【活動報告】Analog Game Studies第17回~20回読書会報告&新体制のお知らせ、各種活動報告

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【活動報告】Analog Game Studies第17回~20回読書会報告&新体制のお知らせ、各種活動報告

 岡和田晃
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 2014年のAnalog Game Studiesの活動報告をさせていただきます。
 まず、2014年1月の第17回、2014年3月の第18回、2014年5月の第19回の3回で、ケイティ・サレン&エリック・ジマーマンの『ルールズ・オブ・プレイ』(下巻、ソフトバンククリエイティブ)を通読いたしました。これらの会合では、狭義のゲームの話題のほか、例えば戦略論、サッカー、本格ミステリにおける「後期クイーン的問題」など、多様な議論が行なわれました。

 2014年7月の第20回では、明神下ゲーム研究会との合同で、増川宏一『盤上遊戯の世界史』(平凡社)の読書会を行ないました。明神下ゲーム研究会のメンバーにはこれまで、Analog Game Studiesでデザイン中のゲーム作品のテストプレイ協力等もいただいております。

 20回の読書会を達成したことを一つの区切りとしまして、2014年10月からは、AGSメンバーの環境変化もふまえて若干活動スタイルを変更し、新体制で、学術および文芸ジャーナリズムとの連携をいっそう強化していくことになりました。
 まず、AGSメンバー有志が「ボードゲーム読書会@高田馬場」と合同することで、より学術的な側面のアウトプットを目指していきます。これまで、Avedon and Sutton-Smith “The Study Of Games”、Cornell and Allen “War and Games”といった英語文献を読み進めるとともに、伝統ゲームの研究発表なども共有して参りました。
 この「ボードゲーム読書会」は遊戯史学会の分科会として承認され、3月には【ゲームデザイン討論会―公開ディスカッション2015.03.14】を開催する予定です。

 加えて2014年10月からは、AGSメンバー有志に、随時ゲスト参加者を交えつつ、ゲームと文芸の交点を模索するためスチームパンクRPG『キャッスル・ファルケンシュタイン』のキャンペーン・プレイと内村博信『ベンヤミン 危機の思考』(未來社)の読書会を交互に行なうという試験的な試みを開始して参りました。こちらは「TH(トーキングヘッズ叢書)」(アトリエサード/書苑新社)No.61「レトロ未来派」(スチームパンク特集)への執筆参加ということで、一つの成果を生むことができました(後述)。

 今後ともAnalog Game Studiesは、より良いアウトプットを行なうために、研鑽を続けて参ります。

 このおよそ1年の間に、Analog Game Studiesのメンバーが行なった活動の一部をご紹介していきます(AGS内記事執筆・査読等を除く)。

 顧問の草場純氏は、AGSのこちらのエントリでも紹介されているような各種ゲーム会を主催するとともに、船橋の「買い将棋」のルールを取材したり、ゲームマーケット大賞の審査委員長をつとめるなどし、その存在感を発揮しました。盤双六の新資料を発見し、その研究も行なっております。さらに、Twitter上で行なわれているゲームデザイン討論会は遊戲史学会の試みとなり、現在まで8回を数えています。
 出版関係では、赤桐裕二『トランプゲーム大全』(スモール出版、2014年11月発刊)や、2015年10月発刊予定の、『クク』についての書籍などに協力しています。

 代表の岡和田晃は、「Role&Roll」に連載されている『エクリプス・フェイズ』関係の記事、および「SF Prologue Wave」の『エクリプス・フェイズ』企画に毎号協力しています。「Role&Roll」では「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典」の執筆も引き続き行っています。
 共著『向井豊昭傑作集 飛ぶくしゃみ』(未來社、2014年1月)は日本図書館協会の選定図書となり、『北の想像力 〈北海道文学〉と〈北海道SF〉をめぐる思索の旅』(寿郎社、2014年5月)は第35回日本SF大賞の最終候補作となりました(選考会は2月中旬頃に行われます)。また単著『向井豊昭の闘争 異種混交性(ハイブリディティ)の世界文学』(未來社、2014年7月)のほか、共訳書・共著を合計3冊刊行いたしました。
 AGSをご覧の皆さまへ特にお読みいただきたいのは、川上亮『人狼ゲーム BEAST SIDE』(竹書房文庫、2014年4月)、仁木稔『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』(早川書房、2014年4月)、浦賀和宏『頭蓋骨の中の楽園』(講談社文庫、2014年9月)に寄せた解説文です。『人狼ゲーム BEAST SIDE』では「人狼」の起源と現在を考え、『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』では、ゲーミフィケーションを論じ、また『頭蓋骨の中の楽園』ではゲームAIを批評的に考えてみました。

 また、『狂気山脈の彼方へ』(創土社、2014年12月)に収められたHUGO HALL氏のゲームブック「レーリッヒ断章の考察」のお手伝いをしており、こちらもチェックをいただけましたら幸いです。

 講演やゲーム関係のイベントも活発に開催し、『エクリプス・フェイズ』体験会のほか、ジュンク堂書店や東京堂書店で講演やトークイベントを行ない、また2014年10月の日本近代文学会秋季大会でのパネル発表「世界内戦と現代文学――批評と創作の交錯」に出演、文学についての学会発表で領域横断的にゲームについての言及も行ないました。

