方向性を変えたりといった働きかけをすることができます。

多くの場合、児童は達成経験に飢えています。自分の行動がなにかに影響し、そして変化が生じる、ということそのものに強い印象を受けるものであり、またそれが良き成果を挙げれば、強い満足を得ます。

しかし、児童教育の視点においては、必ずしも成功経験のみを与えることは、良い結果を生み出さない可能性がある、と想定しておくべきだと考えます。成功経験がもたらす過度な興奮や、過度な自信は、児童の現実に対するヴィジョンを歪めてしまう危険性があるのです。成功への期待は多くの場合は豊かな経験と積極性へつながりますが、度を過ぎるなら鈍感と貪欲を作り出してしまいます。

逆に、失敗すること、そして失敗を挽回する、という経験を与えることも重要です。精神的に健康な児童に対してのゲーム体験は、このような「失敗経験」こそを与えるように、慎重で巧妙なストーリー展開を用意するべきです。しかし失敗は大きなストレスとなり、ゲームを「投げ出す」危険性がありますから、薬を糖衣で包むように、成功と報酬を準備する必要があります。この視点においては、「喜び」は「苦しみ」を覆い隠すための調味料として活用すべきものであり、それそのものが目的ではありません。

■知的障害者の娯楽として

行動を阻害する障害の多くは、脳機能によるものです。

脳内の伝達系、神経刺激のコントロールに異変があると理解できます。

知的障害においては、後天的に知的刺激が減少している状況における環境的な精神遅滞、先天的な生理的原因によって脳機能が制限を受けている単純性精神遅滞、また疾病によって脳や各器官が損傷を受けることによる知的障害の発生があります。

軽度の知的障害者や、知的低下を伴わないアスペルガー症候群、自閉症スペクトラムのプレイヤーに対しては、ゲームセッションはほとんど問題なく運営することができます。しかし、そのプレイヤーの行動は突飛であったり、こだわりが強く出たりすることがあります。そのような反応を想定内とし、GMは受容的にセッション運営をする必要があります。

知的障害者の行動訓練療法の視点において、TRPGのもたらす仮想体験が有効である可能性もあります。しかし知的障害者のソーシャルスキルトレーニングにおいては、実際に体を動かして反復的に行動することがより重要であり、学習の効果を過大に期待するべきではありません。またTRPGにおいてさまざまな背反への選択を求めることは、このカテゴリーのユーザーにとって有効でも有益でもないかもしれません。

しかし、テーブルトークRPGがもたらす娯楽の要素はこのようなプレイヤーにとても意味のあるものとなります。仲間、危険の克服、感謝といったドラマは、快いイメージを伴い、幸福感のある時間をつくります。

気をつけるべきところは、暴力的なモチーフをコントロールすることが困難である場合であるため、それを避けるべきだということです。障害のもたらす混乱、低抑制のなかで、暴力モチーフを安易に用いることは良いことではありません。また、このようなクライアントは暴力や性的欲求の発露から離れるように、という行動訓練を受けている場合も多く、それらの教育効果を損ねる娯楽を提供することは望ましくない場合もあります。

知的障害者とのゲーム体験は、あくまでソーシャルスキルトレーニングだ、という視点を持つと良いでしょう。

自由にPCが行動を選択できるTRPGとは違い、「理想的な行動パターンを体得する」ために行う反復性の高いトレーニングゲームであるとイメージすると良いでしょう。

■精神障害者の娯楽として

精神疾患にもさまざまなタイプがありますが、一例を挙げれば、統合失調症の代表的な症例は関係妄想に伴う被害妄想であり、それが生み出す精神的苦痛です。ドーパミンの過剰が、いわば神経の「つながりっぱなし」の状態を作り出してしまいます。

社会参加している多くの統合失調症患者、ないし、その傾向を持っている者は、そのような自分の妄想的な思考をコントロールする技術を得ています。妄想に対して「そんなことはない」と客観視によって解消したり、妄想が存在しても別の意識で「気にしないで」行動したり、あるいは達成体験や他人からの愛情や感謝によって、被害妄想がもたらす苦痛を打ち消すための工夫、ストレスコーピング技法を持っています。

TRPGのセッションがもたらす「関連の解き明かしや解決」の物語は、このようなクライアントの心象風景にごく近いものだと考えられます。TRPGは空想の世界で問題を解決するストーリーシステムであり、また、それを経験することによって、箱庭療法的に、関係妄想の整理と昇華を手助けする効果を期待できます。

関係妄想においては、他者からの攻撃の危険性や、憎まれているという不安が大きなテーマとなります。攻撃への不安に対しては、ゲーム内体験によって自分が行動的で強力な存在であり、困難に対処できる発展性を持っている、という擬似体験と確認とが有効と考えられます。また憎まれているという不安に対しては、そうではない物語空間を経験する……すなわち、病に苦しんで挫折を繰り返す自分ではなく、行動と成功を得て、感謝される自分を経験することにより、ネガティブな体験に対抗できる自信を獲得することができるでしょう。

■TRPGセラピストになる

現実問題、TRPGがセラピーにおいて非常に効果的であった、という症例は多く存在していると考えています。いわゆる「上手い」GMは、そしてプレイヤーも、このようなテクニックを駆使して、参加者に有益なセッションを作り上げてきたのです。

もしも貴方がTRPGに飽きが来たとしたら、次はこのような視点で、遊びの中で人に干渉し、人を手助けできるツールとしてのTRPGの分析と利用を考えてみてもらいたいと思います。そしてTRPGは、人間を理解するためのツールとして非常に面白い、無限のポテンシャルを持っている分野である、と感じていただければと思います。

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伏見健二(ふしみ・けんじ)
1968年東京生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒。作家、ゲームデザイナー、介護福祉士。
日本の主要なアナログゲームクリエイターのひとり。21歳の時に代表作であるテーブルトークRPG『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー)を発表。小説家としても多数の作品を発表する。冒険企画局に所属の後、テーブルトークRPGの専門集団(有)F.E.A.R.の設立、小規模出版によって多様なゲームシーンを発掘紹介する(株)グランペールの設立と相次いでゲーム企業の設立に携わる。またインターネット黎明期に千人の会員を持ったWEB上ゲームサークルG99の主催者でもあった(現在は解散)。
介護を本業とする現在も、福祉資格取得の講師やスキルアップセミナーの講師を行いながら、ゲームデザインや出版やイベントに携わり、ことに小規模出版の支援や障害者支援に力を入れて幅広い活動を行っている。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
CBT的アプローチのセッション運営(第1回) by 伏見健二(Kenji Fushimi) is licensed under a Creative Commons 表示 – 継承 3.0 Unported License.
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本コラムで、会話型RPGと福祉分野の関わりに関心を持たれた方は、つぎはぎ本舗さまの「つぎはぎだより3」に掲載されたコラム「バイステックのRPG」をも、併せてご覧いただけましたら幸いです(体験版からも読むことができます)。

・「つぎはぎだより3」
http://home.dlsite.com/work/=/product_id/RJ075968.html

【追記】11年05月01日付けで、本コラムへの対論「私がTRPGをセラピーに使わない理由」(早瀬以蔵)がAnalog Game Studiesに掲載されました。併せてご覧いただけましたら幸いです。

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なお、伏見健二さまの代表作『ブルーフォレスト物語』は、小説版・3DOやプレイステーション版の発売など、さまざまなメディアで展開がなされましたが、原典にあたる最初の版がリバイバル・エディションとして復刊されています。『ブルーフォレスト物語』をご存知の方もそうではない方も、この機会にお手にとっていただけましたら幸いです。