 蔵原大は遊戯史学会の理事に就任し、各種活動を精力的に行なっております。また、「SF Prologue Wave」にオリジナル小説「『真夏の夜の夢』作戦」を発表。齋藤路恵との共著で『エクリプス・フェイズ』小説「マーズ・サイクラーの情報屋」も発表し、評判を集めました。

 田島淳は、昨年に引き続いてジャパンゲームコンベンション(JGC)2014の『ハーンマスター』体験会でゲームマスターをつとめ、また2014年10月にはイイトコサガシのファシリテーター研修の講師として、先鋭的なルールシステムの未訳RPG『Becoming』をプレイし、好評を得ました。
 加えて、田島は「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」でライターとして文芸とRPGをつなぐレビュー活動を開始し、No.59では『北の想像力』、No.60では岡田剛『十三番目の王子』、No.61では門倉直人『失われた体』のレビューをそれぞれ寄稿しています。

 仲知喜は「TH」No.61の「エッジの利いたスチームパンク・ガイド」に参加し、RPG『ヴィクトリアンエイジ・ヴァンパイア』、アラン・ムーアほか『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』のレビューを寄稿しています。『ペルディード・ストリート・ステーション』のレビューはAnalog Game Studiesの「【レビュー】RPGゲーマーのための『ペルディート・ストリート・ステーション』ガイド」とセットでお読みください。

 「TH」No.61の「エッジの利いたスチームパンク・ガイド」は岡和田の編になるもので、岡和田は「世界劇場と吸血鬼ジュヌヴィエーヴ」(「TH」No.58、AGS記事の改稿)、「サイバーパンクとクトゥルフパンク」(「TH」No.59)、「サイバーパンクとゴシックパンク」(「TH」No.60)の文脈をふまえた批評文「スチームパンクと崩壊感覚、歴史への批評意識としての「パンク」」を寄稿。また、キース・ロバーツ『パヴァーヌ』、ギブスン&スターリング『ディファレンス・エンジン』、マイケル・ムアコック『グローリアーナ』、佐藤亜紀『1809』、フォルカー・デース『ジュール・ヴェルヌ伝』のレビューを執筆しました。

 なお、田島淳は「エッジの利いたスチームパンク・ガイド」のうち、『キャッスル・ファルケンシュタイン』、RPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ エベロン』、それに沙村広明「エメラルド」のレビューを「エッジの利いたスチームパンク・ガイド」にも寄稿しています。「スチームパンク」を軸に、AGSがこだわってきたゲームと文芸の交点を探る試みで、成果を残すことができました。

デヴィッド・ヌーナン/ビル・スラヴィクシェクほか『ダンジョン・デルヴ』:「詰めD&D」集。DM指南に、そして新しい遊び方のために!

【新作紹介】デヴィッド・ヌーナン/ビル・スラヴィクシェクほか『ダンジョン・デルヴ』:「詰めD&D」集。DM指南に、そして新しい遊び方のために!
岡和田晃

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世界最初のRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、D&D)。その最新版であるD&D第4版は、現在でも精力的に日本語展開がなされ ていますが、展開の当初から、未訳のサプリメント(追加の設定資料集)に親しんでいるゲーマーたちの間で、ひそかに評価の高いサプリメントが存在しまし た。それが今回邦訳された『ダンジョン・デルヴ』Dungeon Delve,2009です。初出から2年あまり。待望のサプリメントがついに日本語でお目見えしたという次第です。
ダンジョン・デルヴ (ダンジョンズ&ドラゴンズ 第4版サプリメント) [大型本] / デヴィッド ヌーナン, ビル スラヴィクシェク (著); 待兼 音二郎, 鈴木 康次郎, 阿利浜 秀明, 見田 航介, 岡和田 晃 (翻訳); ホビージャパン (刊)
なぜ、人気があるのでしょうか? それはおそらく、この『ダンジョン・デルヴ』が、ダンジョンマスター用の指南の書として機能しながら、D&Dの新しい遊び方を提示してくれるサプリメントでもあるためでしょう。その点、もう少し詳しく説明していこうと思います。

●ダンジョンマスター用の指南の書として

D&Dは数ある会話型RPGの中でも、血沸き肉踊る戦闘の楽しみに重点を置いたシステムとなっています。そして、第4版になってからの D&Dは、戦闘システムに大胆な単純化と抽象化が施されたため、容易にルールを習得でき、手軽にダイナミックな戦闘が楽しめるようにもなりまし た。

D&D第4版においてキャラクターは「パワー」という特殊能力を用いますが、このパワーはダメージを与えたりキャラクター を強制的に移動させたりする要素と、朦朧状態や支配状態などの「状態異常」を与える要素に大別されます。また「遭遇」という単位でゲーム内時間を抽象化す ることにより、戦闘やイベントの管理が手軽に行なえるようにもなっています。

こうした諸々の刷新事項の中でも特筆すべきは、 D&D第4版がチームワークを重視している点でしょう。PC一人ではとても敵わない強力な敵であっても、パーティ内の連携次第で、十分に打ち勝つ ことが可能であること。この楽しさといったら! 言い換えれば、D&D第4版での戦闘の醍醐味は、チームワークによって「遭遇」という名の苦難を 乗り越える過程にほかならないのです。

この「遭遇」は、白紙のマップに敵と味方を配置し、殴り合うだけの単純なものから、複雑なストー リー的ギミックや、地形効果などと組み合わせたものなど、さまざまなものが考えられますが、プレイヤーたちに嬉しい驚きを与えるためには、やはり「遭遇」 の質にはこだわりたいもの。しかし慣れないうちには、なかなか面白い「遭遇」が思いつかないのもまた事実です。

会話型RPG、特にD&Dを深く楽しむためには、優れたダンジョンマスター(略称DM、D&Dにおけるゲームマスター)の存在が大事になってきますが、D&D第4版において優れたDMたるには面白い「遭遇」を作成し、鮮やかに運用する技術がやはり、必要不可欠です。『ダンジョン・デルヴ』は、そうした技術を身につけるための指南の書として活用することができます。

『ダンジョン・デルヴ』には、すぐに使える「遭遇」が、各レベル帯ごとに3つ、合計90(!)も収められているのですが、これらの「遭遇」には、それぞれ ストーリー的な背景設定や、運用のコツ、描写の仕方、拡張案が記されています。こうした情報を参考に運用を行なえば、自然とD&Dのダンジョンマ スターとしての技術を上達させることが可能になります。

●手軽な遊び方の提示として

また『ダンジョン・デルヴ』は、D&Dのより手軽な遊び方を提示するサプリメントともなっています。遠慮せず、『ダンジョン・デルヴ』に掲載されている「遭遇」を使って、D&Dをボードゲーム的な(プレイヤーとDMの)対戦ゲームとして遊んでしまいましょう!  1998年のGencon Game Fair(北米最大のゲーム・コンベンションの一つ)でお披露目された遊び方に由来するということからもわかるとおり、『ダンジョン・デルヴ』は、お祭り で行なわれるような――明快でダイナミックなスタイルに――めっぽう相性がよいのです。

『ダンジョン・デルヴ』には、レベルごとに3つ の遭遇が収められています。手持ちのリソースを考えながら、この3つの遭遇を生き延び、所与の目的を達成しましょう! 『ダンジョン・デルヴ』の遭遇は、 決してやさしいものではありません。特に「デルヴ3」は、多くの冒険者を闇に葬った悪名高いデルヴです。不敵に笑うDMの鼻を明かしてやるか、無残にもダ ンジョンの果てで朽ちるのか。すべては、あなたの勇気と機知にかかっているのです!
いわば本書は「詰めD&D」の問題集。もっとも、詰将棋のように一人で解法を模索するのではなく、仲間たちとワイワイ楽しむ類のものですが。

練りに練った重厚長大なストーリーも面白いものですけれども、一方で手軽な戦闘ゲームとしてD&Dに親しむことにも、独特の面白さが存在します。 いや、手軽な戦闘ゲームとして遊んでいたつもりが、その経過を振り返ってみると、ひとつの壮大な物語となっていたという、意外な驚きに出遭えるかもしれま せん。ひとつのゲーム経験が、かけがえのない「体験」へと昇華されること。それがD&Dを「遊んだ」ことだと、筆者は考えています。Analog Game Studiesはアナログゲームとその他の社会的要素を繋げることを目標としていますが、そのためにはまず、対象となるアナログゲームについてよく知らな ければなりません。D&Dについて言えば、『ダンジョン・デルヴ』は、D&Dにに親しむ格好の機会を提供してくれるものと思います。

いま、私は放課後『バーコード・バトラー』やカードダスに熱中していた小学生の時の自分に、「小難しいこと抜きで、もっともっと戦闘をしたい!」と戦闘に 飢えていた中学生の時の自分に、『ダンジョン・デルヴ』をプレゼントしたいと切に思っています。当時有していた――今も静かに持続していますが――狂おし いまでの飢餓感に、このサプリメントは十分、答えてくれたに違いないからです。いや、社会人になった今でも、心ゆくまで戦闘を楽しみたいという機会は多い ですし、「D&D Encounters」(後述)のような遊び方にも、『ダンジョン・デルヴ』は相性がよいとも思います。

また、『ダンジョン・デルヴ』で導入された「遭遇3セット」という考え方は、「デルヴ形式」と いう名のもとに、公式アドベンチャーにおいても採用されています。どうもセッションにメリハリがないとお悩みのDMは、「遭遇3セット」というデルヴ形式 の考え方を採用してみて下さい。長くもなく、かといって物足りなさもなく、この「遭遇3セット=デルヴ形式」が、D&D第4版のアドベンチャーを 設計するにあたり、理想的なモデルとして機能するとわかるはずです。イベントでも応用することはできるでしょう。

●42種類の新モンスター!

『ダンジョン・デルヴ』に登場するモンスターは、『モンスター・マニュアル』のほかにも、『Open Grave』、『次元界の書』、『ドラコノミコン:クロマティック・ドラゴン』に収録されたものが登場しています。

しかし、それだけではなく、『ダンジョン・デルヴ』では、新しいモンスターが42種類も、お目見えします。モンスター好きには、見過ごすことはできないでしょう。

●調整してみましょう!