ブルーフォレスト物語 リバイバル・エディションブルーフォレスト戦乱 リバイバル・エディションブルーフォレスト伝承 リバイバル・エディション / グランペール

本コラムの初出誌である『ブルーフォレスト物語』のワンコインサポート誌「ブルーフォレスト通信1」も、オンライン書店やゲーム・ショップ等で、好評発売中です。
「ブルーフォレスト物語 the 3rd Edition その道のりとコンセプト」、「相沢美良イラスト講座」、「新しいスタイルのTRPGシナリオを」、「『ブルーフォレスト物語 リバイバルエディション』用書き下ろしシナリオ「雄花と雌花」「きみは虎の子」」など、盛りだくさんの内容になっております。

ブルーフォレスト通信 / グランペール

会話型RPGのシナリオ・デザインのコツ――「謎」を活かす設定と構造、『Pathfinder RPG』編――

 本稿は齋藤路恵氏の「高嶺格と会話型RPG 身体をめぐって」で提起されていた「1回のセッションにふさわしい謎のあるシナリオはどのようにしたら作れるのでしょうか? PCの追及を適度にかわす謎はどうしたら作れるのでしょうか?」という問題への応答として、須賀谷朋さまよりAnalog Game Studiesに寄せられた原稿を再構成したうえで、Analog Game Studiesで公開させていただくものです。

 具体例として『Pathfinder RPG』という会話型RPGのルール・システムが挙げられていますが、この方法論は、その他のRPG――たとえば『ダンジョンズ&ドラゴンズ 第4版』や『ウォーハンマーRPG』――に、適用することも可能でしょう。

 また、本稿でのシナリオ・デザイン方法は、「謎」を可能にする構造はどのようなものか、という観点からまとめられているため、ミステリ小説の読解や創作などにも応用することができるかもしれません。
 皆さまの問題意識に合わせ、本稿を活用なさっていただければ幸いです。(岡和田晃)


会話型RPGのシナリオ・デザインのコツ
 ――「謎」を活かす設定と構造、『Pathfinder RPG』編――

 須賀谷朋 (改稿協力:岡和田晃、仲知喜)


 Analog Game Studiesの記事、特に齋藤路恵氏による「高嶺格と会話型RPG 身体をめぐって」を非常に興味深く、また大いに共感をもって読ませていただきました。
 
 ここで提起されていた、「1回のセッションにふさわしい謎のあるシナリオはどのようにしたら作れるのでしょうか? PCの追及を適度にかわす謎はどうしたら作れるのでしょうか?」という問題について、今までゲームマスターをしてきた経験上、1つの方法があります。そのことを、応答としてまとめてみました。最適かどうかはさておき、何かしらのヒントになるかもしれません。

●「謎」を可能にするもの

  「謎」をストーリーの中心においたフィクションの形式と言えば、まず、ミステリが思い浮かびますが、ミステリでは往々にして、フーダニット(Who done it?=犯人)、ホワイダニット(Why done it?=動機)、ハウダニット(How done it?=手段)という3つのポイントに焦点が当てられます。

 こうした3つのポイントのように「謎」そのものを多角的に考え、「謎」の(シナリオにおける)あり方を工夫することも重要ですが、一方で、私は解き明かし甲斐のある「謎」の提示を可能にするような、(前提となる)シナリオの構造に気を配ることが、シナリオ・デザインにあたっての最重要事項であると考えています。

 以下、最近私がメインで遊んでいる『Pathfinder RPG』(D&D第3版系列のシステムを受け継いだRPG)を使って、単発シナリオのデザインを、主に設定と構造の観点から考えていきたいと思います。

 『Pathfinder RPG』のシステムはキャンペーン・ゲームを重視したルール・システムですが、単発のセッションにおいて、特にコンベンション(RPGなどのゲームを遊ぶことを目的とした大規模な集会)のように時間制限が用いられている場合でも、工夫次第で面白く遊ぶことができます。この記事は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第3版や第3.5版でのセッションに応用することも可能です。

Pathfinder Roleplaying Game: Core Rulebook [ハードカバー] / Jason Bulmahn (イラスト); Paizo Publishing (刊)Pathfinder Roleplaying Game: Bestiary [ハードカバー] / Jason Bulmahn (著); Paizo Publishing (刊)

シナリオ作法

●【シーン】の定義

 まず、シナリオを構造化して3つのシーンに分けます。各シーンにはゲーム上の機能があります。

1) 【導入シーン】:シナリオの目標を明らかにします。
2) 【探索シーン】:目標の達成に向けて情報収集を行ないます。
3) 【ダンジョン・シーン】:目標達成のための最後の試練です。シナリオの核となるダンジョン攻略です。

 セッションに占めるシーンの割合は均等ではありません。これはケース・バイ・ケースですが、プレイ時間の配分は1:2:3ほどを見込んでください。

 ここから、シーン順にシナリオの作成過程を見ていきます。

●【導入シーン】

 【導入シーン】では、ミステリアスな魔法使い、人目を忍んだ伯爵夫人、深手を負った行商人などが登場します。彼らは問題を抱えており、問題解決のため冒険者に冒険を依頼します。

 まず、シナリオの目標を設定します。ある遺跡に行って特定のアイテムを見つける、あるいは特定の魔物を退治する、盗まれた貴重品を奪回する、誘拐された要人を救出するなど、簡単なもので構いません。

 『Pathfinder RPG』では基本的な意思決定は「パーティ1つで1単位」なので、導入と目的は基本的に1つで構わないかと思います。

 次に、目標に関わる設定を決めます。遺跡を探索して特定のアイテムを探すシナリオであれば「誰が何のために、いつまでにそのアイテムが必要なのか」、「そのアイテムはどういった由来があるのか」、「そのアイテムがなぜその遺跡にあるのか」、「遺跡の内外にはどんな障害があるのか」、「なぜその遺跡がいままで探索されなかったのか」、「その遺跡はどこにあるのか」などを決定します。

 シナリオの重要NPC、モンスター、冒険の舞台となる地域などについてもキーワードをリストアップしておき、大まかな情報を書き出します。

 次に、目標に関わる設定から「謎」を作り出します。ここで、2つのキーワードを定義します。「謎」と「秘密」です。

・謎:「原因と結果の結びつきが明らかにされていない状況」のことです。

・秘密:「原因と結果の結びつきが明らかにされていない状況」において、「結びつき」を明らかにする情報のことです。

 
 難しく考えないでください。あなたの目前に結果があり、原因が不明なら、それを「謎」と呼びましょう。「冷蔵庫のプリンが消えた」、「メガネが見当たらない」、「車に傷が付いている」すべて「謎」です。

 「秘密」はいわゆる種明かしです。「プリンは同居人が食べた」、「メガネは洗面台に置き忘れている」、「車の傷はノラ猫の仕業」、といった具合です。「秘密」は隠されているときは神秘的ですが、わかってしまえば、なんだそんなことか、ということが多いです。原因の意味は「謎」とは関係がありません。重要なのは、判らないという状況そのものなのです。

 例えをファンタジーに置き換えて、典型的なゴブリン退治シナリオの導入シーンを考えてみます。

 村長:「村がゴブリンに襲われた! 奴らを退治してくれ!」

 少し変化させてみます。

 少女:「夜中に怪物が襲ってきたの。みんな連れていったわ。黒い小さい化け物よ!! お願い、助けて!」

 1番目の例では、村の襲撃とゴブリンという原因と結果の関係が明らかになっており、「謎」はありません。

 2番目の例では、村が襲撃されたという結果は明白ですが、犯人が何者かという原因の部分がはっきりしません。そこには、誰が村を襲撃したのか?という「謎」が含まれています(フーダニットWho done it?)。

 ご覧のとおり、両方の導入部分でもまだ明らかになっていないことが多数あります。ゴブリンが村を襲った理由は何でしょう? ゴブリンはどこからやってくるのでしょう? これは、ホワイダニット(Why done it?=動機)、ハウダニット(How done it?=手段)の部分でもあります。付け加えるなら、犯人がゴブリンかどうかさえ決まったわけではありませんし、村人がそう思い込んでいるのかも知れません。さらに、村人はどこへ連れていかれたのでしょうか? その目的は何? まだまだ判らないことばかりです。まさに、謎は深まるばかりというわけです。

 ここで先ほど私が述べたことを繰り返します。

 「秘密」は隠されているときは神秘的ですが、わかってしまえば、なんだそんなことか、ということが多いです。原因の意味は「謎」とは関係がありません。重要なのは、状況そのものなのです。

 少女に依頼された冒険者たちは村に出向いて探索を開始するでしょう。おそらく、農場に残された足跡を検分し、襲撃者はゴブリンであるという結論にたどり着くはずです。人数はどのくらいか、足跡はどちらの方角へと向かっているのか、その方角にゴブリンの住んでいそうな場所はあるのか、その情報はどうやれば手に入るのか……。

 というわけで、2番目の襲撃者の「秘密」は「ゴブリンである」となります。ここで大切なことはミステリアスな導入のシナリオでも、基本構造は「ゴブリン退治」でしかないということです。どうです、簡単でしょう?

 まとめると、【導入シーン】では、シナリオの目標を提示する祭に、目標に関わる設定をすべて明らかにせず、部分的に提示するということになります。

 全ての設定を使用しなくても、会話型RPGのシナリオで提示されるミッションの達成には支障が無いものとします。つまり、マスターはそもそも全部の設定を使わないつもりでセッションに挑むわけです。

 このパートはかなり重要です。しかし、最終的にはテストプレイしてみないと、目標を具体化する際の問題点はわかりません。最後までシナリオをデザインした後に、テストプレイを行ない、改めてこの項目に立ち返って問題点を洗い出し、改善をかさねます。

 シナリオの目標が明確になったら【導入シーン】は終了です。

 プレイヤーたちは【導入シーン】で得た断片的な情報(「謎」)を元に、冒険を完遂するため、より詳しい情報(「秘密」)を集めることになります。【探索シーン】のスタートです。

▼サンプル・シナリオ「薬草を求めて」【導入シーン】

・ 依頼人:村の司祭。

・ シナリオの目標:難病の特効薬「エラスティルの慈悲」という薬草を採取し持ち帰る。

・ 設定:近隣の村々の子供達があいついで風土病の熱病に倒れた。この熱病は村の未熟な司祭の能力では治療できない。特効薬「エラスティルの慈悲」はこれまで森の奥に一人で住む腕利きのレンジャーが定期的に調達してくれていたのだが、そのレンジャーは姿を見せなくなっており、連絡の取りようもなかった。最後の薬草も使い果たした。薬草はデイヴォン沼のマカラ丘で採れるという話である。

・ 謎:薬草の特定方法、生える場所、保存方法など。

・ 謎:マカラ丘における薬草の植生場所。

・ 謎:デイヴォン沼の地形。マカラ丘までの道順。地図。

・ 謎:連絡の取れないレンジャーの安否。

 

 ●【探索シーン】

 探索シーンでは、さまざまな情報収集活動を扱います。探索行動には、酒場での聞き込み、図書館での文献調査、装備品の調達などが含まれます。時間制限が設定され、冒険者はできるだけ効率よく行動する必要に迫られます。

 シナリオに期限(デッドライン)を設定します。

 「期限」は、たとえば3日間だとか1週間といった時間制限が一般的です。もしくは本当は時間制限がなくても迅速にミッションをこなさなければいけないような状況です。例えば、特定の条件を決めておき、条件が満たされると制限切れとすることもできます。

 時間制限の場合は、「探索行動」のための時間や、必要なら目的地へ往復するための移動時間も含めます。

 適当な期限が思いつかないのなら、期限を「3日間」にすることをお勧めします。

 【探索シーン】では以下のようなハウス・ルールを使用します。探索行動におけるゲーム性を、より高めるための方法です。

『探索シーン用ハウス・ルール』

・「拠点」と「集合地点」を決めます。拠点はダンジョンから離れた安全な場所(村、街、国境の城砦など)です。「集合地点」は宿屋。酒場、広場の噴水前などがよいでしょう。

・各キャラクターが拠点で活動することができるのは1日8時間とします。

・拠点でなんらかの探索行動をとると1d4+1時間を消費します(これは酒場で情報を聞きまわっても、特定の人物に会って話を聞いても図書館で文献を調べても、店に行って装備品を調達しても同じです。アイテム作成などルール的に必要時間が決まっている場合はそのルールに従います)。

・消費時間の決定は、実際の行動の前に行ないます。もし、その日の活動時間が不足した場合、行動判定する以前にその行動は時間が足りずに失敗します。

・複数のPCが一緒に行動する場合は、そのPC同士は同じ時間を費やします(活動時間を共有するものとします)。

・探索行動が苦手なキャラクターであれば下手に単独行動するよりはほかのPCの交渉などへの支援をするほうが効果的です。

・原則、1つの探索行動が終了するごとに「集合地点」に帰ります。同じ時間に集合地点にいれば別の情報を集めに行ったPCと情報交換をし、その集めた情報をもとにして、翌日もともに行動を続けるか、あるいは各自別れて次の行動を行なうかを決めることができます。うまく時間が合わなかった場合は、集合場所で待機して時間調整をすることができます(『Pathfinder RPG』はパーティで行動することが前提のシステムですが、私は基本的に拠点では各人に自由な行動を認めています)。

 

・情報の設定

 【探索シーン】で与える情報を、階層化させた形で提示します。以下、情報収集判定の難易度とその結果をリスト化してみました。

難易度以下:信憑性の低いあいまいな情報しか入手できません。

難易度以上:対象の大まかな情報を得る

難易度5以上の差:対象の詳しい情報を得る。さらに、次の探索行動につながる情報を1つ得る。

難易度10以上の差:対象のとても詳しい情報を得る。さらに、次の探索行動につながる情報を2つ得る。以降、5以上の差ごとに追加の情報を1つ得る。
 例として、遺跡の位置に関する情報で考えてみましょう。遺跡の存在は地元では比較的よく知られているので、噂話を集めるのはそう難しいことではないと設定します。

難易度以下:「塔は沼地のまんなかにあるよ」「荒地は無人じゃ」「沼地には幽霊が出るよ」

難易度10:遺跡の大まかな場所が特定できます。遺跡にたどり着く際の判定にボーナスを得ます。

難易度15:遺跡の正確な場所が特定できます。濃霧や大雨など状況が極めて困難でなければ、遺跡にたどり着くのに「出目10」(差し迫った危険がない際に、技能判定での1d20で「10」が出たとみなすこと)を選択することができます。さらに、図書館に遺跡の古い図面が存在していることが判ります。