『ダンジョン・デルヴ』の原書は2009年の2月に発売されたサプリメントであるため、『ダンジョン・マスターズ・ガイドII』等に掲載された、モンス ターの調整や罠のアップデート等は反映されていません。最新の適正難易度で挑みたいDMは、適宜調整を加える必要があります。

また、それ以外にも『ダンジョン・デルヴ』には、モンスターのカスタマイズ案やプレイヤーの人数に合わせた調整案が掲載されております。こちらも参考にしてみて下さい。

なお、『ダンジョン・デルヴ』で紹介されているダンジョン・タイルには絶版のものもあるようですが、他のタイルでも代用が利くものも多いですし、手書きのマップ等でも比較的楽に再現することが可能です。
ダンジョン・デルヴ (ダンジョンズ&ドラゴンズ 第4版サプリメント) [大型本] / デヴィッド ヌーナン, ビル スラヴィクシェク (著); 待兼 音二郎, 鈴木 康次郎, 阿利浜 秀明, 見田 航介, 岡和田 晃 (翻訳); ホビージャパン (刊)

●関連リンク集

・『ダンジョン・デルヴ』に、さらに興味が出てきた人は、ホビージャパンのD&D日本語版公式サイトにプレビューが掲載されていますので、ぜひご覧ください。http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/delve/index.html

・また、吉井徹さまによる「ゆるゆるSpeak Easy」第42回では、コミック形式で『ダンジョン・デルヴ』の踏み込んだ説明が描かれています。
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/article/speak_easy/speak_easy42.htm

・ 現在、全世界でD&D Encountersというイベントが実施されています。これは、D&Dの発売元であるWizards of the Coast社が主催する世界的なイベントで、毎週水曜日に1セッション=1遭遇という形でアドベンチャーをこなすという形でD&Dのキャンペー ン・ゲーム(続きもののドラマのように連続したストーリーの冒険)を行なうというものです。詳しくは、会話型RPGを中心としたアナログゲーム総合情報誌 「Role&Roll」Vol.78にレポートが寄せられていますが、D&D Encountersのように、「1遭遇=1セッション」という形で、『ダンジョン・デルヴ』を遊んでみるのも面白いかもしれません。また、オンライン・セッションとの相性も抜群のようです。
Role&Roll Vol.78 [大型本] / アークライト (編集); 新紀元社 (刊)

・アドベンチャーにおけるキャラクター表現に、より深みを与えたい人には、P・ローランさまの「もう一人の自分 ―ANOTHER SELF― ~AD&D(R)におけるキャラクター・ジェネレーションへの一考察~」が役に立ちます。
http://analoggamestudies.seesaa.net/article/187513308.html

ウォーゲーム講義のテキスト:奥出阜義『ハンニバルに学ぶ戦略思考』(2011)


【新作紹介】ウォーゲーム講義のテキスト:奥出阜義『ハンニバルに学ぶ戦略思考』(2011)

 蔵原大


 今回は、首都大学で行われているウォーゲーム講義のテキストを紹介します。

ハンニバルに学ぶ戦略思考
ハンニバルに学ぶ戦略思考

作者: 奥出阜義
出版社/メーカー: ダイヤモンド社
発売日: 2011.02
メディア: ソフトカバー

 首都大学オープンカレッジでは、元自衛官の奥出阜義講師による「MM講義」が連年行われています。MM=Map Maneuver(図上演習)ですが、簡単に言えばウォーゲーム(戦争を模擬した競技)のことです。評者も2009年に参加したこの講義、毎年20名ほどの受講生を集めてきました。2011年始めに出された上記の『ハンニバルに学ぶ戦略思考』はその講義内容をまとめたものです。

○ 「戦略の父ハンニバルに学ぶ戦略決断力 ビジネスを勝利に導く体験型MMゲーム」

 しかしなぜ「ハンニバル」なのかって? それについては本をお読みになればお分かりになるかと思いますが、少し種明かしをしますと、講義では古代地中海世界の将軍「ハンニバル・バルカ」の「ロールプレイング」をしていることに関係しています(むろん遊びではなく経営戦略等に類する話です)。

 ちなみにウォーゲームを活用した大学講義については以前にも「ウォーゲームを製作する歴史学の講義:フィリップ・セイビンの革新的試み」で取り上げましたが、日本ではまだまだ珍しい。まして一般参加可能となると中々ないですね。皆さんもこの機に聴講をお考えになられてはいかがでしょう。

 ところでこうした教育の事例については、学術雑誌『戦略研究9』に掲載された「戦略学「教育」の新潮流――「紛争シミュレーション教育」の理論・実践・政治的利用に関する考察――」という論文で国内外の様々な話が分析されています。

 ある種のゲームはこんな風に実践的価値を見出されているわけです。「ゲーム」=「遊び」という固定観念に囚われる時代はもう終わりですよ、皆さん。


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
【レビュー】ウォーゲーム授業のテキスト:奥出阜義『ハンニバルに学ぶ戦略思考』(2011) by 蔵原大(Dai Kurahara) is licensed under a Creative Commons 表示 – 改変禁止 3.0 Unported License.

ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(都甲幸治、久保尚美訳)、新潮社

【新作紹介】ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(都甲幸治/久保尚美訳、新潮社):SFとRPGと魔術的リアリズムのハイブリッドが生んだ新しい文学!
 岡和田晃


オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (Shinchosha CREST BOOKS) [単行本] / ジュノ・ディアス (著); 都甲 幸治, 久保 尚美 (翻訳); 新潮社 (刊)

 SFとRPGと魔術的リアリズムが衝突し、未曾有の大爆発を遂げた!
 英語とスペイン語、英米文学の伝統とラテンアメリカ文学の壮大な構造のまさにハイブリッド!
 『オスカー・ワオの短く凄まじい生涯』The Brief Wondrous Life of Oscar Wao,2007.
 21世紀文学に新たな1ページを刻む傑作の登場である。
 さあ叫べ、「シャザム」と! 君もキャプテン・マーベルに変身するんだ!