難易度20:遺跡の正確な場所が特定できます。濃霧や大雨など状況が極めて困難でなければ、遺跡にたどり着くのに「出目20」(約2分間、じっくりと作業に集中し、技能判定での1d20で「20」が出たとみなすこと)を選択することができます。さらに、図書館に建造物の古い図面が存在していることが判ります。加えて、道に迷った行商人が遺跡近くで空を飛ぶ怪物を見かけたという情報を得ます。

難易度25:遺跡の正確な場所が特定できます。濃霧や大雨など状況が極めて困難でなければ、遺跡にたどり着くのに「出目20」を選択することができます。さらに、図書館に建造物の古い図面が存在していることが判ります。加えて、道に迷った行商人が遺跡近くで空を飛ぶ怪物を見かけたという情報を得ます。そのうえ、遺跡のある沼地では枯れ木など特徴物に地元の狩人やレンジャーが連絡用の符丁を残すことがあるかもしれないと判りました。それらしい場所を、注意深く観察すると符丁を見つけられるかもしれません。

 難易度の高い情報は、1回の情報収集の判定で集めることは困難です。しかし、ある情報について知った状態でさらに詳細に情報収集する場合、難易度の階層1段階ごと易しくします。

 時間をかけ、詳しく調べるほどより低い達成値でも詳しい情報が入手できます。しかし、ピントの外れた情報収集の場合は高い達成値でも何も分からないという事態も発生します。

 各PCの持っている記憶だけの知識判定の場合、時間は費やしませんが、階層の高い(難易度が高い)情報は入手できないとします。あくまで詳細な情報を集めるには街での交渉や文献調査など、とにかく時間を必要とします。

 
 時間制限があるので『探索シーン』は遅かれ早かれ終了します。【ダンジョン・シーン】に移ります。

▼サンプル・シナリオ「薬草を求めて」【探索シーン】

・ シナリオの目標:「エラスティルの慈悲」を採取せよ。

・ 情報A:薬草「エラスティルの慈悲」の情報。

・ 情報B:「マカラ丘」の情報。

・ 情報C:野外活動と登山道具の調達。

・ 情報D:レンジャーの住居を訪れる(この探索行動は2d4+2時間を消費します)。無人の小屋からのレンジャーの日記や地図を入手できる可能性があります。

・ 制限: 3日(うち「沼地」への移動に1日)。4日目から10%累積で1日超えるごとに子供が1d6-1人死亡します。死者が10人に達したらシナリオ失敗とみなします。

 
 

▽問題発生!!

 私は、冒険者たちが、あなたがせっかく準備した【探索シーン】をすっとばして先に進む可能を否定できません。功を急いだか、善は急げと考えたか、底なしの自信過剰からか、ともかくそれは起こりえます。そんなときGMは落ち着いてゲームを【ダンジョン・シーン】へと進めてください。いったん休憩を宣言して、今後の展開について考えをめぐらせるといよでしょう。【探索シーン】をスルーした冒険者をとっちめてやろうとか罰を与えてやろうとか考えないでください。もちろん、彼らは重要な情報を知らぬまま危険なダンジョンへと急行したのですから、戦闘や時間制限などあらゆる場面において、不利な状況に陥る危険があります。それでも、過度に不幸な「ペナルティ」を与えようという考えは控え、できりかぎり公平な判定を心がけましょう。むしろ、処分は甘いくらいで十分です。ギリギリでゲームをクリアーできるようにバランスを調整しましょう。大切なのは、冒険者に敗北の二文字を突きつけることではありません、次はもっと上手くやろうと感じてもらうことなのです。

●【ダンジョン・シーン】

【ダンジョン・シーン】はシナリオのメイン・イベントです。冒険者の前に直接的なモンスターや罠が登場します。戦闘能力と機転で目標をクリアーしなければなりません。

 このシーンでは、お馴染みのダンジョン探検を扱います。

 【ダンジョン・シーン】とありますが、ダンジョンとはいわゆる地下牢でなくてもかまいません。廃墟となった砦、廃棄された鉱山、山賊の根城、迷路のような下水道、地下墳墓、瘴気の漂う沼地、暗い森の中、あらゆる場所が考えられます。ここでは、冒険者は【導入シーン】で提示された目標を達成するために、さまざまな障害を乗り越えていきます。ときに正面から戦い、ときに迂回することになるでしょう。

 ここまでの手順を踏んでしまえば、もう、シナリオはほとんど完成したようなものです。あとはクリーチャーや罠などの障害を決定するだけです。

 以下、障害を出す際のポイントを、まとめてみました。

 マップを準備する。手描きでも既製品でもよいので、ダンジョンのマップを準備します。

 パーティの強さを考慮したうえで、そのマップ上に相応しい障害を用意します。コンベンションのシナリオなら3~5回くらいの遭遇が妥当かと思います。

 ただし、実際に用意する遭遇はその1.5倍程度(4~7回)、用意します。

 すべての遭遇を「回避」または「戦闘」の2つの条件で分類します。それから、遭遇の結果に「評価プラス」「評価マイナス」の2つの評価を定めます。「評価」は遭遇の条件を満たしたときに「評価プラス」の結果をあたえ、逆に満たさなかったときに「評価マイナス」の結果を与えます。

▼遭遇例(1):リザードマンの狩猟隊

“100メートルほど先の藪のなかを9匹のリザードマンが移動しています。”

条件:「回避」

評価プラス:リザードマンは姿を消します。準備した遭遇から「リザードマンの待ち伏せ」を除外します。

評価マイナス:戦闘。リザードマンは角笛を鳴らそうとします。角笛が鳴ったら、後の遭遇「リザードマンの待ち伏せ」の人数を増やします。

    

▼遭遇例(2):リザードマンの狩猟隊

“100メートルほど先の藪のなかを9匹のリザードマンが移動しています。”

条件:「戦闘」

評価プラス:リザードマンの荷物から、レンジャーのものと思しき地図を発見します。地図にはリザードマンの拠点が記してあります。

評価マイナス:リザードマンは姿を消します。

   

▼遭遇例(A):ニンフの宴

“森の空き地から楽しげな歌声と笛の音が聴こえます。こっちへいらっしゃい、と若い女性の声が響きました。”

条件:「戦闘」宴に参加する。

評価プラス:1d4時間消費。ニンフたちはたいへん喜んで、情報と贈り物をくれます。

評価マイナス:ニンフはひどい言葉を浴びせかけ姿を消します。

    

▼遭遇例(B):ニンフの宴

“森の空き地から楽しげな歌声と笛の音が聴こえます。こっちへいらっしゃい、と若い女性の声が響きました。”

条件:「回避」宴に参加しない。

評価プラス:急にあたりは静かになり、無人になった空き地で、やつれた男性を見つけます。もしかしたらあのレンジャーかもしれません。

評価マイナス:大変盛り上がり、酒に酔って夜明けまでぐっすり眠り込んでしいます。

   
 当然、プレイヤーに遭遇の「条件」を明らかにしません。プレイヤーは状況に応じて遭遇に適切な対処を講じていくでしょう。遭遇の結果がどうあれ、仮にそれらの遭遇を「プラス」でクリアーできなくても、シナリオの目標達成は可能にしておきます (マイナスを連続したら目標達成の難易度は上がるかもしれません)。

 私の場合、コンベンションのようにプレイ時間が制約されている場合では途中で休息できるような時間的余裕を与えていません。基本的にダンジョン探索は1日間だけです。時間的なリソースが限られ、目的がはっきりしているのであれば、【探索シーン】や遭遇の結果で新しい情報やヒントをもとにして、余計と思われる遭遇は避けるはずだからです。