 オスカー・デ・レオン。ドミニカにルーツを持つ青年。女の子が大好き。だけど体重は140キロ。スポーツはからきしダメ。それでも彼は愛を求め、出逢う女の子に恋をしては撃沈を続けます。思い返せば幼稚園時代はモテモテでした。でも今は姉から「変わらなきゃ童貞のまま死ぬことになる」、「エロ本を捨てなさい」と説教される状態で、大学を出て教鞭をとるようになっても生徒から『スター・ウォーズ』のジャバ・ザ・ハットに引っ掛けて笑いものにされる始末。

 しかし彼は単なるボンクラではありません。彼には確たる目標があったのです。それは素晴らしい小説を書いて「ドミニカのJ・R・R・トールキン」になること。9歳で『指輪物語』に触れ、高じてトールキンが発明したエルフ語を書けさえした(!)オスカーは、黄金期のSF作家のみならず、グレート・オールド・ワン、すなわち「もうみんなが忘れかけた」E・E・「ドク」・スミスやオラフ・ステープルドン(『最後にして最初の人類』や『スター・メイカー』で有名ですね)をさえ、むさぼり読むのです。そして彼のお気に入りの映画は、小松左京原作の『復活の日』。

 また彼は熱狂的なRPG者でもあり、家族に「一生をロールプレイング・ゲームの製作に捧げる」と宣言します。D&Dサポート雑誌「ドラゴン・マガジン」を購読し、メタル・フィギュアにせっせと色を塗り、「次のゲイリー・ガイギャックス」になることを夢見て、ファンタジー・ゲームズ・アンリミテッド社に超能力ものRPG『サイ・ワールド』の一部として自作モジュールの採用を検討されるところにまでこぎつけます。

 そして、デブのオスカーでも、ひょっとしていい関係になれそうな女の子たちも現れます(ヒント:オスカーはオルタナティヴ・ロックも大好きなのです)。

 しかし、なぜか決まって彼には不幸が訪れます。現に80年代が進むにつれて彼の心は荒んでいき、世界の終末を待ち望むようになるのです(オスカーは『ドラゴンランス』のレイストリンがお気に入り!)。

 オスカーは、アラン・ムーアのグラフィック・ノベル『ウォッチメン』を貪り読み、破滅もののRPG『アフターマス!』を遊びたがる粋な奴。そんなオスカーが他人とは思えない人は、おそらく筆者のほかにも多いでしょう(*1)。そして話が進み、オスカーとその家族の様子を追ううちに、読者は冒頭で説明される「フク」の実際を目の当たりにすることとなるのです。

 「フク」。正式には「フク・アメリカヌス」。

 小説の冒頭で説明されるそれは、広義には何らかの呪いや凶運を、狭義には新世界の呪いや凶運を意味する言葉です。『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』において、この「フク」はラテンアメリカ史上最悪の独裁者ラファエル・トルヒーヨと、オスカーの家系との呪われた関係性を象徴する言葉として描き出されます。

 さて、手前味噌で恐縮ですが、筆者はボード/カードゲームの雑誌「GAME LINK」Vol.3(Shoot the Moon)の連載「戦鎚傭兵団の手柄話」において、政治を題材にしたゲームについての四方山話を書いたことがあります。

 ここでトルヒーヨについても簡単に触れましたので、その部分を紹介しましょう(*2)。

まずは(注:ボードゲーム)『フンタ』だ。南米の貧しい小国バナナ共和国を牛耳る軍事独裁政権の閣僚となって、先進国から施されたODA(政府開発援助)をかすめとってスイス銀行の秘密口座に入金できた額を競う最低なゲームだ。うまく大統領に当選すれば、好き勝手に援助金を分配できるが、根回しのさじ加減を間違うと、反対派にクーデターを起こされちまう!

 つい最近まで南米は、このゲームに出てくる政治家がヌルく思えるような連中でごった返してたんだぜ。例えばドミニカで30年以上も独裁を敷いていたラファエル・トルヒーヨ。クーデターを起こして将軍から大統領へ成り上がったトルヒーヨは、年金や都市計画に着手しつつ、国土の約3分の1を速やかに私物化し、首都の名前をトルヒーヨと改めるわ、市内に自分の銅像を1,200体あまりも立てるわ、新聞の第一面に大きく「ビバ、トルヒーヨ!」と書かせるわ、国内最高峰の山をトルヒーヨ山と改名するわ、やりたい放題。砂糖やコーヒーなど国内の主要産業は一族で独占。国内のハイチ人を1日に2~3万人も虐殺。あげくの果てには、支援者に自らをノーベル平和賞へ推挙させすらした(さすがに却下されたが……)。

 とまァ何もかも桁外れ。まさに神話的人物だ。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などのファンタジーRPGでは、極限まで成長したキャラクターは神に近い存在となるが「混沌にして悪(ケイオティック・イーヴィル)」のキャラクターの成れの果てを見た気分だぜ。

(「戦鎚傭兵団の手柄話」第2回「同志(タワーリヒチ)、次回オリンピックはシベリアでいかが?」、「GAME LINK」Vol3)