 ただし、シナリオの最後だけは、絶対にPCたちは戦闘を行なわなければならないような設定(最終戦が起こるような設定)を用意します。『Pathfinder RPG』は戦闘が重要な位置にあるシステムである以上、最終戦闘は避けられません。逆に言えば、それ以外は無駄に戦わずに通過することができても問題ありません。しかし、その場合は戦闘した場合と同じくらいリソースを消費する障害がなければいけません。

 冒険者たちが選択の余地なく「戦闘遭遇」に巻き込まれてしまう場合、その遭遇はPCたちにとって(最終戦以外は)しばしば不利な状況で起きるというのが基本です。例えばパーティの半分が崖を登ったところで、まだ登っていない崖下のPC達が襲われる、といった感じです。こういった遭遇ならば、後衛にとって相性の悪い敵であればさほど 強くなくてもかなりの脅威になります。重要な資料と思われる本の山の周辺に、炎に弱いクリーチャーを何体も出すというのもありでしょう。ファイアボールで容易に全滅させることができたとしてもまず、それは行なわないでしょうから、十分脅威になりえます。

 パーティに不利な状況での戦闘は、あまりやりすぎるとプレイヤーにストレスを与えてしまいますが、プレイヤーの機転によって状況を逆転しやすいので、短時間で脅威を与えることを目指した、シナリオ途中での戦闘に向きます。このタイプの遭遇では、プラス評価の内容を普通より有利にするようにしてください。
  

遭遇例(X):ヒドラだ!!

“腰まで水に使って移動中に、ゴボゴボと水面が泡立ち始めました。”

条件:「戦闘」

評価プラス:戦闘現場の近くにヒドラの巣があります。最終戦闘に役立つマジックアイテム数点とヒドラの卵を1d6個見つけます。

評価マイナス:戦闘によりリソースが減ります。

  

 逆に最終戦は事前情報や準備時間を与えるなどPCに有利な状況にする代わりに普通より強い敵を出すなどメリハリをつけます。最終戦くらいはPLに全力で戦って欲しいものですし、マスターも最終戦は力を入れて用意すべきです。

 かといって最初から最後まで常に全力で戦うという状況は、マスターの(ルール確認、運用管理などでの)負担の増大につながりかねません。『Pathfinder RPG』は戦闘が重要なファクターを占めるゲームであるがゆえに、遭遇を設定する際には、戦闘を回避可能な遭遇と、戦闘を避けられない遭遇をバランスよく配分することが最重要課題となります。

サンプル・シナリオ「薬草を求めて」【ダンジョン・シーン】

・ダンジョンの構造:野外冒険だが、基本構造は「通路」と「部屋」からなるタイプ。

・ シナリオの目標:「エラスティルの慈悲」を採取せよ。

・ 遭遇1“無人の船着場”(回避):小屋の二階にスタージがたくさん巣くっている。

・ 遭遇2“黒い石碑”(戦闘):ポイゾン・フロッグが襲ってくる。

・ 遭遇3“リザードマン”(戦闘):リザードマンが待ち伏せを攻撃。

・ 遭遇4“血塗れの島”(回避):リザードマンとオークの死体がいくつも散らばっている。グールとグレイウーズがご馳走に集まっている。

・ 遭遇5“捕虜”(回避):リザードマン戦闘隊が数名のオークに手枷をして移動している。

・ 遭遇6“リザードマンの集落”(回避):たくさんのリザードマンが集まっている。檻の中に行方不明のレンジャーが捕らわれている。

・ 最終戦闘“花の丘。あるいは”(戦闘):リザードマンを利用しているグリーンハッグが登場する。戦闘開始数ラウンド後にリザードマンの援軍が現れる。ここの岩場に、「エラスティルの慈悲」が咲く。

   

●【PCの作成、魔法のアイテムの制限】

 シナリオそのものからは若干離れますが、最後にPCの作成ルールについて補足的に触れておきます。

 PCの作成ルールは、ルールブックによると、能力値購入方式の場合、15(標準)、20(ハイ)、25(英雄的)と3種類用意されています。

 私は15か20で行ない、よくプレイされている25ポイント購入での英雄的なキャラクター作成は、避けたほうがよいと考えています。これはキャラクターが、1つくらい弱みがあったほうが面白いからです。

 実際にキャラクターを作成してみるとわかりますが、割り振りのポイントが15や20ですと、どうしても6つの能力値のいずれかは10(修正なし)や8(マイナス修正がつく値)にしなければなりません。

 致命的でないのであれば、欠点もキャラクターを形作る大事な特徴です。欠点があるからこそ、お互いの弱点を補い、1つのパーティとして完成するのではないかと思います。人間社会でもこれは同じです。

 また、単発セッションでは、魔法のアイテムの消耗品(矢弾を除く)は、価格を5倍(もしくは使用回数1/5)にしています。

 これはゲーム内時間に制限をつけるのと同様、PCのリソースを制限するためです。呪文やアイテムは使いたい放題ではなく、限られたリソースを最大限うまく使いこなすほうが効果的だと考えるからです。

 また、シナリオでは極端に偏ったキャラクターだけが失敗する(苦戦する)簡単な障害(あるいは雑魚の群れ)を時々用意します。

 この障害は一部の人だけで解決できない、全員で達成しなければいけないような障害とします。

 苦手な人を他の人がサポートすることで達成できても問題ありません。これは偏って作成したキャラクターは得意分野では大活躍できる代わりに、苦手分野では足手まといになることを強調するために組み入れるもの。

●【まとめ】

 基本的には以上です。要点をまとめるならこうなります。

1、PLには時間や装備など明確にリソースに限りがあることを示す。無制限にあるよりリソースが限られている方が、時間も能力もアイテムも効果的に使われることが多い。また、敵の強さも抑えられるので、マスターの戦闘への負担が減らせる。

2、【探索シーン】や【ダンジョン・シーン】はできるだけオープンにしておき、PLたちが相談して自主的に意思決定できるようにする。選択肢が明白すぎるとマスターのシナリオに強引に誘導されている気がして、プレイヤーは不満を抱きがちなる。現実にはマスターが特定の選択肢に意図的に誘導したとしても、それに気づかれなければ構わない。

3、キャラクター全員に見せ場を用意する。『Pathfinder RPG』はクラス(職業)を基本としたシステムなので、主要な各クラス能力が発揮できる場面を用意すればよい。その場面は戦闘だけに限らない。むしろ、戦闘以外で活躍できる場面をできるだけ用意したほうがよい(戦闘中に敵を倒すのと同時間にローグが魔法装置を解除する、人質を救出するなど力押しでは解決で きないイベントを用意するのもよい)。ただし、見せ場にある他のキャラクターが待ちぼうけにならないよう、支援でもよいので、何らかのアクションがとれる 状況を用意する必要がある。

●終わりに

 
 以上、私的なシナリオ・デザインのコツを語ってきましたが、これらの方法にも欠点がいくつもあることは判っています。

 しかし、逆を言えば完璧でなくても構いません。

 いったんプレイヤーもマスターも完璧な答えが見出してしまえば、セッションはもはやつまらない単純作業になってしまいます。プレイヤーもマスターも、完璧なプレイスタイルを目指して試行錯誤と切磋琢磨を続け、ジレンマを快楽へと変換していくその過程にこそ、『Pathfinder RPG』の、ひいては会話型RPGの醍醐味はあるのではないかと私は考えています。

 欠点が見つかれば、その欠点から何かしらシナリオを面白くできないかと、欠陥を、むしろプレイヤーの向上心を掻き立てる要因へと変えられるように考えていきましょう。

 ところで、この手法に問題があるとしたら、それはシナリオ作りの負担が大きいことです。

 ある程度の負担は避けようがありませんが、シナリオに盛り込む情報に余裕をもたせるようにしておくことができれば、セッション当日も柔軟に対応することができますし、シナリオの矛盾も起き難いかと思います。

Pathfinder Roleplaying Game: Core Rulebook [ハードカバー] / Jason Bulmahn (イラスト); Paizo Publishing (刊)Pathfinder Roleplaying Game: Bestiary [ハードカバー] / Jason Bulmahn (著); Paizo Publishing (刊)


須賀谷朋(すがたに・とも)
 1978年生まれ。大学院修了後、家業に就き、バラなどの観賞用植物の生産を行なっている。TRPGは大学在学中に開始。プレイヤー回数より圧倒的にマスターの回数の方が多い。
 『D&D』『アースドーン』などの海外RPGだけでなく『トーキョーN◎VA』『深淵』などの和製RPGも好む。


【齋藤路恵からのコメント】

 須賀谷様、ご提案ありがとうございます!

 ひじょうに実用的な方法論で、私もさっそく家で遊んでみました。

 今回はインターネットから拾ってきたシナリオフックを2つ組み合 わせてシナリオを作りました。

 PCが解決しなければならないトラブルの原因を2つ作り、 どちらかが解決されれば問題は解決されるという構成にしました。解決までのルートが2本ある形です。

 PLは片方の ルートしかたどらなかったので、うまく謎を残すことができました。

 自宅で遊ぶ場合はセッションが短くても大丈夫なため、準備が少なくても謎を残しやすいようです。

 今後も何度か試してよりスムーズに運用できるようにしてみたいと思っています。(齋藤路恵)


Analog Game Studiesでは、「RPGゲーマーのための『ペルディード・ストリート・ステーション』ガイド」でも、『Pathfinder RPG』の話題を取り扱っております。

また、ウェブサイト/ウェブログ「4th Cage」では、『Pathfinder RPG』の情報やTIPSが頻繁に更新されています。

“人とは異なるもの”はロールプレイ可能?――『スケイブンの書』における可能性

 アナログゲームの大きな楽しみとして、情報やリソースを管理するだけではなく、無機質とも思える数字や設定に参加者が意味を与え、能動的に参与していく部分が挙げられます。
会話型RPGにおいて、それはしばしば「ロールプレイ」という形で取り扱われます。

 そこで今回は、『ウォーハンマーRPG』や、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のサプリメント、あるいは「GAME LINK」「GAME JAPAN」などアナログゲーム専門誌でライター活動を行なっている戦鎚傭兵団から、翻訳家にしてベテラン・ゲーマーの鈴木康次郎さまがお出まし下さり、『ウォーハンマーRPG』の人気サプリメント『スケイブンの書』を例に、「ロールプレイ」について考察をしていただきました。

 本記事はそれ自体として実践的なだけではなく、なかなか明晰に言語化が難しい「粋」の問題についての提示にもなっており、議論の出発点は、日本的な感性を、西洋の伝統的な知の文法のうちに明確に位置づけようとした書物である九鬼周造の『「いき」の構造』の問題意識にも、どこか相通じる部分があるのではないかと私は考えています。

 加えて、サプリメント紹介、ならびにサプリメントの内容を受け手側でいかに咀嚼するのかの実例としても優れたものになっています。

 なお『ウォーハンマーRPG』とは、ドイツ三十年戦争近辺のヨーロッパを模したケルト的な多神教的世界を舞台に、「混沌」と呼ばれる存在との戦いをライトモチーフとした会話型ロールプレイングゲームのことを指します。現在でも第2版の日本語展開が継続しています。

 この『ウォーハンマーRPG』についての情報は、

・『ウォーハンマーRPG』日本語版公式ページ
http://www.hobbyjapan.co.jp/wh/

・Wikipedia『ウォーハンマーRPG』:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BCRPG

・TRPG.NET Wiki『ウォーハンマーRPG』
http://hiki.trpg.net/wiki/?WarhammerFRP

 以上のサイトから概観をつかむことが可能です。(岡和田晃)

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“人とは異なるもの”はロールプレイ可能?――『スケイブンの書』における可能性
 鈴木康次郎

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 会話型RPG(TRPG)には色々な楽しみが詰まっています。物語に参加し作り上げていくアドベンチャーゲーム的な楽しみ。戦術を駆使して戦うウォーゲーム的な楽しみ。単に気の知れた仲間と飲み会のようにわいわい騒ぐことも楽しいですね。

 また、大きな楽しみの1つに“自分以外の誰か”を演じることがあります。まさに、RPGはRole(役割)Playing(演じる)Game*。大なり小なり誰もが持っている変身願望を満たしてくれるのです。

*このロールプレイの定義については人それぞれで、システムによっても様々な部分があるのですが、今回は「そのキャラクターの性格に沿った、発言や行動をゲーム中に行なう」としておきます。

 ただ、誰もがどんなキャラにもなれるのでしょうか? “はい”であり“いいえ”でもあると思います。プレイヤーはシステムやGMが許す限り、どんなキャラクターにもなれます。老若男女問わず、人間以外の生命体でもOK。運命と死を司る女神ですら選ぶことができるかもしれません。ただ、キャラクターの設定を作ることと、実際に運用することは別なのですね。

 例えば「粋な怪盗」という設定。セッションでそのキャラを「粋な怪盗」として運用するには、“粋な行為”をする必要が強いわけです。キャラクターは“形容詞”じゃなくて、“動詞”で示すものです。「かわいそうな少女がいるんだね。じゃあ、僕のキャラは粋な台詞と行動で彼女を笑わせて好意を持ってもらうよ」とか発言しても、他のプレイヤーはそのキャラクターを「なるほど、粋な怪盗!」とは思わないわけですね。“粋な台詞”と“粋な行動”を具体的に示して「なるほど、それならその少女も惚れるぜ!」と思わせることができたら「粋な怪盗」のロールプレイは大成功なのですが、なかなかどうして大変なものです。「その行動は粋である」と判断できるのと、「粋な行動を思いつく」は別なことで、後者はもちろんセンスが必要ですよね。

 では、本人が“粋な人”じゃないと「粋な怪盗」は演じられないのか? これも一概にそうとは言えません。そのキャラクターらしいロールプレイするためのテクニックがあり、またそれを助長してくれるシステムもあるからです。自分が“粋だ”と思った漫画や小説のキャラクターの行動をストックして分析し、「それを真似る」、「それを応用」するなどがテクニックになります。これらをアドリブに活かすのには慣れが必要なのですが、システムによってはどういうシチュエーションが起こるかを明示したり、シチュエーションのセッティングについての大きな権限をプレイヤーに持たせるなどして、それらを行ないやすくしているものがあります。

 でも、テクニックとシステムでもってどんなキャラクターもロールプレイ可能かというと、それはちょっと言いすぎかなと思っています。

 結論から言うとロールプレイするためにはそのキャラクターに対する“納得感”が必要だと思います。イメージがほとんど沸かないような理解不能なキャラクターや、自分が否定したいキャラクターはロールプレイするのは大変困難になるということです。