 

 誇張ではないかと思われる方もおられるでしょうが、この独裁者が(諸説分かれる部分も含まれますし、無数の伝説を残してもいますけれども)南米において史上最悪とも言われる圧政を敷いてきたのは歴史的な事実なのです。彼はコロンビアの作家ガルシア=マルケスの長編小説『族長の秋』に登場する独裁者のモデルになったとも言われていますが、ガルシア=マルケスは、この独裁者を荒唐無稽なまでに神話的な人物として描き出します。

 その際に彼の筆は、いわゆる近代小説のお約束――ストーリーラインの一貫性、登場人物や時間軸の同一性――といった規範をやすやすと飛び越えるのです。近代小説の基盤が形成されたのは、バルザックやドストエフスキーが活躍した19世紀であると言われていまが、ここからわかるのは、トルヒーヨのような神話的人物は、19世紀的な方法論では到底、描き尽くせないということでしょう。

 しかし『族長の秋』以降の世代を生きるジュノ・ディアスが新しいのは、神話的人物としてのトルヒーヨと、トルヒーヨの治下で不当な弾圧を受けた人たちの生々しい「その後」を、きちんと切り結ぼうとしていることです。

 その際に必要不可欠だったのが、ほかならぬSFの、そしてRPGの想像力でした。

 SFとRPGの想像力を小説でハイブリッドさせた作品というと、古川日出男の『アラビアの夜の種族』を思い浮かべる方も多いでしょう。『アラビアの夜の種族』はコンピュータRPG『ウィザードリィ外伝2 古代皇帝の呪い』(と、同作のノベライズ『砂の王』)を母体とすることで、『千夜一夜物語』やガルシア=マルケスの『百年の孤独』が体現したような物語の複数性と、「始原の記憶の結晶」を追求する「迷宮志向」(それぞれ紀田順一郎)を文学の形で発展させました。

 一方の『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は、『アラビアの夜の種族』とはまた異なるアプローチをもって、SFとRPGの方法を、新たな文学技法として積極的に取り入れる作品だと言えるでしょう(*3)。

 『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の原書には随所にスペイン語が挿入されていますが、SFやRPGの専門用語が、同じくらい大量に盛り込まれてもいます(*4)。そして、これらの固有名詞は実に効果的な配置がなされています。例えば『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』において、トールキンの『指輪物語』や『シルマリルの物語』に登場するサウロンやモルゴスといった強大な悪役の比喩をもって、トルヒーヨは語られますし、その暗殺の模様はRPGの戦闘のように「ヒットポイント四〇〇点ぶんのダメージを受けた」と説明されます(いや、本当に)。

 あまりにも馬鹿馬鹿しいって?

 しかしトルヒーヨがもたらした「フク」は、そして「フク」がもたらした歴史の総体はかように馬鹿馬鹿しくも大仰なもので、古典的なリアリズムの枠組みには収まりきらないもの。それゆえこの表現には確かな意味があるのです。

 高橋志行氏は「ロールプレイング・ゲームの批評用語」において、RPGにおける〈システムデザイン〉〈マスタリング〉〈プレイング〉をそれぞれ融合させた「共同ゲームデザイン」という考え方を提示しました。

 増田まもる氏が述べたように、この「共同ゲームデザイン」という考え方は、物語論(ナラトロジー)の立場から見れば、いわば既存の物語像の再解釈と理解することが可能です。

 つまり『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』はいわば「共同ゲームデザイン」の方法論で、トルヒーヨの独裁が生み出した惨劇と、惨劇の後に続く歴史を徹底して読み替えようとする試みにほかならないと筆者は考えています。

 「共同ゲームデザイン」を物語の中に取り入れる際には、例えばゲームブックのようなパラグラフ選択形式を持ち込むなどといった方法がありますが、『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』とはそうした方法とはひとあじ異なるアプローチをとっています。それはつまり、「共同ゲームデザイン」の構造を、小説という一つの大きな箱の中に埋め込みつつ、プレイヤー×ゲームマスター間の「作者-読者」という関係性を、登場する各々の固有名詞のレベルにまで敷衍させている点にあります。

 そしてこの点は、RPGを生ぜしめた諸々の条件とも密接に連関するもので、RPGと、モダニズムを基体とした文学様式(例えばニューウェーヴSFやラテンアメリカ文学)の交点はここにこそあると筆者は考えていますが、『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は、その交点を体現した重要な作品だと言えるでしょう。

 お手に取ってそのことを確認してみて下さい。

 『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の第1章は1974年から始まりますが、これが『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の発売と同じ年に設定されているのは、おそらく偶然ではないというのが筆者の見解です。いや、本書は立派なD&D小説です。作中では『アドバンスド・ダンジョンズ&ドラゴンズ』のとある著名モジュールがプレイされる光景が語られますし、そのモジュールに登場する敵役にも、形象としての意味を見出すことは難しいことではありませんから。

 ところで、メキシコの作家・批評家であるカルロス・フエンテスは、著名な批評書『セルバンテスまたは読みの批判』の末尾において、次のように記しています。

 しかし事象は万人のものではなく言葉は万人のものである。そして言葉は共有財産のうちまず第一に、そして本然的に希求されるものである。したがってミゲル・デ・セルバンテスもジェイムズ・ジョイスも、彼らがセルバンテスやジョイスではなく、万人である限りにおいて言葉の所有者――詩人――になれるのである。詩人はその行為――〈詩〉――の後に生まれる。〈詩〉がその作者を創造する、ちょうどその読者を創造するように。セルバンテス、万人の読み。ジョイス、万人の記述。