 「粋な怪盗」で言えば、“粋な行為”というもののどこがいいのかよく判らない、無関心な人はロールプレイが困難ですね。やはり、心のなかで響くもの、リンクするような題材じゃないと辛いでしょう。ただ、それが自分にはないものでも関心のある題材なら問題ないでしょう。例えば、男性プレイヤーが乙女をロールプレイできないこともない。乙女に関心があるならば、心の中に「乙女とはこういうもの」という少女のイメージを持っているはずだからです。逆に関心が薄く、心の引き出しにイメージを構築するパーツの少ない題材は、どういうロールプレイをしていいのか判らなく、動かしづらいということになります。

 ただ、イメージ可能な題材でも、プレイヤーにそれを否定したい場合もロールプレイが困難になるでしょう。例えば「臆病さ」を否定したい人は「臆病なキャラクター」はやろうとしない、しても楽しくないだろうということです。

 イメージを持てるまでその題材を理解し、感情的な納得感を持つことが大切なわけですが、後者はシチュエーション次第な部分もあります。TRPGは勧善懲悪こそ王道と思っているプレイヤーにとっては、腹黒いPCは否定したいものです。そのプレイヤーにとってPCとは正義の英雄であるべきなのです。しかし、システムが勧善懲悪の時代劇の悪役をプレイする悪代官RPGみたいな、勧善懲悪ものとはPCの立場が明らかに違うものなら? 勧善懲悪ものが好きならば悪役のイメージも豊富に持っているかも。「悪役が憎たらしいほど、最期が盛り上がるからね」とか言って案外ノリノリでプレイして楽しんでもらえるかも知れません。

 やはり、イメージが持てるまで題材を咀嚼することの方が、ロールプレイできるかできないかの肝になるかと思います。つまり、当然ながら具体的なイメージを結べず、かつ感情移入がしにくいキャラクターの扱いが困難ということですね。

 ということで、ようやく今回のテーマの“人とは異なるもの”のロールプレイです。

 「“人とは異なるもの”のロールプレイは可能か?」を突き詰めて考えると、人間には理解できないレベルで異なった存在のロールプレイは不可能だと答えざるを得ません。

 例えば「感情を持たない知的生命体」などを考えてみましょう。「感情を持たない人工知能」などはありふれたテーマですが、実際自分が動かすとなればどうでしょう? 人間は感情を排除した知的活動なんてできません。「心はないはずだけど、実は情緒的なアンドロイド」などならば、クールを装っているだけのキャラクターの変化球として扱えるかも知れません。しかし、本物の「感情を持たない人工知能」となればお手上げです。SF小説などには、これらのキャラクターをもっともらしく動かしている作品もあります。しかし、自分たちはSF作家ではないですし、SF作家もアドリブで動かすとなると手に負えないのかも知れません。

 人間は「人知を超えた存在」という概念を創造することはできても、厳密に考えればその概念を運用はできないと思います。例えば、「人知を超えた存在」である神が、敬虔な信徒を不幸にする。これに対して人間は、「これは神の試練である」などというふうに自分たちが咀嚼可能な範囲で理解しようとします。本来は人知を超えた意図があり、それは人間に理解できないからこそ神意なのでしょうが、やはり理由づけができる範囲で解釈しようとするのが人間の性だと思います。人間は不条理な行為を自覚的に行うことは不可能かもしれません。例えば、行動をランダムで決定するキャラクター。呪文で混乱状態にされているなどプレイヤーが納得できる理由がなく、またギャグでもなければ、そのようなキャラクターはロールプレイできないでしょう。理由もなく「仲間を攻撃」したり、「戦闘中にダンスをする」という行為はプレイヤーには納得できないもので、少なくとも何からの理由づけをしてしまうものではないでしょうか?

 結局のところ人間が扱えるのは“人間”だけというのが大前提なのかも知れません。例えば、ファンタジー世界で異種族が定番ですが、これらも“人とは異なるもの”ほどのものではなく、“人間のバリエーション”と捉えた方が妥当でしょうね。ドワーフは背の低い太った髭親父。エルフは耳の尖った青年たちという具合に。TRPGのエルフといえば、ルーツは『指輪物語』のエルフですね。神秘的で超然とした存在が出発点なのですが、最近は日本も海外も含めて等身大のエルフのキャラクターが増えたと思っています。これも、フランクなエルフの方が演じやすいからでしょうね。

 しかし逆に考えれば、人間は結局“人間”だけしか扱えないとしても、人間が理解可能なパーツさえあれば人間からかけ離れた存在は演じることができるということではないでしょうか? 「その行動のイメージがつかみやすく、感情的な納得感も持てるけど、人間からかけ離れた存在」ならロールプレイ可能ですね。

 では、このような“人間が理解可能なパーツでできた人間からかけ離れた存在”というものは、ありえるものなのでしょうか? SF小説のエイリアンや、漫画のモンスターなどを考えてみてください。一部の例外を除いて、それらの“人間からかけ離れた存在”はこのように作られてはいませんか? 攻撃性が異常に高かったり、高度に論理的だったりはするものの、それらは人間が本来もっているパーツではないでしょうか?

 そしてTRPGにおいては、“人間が理解可能なパーツでできた人間からかけ離れた存在”が扱いやすい形で提示されているケースが多いと思います。GMが扱うモンスターなどは人間とは異なるもののどう扱っていいのか判りにくいという存在ではないと思います。“人間が理解不能な邪神”などの設定などについても、邪神は謎めいた存在にしつつ邪教徒たちにスポットを当てることによってシナリオを運用するなどのメソッドがあるわけです。もちろん、GMの扱うものだけでもありません。エルフなどの異種族よりも人間からかけ離れたキャラクターをPCとして扱うメソッドがあるのです。

 そして、それらのエッセンスがつまったTPRGの傑作の1つとして紹介しますのが『スケイブンの書』です。

スケイブンの書-角ありし鼠の子ら (ウォーハンマーRPG サプリメント) [大型本] / スティーブ ダーリントン, ロバート J シュワルブ (著); 待兼 音二郎, 鈴木 康次郎, 阿利浜 秀明, 見田 航介, 岡和田 晃 (翻訳); ホビージャパン (刊)
【参考:『スケイブンの書』プレビュー(PDFファイル)】

 本書は『ウォーハンマーRPG』のサプリメントで、敵役の鼠人間種族スケイブンを扱ったものです。「世紀末人喰いネズちゃん」という感じの表紙のイラストのとおりスケイブンは極悪な種族です。地下世界に帝国を築き、世界の根幹を齧りつくそうとする飢えた者たち。世界を征服すべく陰謀をめぐらす彼らの最大の武器は圧倒的な繁殖力。それ故か個々の命の価値など認められず、上司は部下を文字通り使い捨てにします。彼らの辞書には「慈悲」などなく、敵だけでなく同胞さえも文字通り貪り喰らいます。彼らの世界征服を阻害している最大の要因は、種族内の抗争。常に飢え、常に悪知恵を働かすのがスケイブン。ラブリー(?!)な外見とは裏腹に、正に獣人であり、人間とはかけ離れた“人とは異なるもの”です。

 しかし、その設定を読み解いていくと、スケイブンのコアの部分は人間の一部の特性を肥大化させたものです。そして、価値観や行動様式を人間からかけ離れたものにすることにより、差異を際立たせていることが判ります。