(『セルバンテスまたは読みの批判』、牛島信明訳、水声社)

 万人の読みと、万人の記述。フエンテスのこの言葉は、『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』にも当てはまるのではないでしょうか。

 そのうえで『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は、語りの「ポリフォニー」(ミハイル・バフチン)を意図的に組み入れた作品でもあり、スージー&バンシーズを愛聴するパンク娘ロラのエピソードもあれば、ロラと激しく対立する母親のべリシア・カブラルの悲劇(*5)、さらにはジュノ・ディアスの過去作『ハイウェイとゴミ溜め』にも登場したユニオールなどが、さまざまな「声」をもって語り、あるいは語られる対象となります。

 こうした多声性は、SFやRPGの様式を用いて再解釈された「万人の読み」「万人の記述」と立体的に重ね合わされることになるのです。

 ですから……。

オスカーは千回目の『復活の日』を見て、日本人の科学者がティエラ・デル・フエゴについにたどり着き、最愛の人と再会するシーンで千回目に泣いた。オスカーは、おれの推測では百万回目の『指輪物語』を読んでいた。それは彼が初めて見つけたときから、最愛の書物であり最高の安らぎだった。オスカーと『指輪物語』の出会いは九歳のときで、途方に暮れ孤独だった彼に、仲の良かった図書館員が言ったのだった。ほら、これを読んでみたら。そしてこの一言が彼の人生を変えた。三部作をほぼ最後まで読み通し、「そして遠いハラドから……半分トロルのような黒い人間たちがいました」という文章まで来てオスカーは中断しなければならなくなった。彼の頭と心があまりにも痛んだのだ。

(『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』、都甲幸治/久保尚美訳、新潮社)

 

 ここで『復活の日』を観て涙するオスカーは、あなたの姿であり、私たちの姿でもあるのでしょう。

 まだの方は、ぜひ『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』を読んで下さい。惹句に騙されてはいけません。この小説は、単なる「オタク文学」などではまったくないのです。

 小説の終盤で告げられる「私たちは一千万人のトルヒーヨなのよ」という言葉に、あなたはどう向き合いますか?

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (Shinchosha CREST BOOKS) [単行本] / ジュノ・ディアス (著); 都甲 幸治, 久保 尚美 (翻訳); 新潮社 (刊)

 『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』はThe John Sargent Senior First Novel Prize、The Dayton Peace Prize in Fiction、全米批評家協会賞、ピューリッツァー賞をそれぞれ受賞(2008年)。35もの“本年最高の本”リストに掲載、Lev Grossmanによって、「タイム」誌の2007年のベスト小説10のうち第1位に選出されました。

 Analog Game Studiesでは、今後とも『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』についての記事を掲載する予定です。


【脚注】

(*1)友人のアメリカ人ゲーマー/SFファンに尋ねたところ、「この主人公は私だ」との返事が! 彼はジュノ・ディアスとほぼ同世代です。
(*2)「戦鎚傭兵団の手柄話」はライター/翻訳家集団・戦鎚傭兵団の面々をデフォルメしたアイコンを傍らに配し、アナログゲームの題材となった背景をなるべく泥臭い形で紹介するのが趣旨の連載です。筆者は「頭の悪そうなトロール」風の似顔絵を描いてもらっていたので、ここではキャラクターに合わせた乱暴な文体を採用しています。
(*3)『百年の孤独』は寒村マコンドとブエンディア一族の運命を魔術的な文体で濃縮させた作品です。あらゆる神話的な状況が巨大な器の中に放りこまれ、撹乱され、放り出されます。人間は哀しいまでに愚かで儚く、死者は蘇り、やがて禁じられた相姦の果てと「豚のしっぽ」を最後に、マコンドもまた塵に掻き消えてしまうのです。
 テクストを通してその一部始終を目撃した私たちは、小説に刻まれる出来事を、歴史の、または人間の縮図であるように受け止めざるをえませんが、仮に『百年の孤独』で描かれる人間が卑小な「個」に過ぎないとすれば、一方の『族長の秋』に登場する独裁者はそうした「個」としての人間を飲み込み、蹂躙しながら際限なく膨れ上がり、傍目には神にも見紛う巨大な存在として描出されるに至ります。
 しかしガルシア=マルケスの筆は冷酷にも独裁者が抱える孤独を、すなわち無限の権力を持つ存在すら「個」にほかならないということを、容赦なく浮き彫りにしていきます。『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』においても、この「個」の問題は、繰り返し問い直されていると言えるでしょう。
(*4)日本語版では、それらの専門用語にはすべて詳細な割注が添えられています。また、邦訳のある作品の表記は原則的に邦訳に準じたものになっています(E・E・「ドク」・スミスと「ドック」サヴェッジ)。割注は、文脈をご存知ない方でも小説を楽しんでいただけるように整備したものですが、おなじみだと思っていた固有名であってもびっくりするような使われ方をなされていることが、割注をご覧になればわかるでしょう(『マトリックス』とかね)。
(*5)母親について語れられる章は「べリシア・カブラルの三つの悲嘆」という章題がついていますが、ひょっとするとこれはフィリップ・K・ディックの『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』にかけているのかもしれません。

ロバート・J・シュワルブ/アリ・マーメル『サイオニックの書』(滝野原南生/柳田真坂樹他訳、ホビージャパン)でサイオニック・セッションを!