 まずは、メンタリティから見ていきましょう。スケイブンの性格は小悪党的要素を肥大化させたものです。スケイブンたちはすべて自分が最高のスケイブンであると自惚れており、自分の思い通りにならないのは、すべて敵対種族の抵抗や、同胞の無能や陰謀のせいだと信じています。また、非常に臆病が故に慎重であり、リスクは他人に取らせ、手柄はすべて自分のものにしようとします。そして、彼らの社会は強固なヒエラルキーが存在するために、上位者に対してはおべんちゃらを使って媚びへつらいますが、常にその地位を狙っています。何たる小物臭。スケールは規格外かもしれませんが、基本的にせこい悪党なわけですね。

 これは秀逸な設定だと思います。まずはドブネズミのイメージに合っていますし、数で優位に立っているのにそれを活用しきれないという弱点にもつながります。また、「足の引っ張り合い、責任のなすりつけ合いが絶えない社会」は、「憎しみや闘争しかない社会」よりもイメージがしやすいでしょう。デーモンなど“憎悪”や“闘争心”しかない生命体が形成する社会というものは、何となくイメージはもてるものの具体的に運用していくのには非常に疲れるはずだと思います。“憎悪”というものは誰でも持っている感情でしょうが、これのみで行動するということはあまりないでしょう。それとは逆に、上司におベちゃんらを言ったり、自分の失敗を他人のせいにしたりするというものは、日常でもよくあり、その部分を拡大することは比較的想像しやすい部類ではないでしょうか?

 このようにスケイブンは人間臭い側面がありますが、人間との差異を際立たせている要素も持ち合わせています。そして、それらの異質な部分は、人間がまったく理解できない代物ではありません。それらの多くは動物的な要素であり、人間社会にはないものの説得力を感じるものになっているわけです。

 例えばスケイブンのヒエラルキー。スケイブンの地位は毛皮の色で選別されます。白または灰色が一番偉く、特徴のない一般鼠は消耗品のような扱いを受けます。スケイブンの雌は仔鼠を産むことだけしかしない、巨大な仔鼠製造機械のようなものです。当然、社会の概念、性の価値観など人間とは異質なものになりますが、このヒエラルキー自体は蟻や蜂のものを連想させそれほど理解不能という感じではないですね。後、恒常的な飢えや、食糧を貯蓄することはなくて食べることができる物が手に入ったのならば奪われないように可能な限り早く食べるというものの、鼠としては説得力のある設定です。『ジョジョの奇妙な冒険』に「鼠は常に何かを食べないと短時間で餓死する」みたいなことが書かれていましたしね。また、個人的に凄いアイデアと思ったのは、スケイブンの「部下に自分の糞尿をなすりつける」という行為。人間社会ではありえない変態行為なのですが、これは“臭いつけ”であり犬のマーキングと同じようなものなのですね。犬が自分の縄張りを示すために電信柱におしっこをひっかけるように、スケイブンは自分の臭いを部下に染み込ませる。人間社会なら構成員の帰属意識をはっきりさせるために制服を着させるなどの行為が、スケイブンでは糞尿をなすりつけるになるわけです。ある行動の仕方を変えてしまうことにより、まったくベクトルの異なる感じのものにしつつ、“獣人”らしさや滑稽さ、不潔さなども同時に表現していますね。秀逸だと思います。

 『スケイブンの書』にはこれらのスケイブンたちをPCとして扱うスケイブン・キャンペーンを提案しています。所謂モンスター・セッションです。モンスター・セッションでは、基本的にプレイヤー全員が英雄とは異なる立場のキャラクターを扱うことになります。英雄パーティにモンスター種族のキャラクター1人が混じっても、そのキャラクターは英雄キャラクターのメソッドで動くことになりがちで、ユニーク以上の存在にはなかなかなりえません。それと比べるとモンスター・セッションでは、勧善懲悪の英雄ものという文法がひっくり返ることが多いので、従来とは異なるユニークなロールプレイを楽しめる可能場合が高いはずです。スケイブン・キャンペーンの場合、それに秀逸な設定が加わり更に個性的なベクトルのセッションが行われる可能性が高いかと思います。

 前述のとおりスケイブンの基本は小悪党です。この基本方針に従ってキャラクターを動かすことはそれほど難しくはないはずです。次にスケイブンの常識をつかんで下さい。スケイブンの常識は人間にとっては異常なものですが、これによってスケイブンの行動が人間と異なるものになるのです。「心地よい場所は、隠れ場所の多い暗くてじめじめした地下」とか「大切な物は生存を確実にしてくれる地位」などです。これらの設定を理解していくことで、目的や動機が同じでもスケイブンの場合取りえるアクションが人間とは異なることが判ってくると思います。例えば、通常の英雄ものキャラクターは、モンスターを倒した後に戦利品を漁ります。それは、通常はお金やアイテムですね。スケイブン社会にはお金はありません。貨幣経済というものがないのです。通常のスケイブンの一生は短く、備蓄という概念が薄く、また種族内で貨幣経済を育めるほどの信頼関係を築くことができないからかもしれません。では、何を漁るかと言うと、死体をその場で貪り食うのですね。飢えを満たすことが彼らの最大欲求の1つであり、手にした食料はその場で奪われないうちに直ちに食らうのです。そして、彼らは死体に敵と味方の区別はしません。仲間のPCが死ねばどうなるか? この流れで考えると明白ですね。

 スケイブンの行動原理は確かに人間臭いものです。しかし、彼らの立ち位置が、悪役であり、動物的なものであるために、その行動は従来のキャラクターとは異なっていくわけです。異常な世界では異常が正常です。そこを納得することができれば、スケイブンのロールプレイは比較的簡単なものかもしれません。そして、それができたのなら、この“人間には見えない人”による歪んだ人間社会の魅力を存分に味わうことができるものと思います。

 TRPGには、小説や漫画などの他の創作活動にも資料として役立てるレベルのものがあります。『スケイブンの書』は、比較的運用し易い“人間には見えない人”の設定集です。本書に詰められたエッセンスは、TRPGのロールプレイの可能性を深めるばかりではなく、他の創作活動にも役立つものであると思っております。

スケイブンの書-角ありし鼠の子ら (ウォーハンマーRPG サプリメント) [大型本] / スティーブ ダーリントン, ロバート J シュワルブ (著); 待兼 音二郎, 鈴木 康次郎, 阿利浜 秀明, 見田 航介, 岡和田 晃 (翻訳); ホビージャパン (刊)

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鈴木康次郎(すずき・やすじろう)
 1971年大阪生まれ。関西大学卒業。関大RPG同好会で会話型RPGを始め、主に『ウォーハンマーRPG』、『シャドウラン』、『アースドーン』、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などの海外RPGに没頭する。脱サラ後、『ウォーハンマーRPG』や『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などの翻訳に関わる。
 翻訳書(共訳)に『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』、『スケイブンの書――角ありし鼠の子ら』、『秘術の書』、『ダンジョン・デルヴ』など。
【Blog(大槌ぶんぶん)】http://d.hatena.ne.jp/Yasujirou/

Creative Commons License
“人とは異なるもの”はロールプレイ可能?――『スケイブンの書』における可能性 by 鈴木康次郎(Yasujirou Suzuki) is licensed under aCreative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 3.0 Unported License.

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Analog Game Studiesでは、以下の記事においても『ウォーハンマーRPG』とロールプレイについての考察が行われております。併せてご参照下さい。

・『ウォーハンマーRPG』リプレイ「魔力の風を追う者たち」ウェブ再掲記念;非公式対談――遊んでみて“改めて/新たに”わかった、会話型RPGの批評性