【新作紹介】ロバート・J・シュワルブ/アリ・マーメル『サイオニックの書』(滝野原南生/柳田真坂樹他訳、ホビージャパン)でサイオニック・セッションを!
 岡和田晃


 世界最初のRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)は現在でも、まったく新しいシステムを搭載した第4版が精力的に日本語展開されています。その色調は『指輪物語』に影響を受けたハイ・ファンタジーを基体としながら、魔法が近代科学のように発展を遂げた世界を扱う(スチーム・パンクならぬ)マジカル・パンクな世界であるエベロンなど、いくつもの新たな試みが加えられています。

 そして今月、D&Dの可能性にまた新たなマイルストーンを加えるサプリメント『サイオニックの書』(滝野原南生/柳田真坂樹他訳、ホビージャパン)が発売となりました。

サイオニックの書 (ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版) [大型本] / ロバート・J・シュワルブ, アリ・マーメル (著); 滝野原南生, 柳田真坂樹, 桂令夫, 塚田与志也 (翻訳); ホビージャパン (刊)

※D&Dについてご存知ない方は、以下のリンク先から、詳しい解説を読むことができます。

『D&D第4版 スターター・セット』プレビュー
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/4th_starter/index.html
Webリプレイ:『竜の予言に選ばれし者たち』
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/article/web_replay_eb/index.html

 『サイオニックの書』には、主に『プレイヤーズ・ハンドブックIII』によって導入された、サイオニック(超能力)にまつわる拡張ルールや設定が収録されています(『プレイヤーズ・ハンドブックIII』と併用することを前提として書かれている本です)。

 『プレイヤーズ・ハンドブックIII』によって、さながらシオドア・スタージョンのSF小説『人間以上』や(映画にもなった)アメリカン・コミック『ファンタスティック・フォー』等に登場する異能者たちを思わせる超能力を、あなたのセッションに持ち込むことが可能になるというわけです。

 あるいは、香港映画などに登場するモンク(格闘僧)のトリッキーなアクションをD&D第4版で表現することもできるようになった次第です(D&D第4版では、モンクはサイオニック・クラスとして扱われます)。

 加えて、異星人を思わせる外観をし、ストイックに自らを律する種族ギスゼライ、結晶生命体シャードマインド、心に迷宮を抱える牛頭人身種族ミノタウロス、そして植物人間ワイルデンといったヒューマンやエルフ、ドワーフなどとはひと味違うエキゾチックな種族でD&Dを遊ぶことも可能になりました(これらの種族の多くは、サイオニックに高い適性を有しているのです)。

 『サイオニックの書』の「はじめに」にも書かれていますが、これまでサイオニックについてのルール的/世界観的な位置づけについては、さまざまな試行錯誤が重ねられてきました(その歴史は1976年の「Eldrich Wizardry」にまで遡ります)。日本語環境においては、第3.5版の『サイオクス・ハンドブック』が嚆矢となり、D&Dの世界に超能力がお目見えすることとなりました。

 そして今回発売となった『サイオニックの書』は、基本的な枠組みやデータの提示、拡張に留まらず――超能力についての記述をさらに深める、サイオニクスの歴史にとっていわば記念碑的なサプリメントなのです。

 『プレイヤーズ・ハンドブックIII』に掲載されたサイオニックのルールは斬新なものでした。これまでルール運用にあたって抱いていた固定観念を良い意味で覆されるようなルールの数々は、初めての人には新鮮な喜びを、マンネリ化したプレイグループには嬉しい驚きを与えてくれるでしょう。
 とりわけ、新しい概念「パワー・ポイント」(モンクの場合は、各パワーの移動用法と攻撃用法)を活用していかに戦局を有利にするかという点は、まさにプレイヤーの知恵の見せどころだと思います。D&Dの戦闘はグリッドマップを活用したミニチュアの移動と、ヒット・ポイントの変化や状態異常の付与/剥奪による戦局の流動性に大別される、良い意味で単純明快なものだと言えますが、サイオニックはそこから導きだされる数理的モデルに思いもかけない変化が生まれるようなシステムとなっています。

 あなたの周りに「ファンタジーなんて、どれも同じでしょ」などとうそぶく、すれっからしのゲーマーはいませんか? あるいはD&Dを遊びこむうちに、今までとは切り口の違う斬新なキャラクターを演じてみたいという欲求も生まれてくるはずです。そうした人にはサイオニック・セッションをお薦めしたいと思います。

 例えば『プレイヤーズ・ハンドブック』、『プレイヤーズ・ハンドブックIII』、『サイオニックの書』(DMは『モンスター・マニュアルIII』を使用)というレギュレーション(縛り)で、またひとつ新たなアドベンチャーに挑戦してみるのはいかがでしょう(ちなみに『プレイヤーズ・ハンドブックIII』は、『プレイヤーズ・ハンドブックII』を持っていなくても活用することができるサプリメントです)。きっと、新たな発見があるはずです。

 また(残念ながらいまだ未訳であるものの)D&D第4版にはサイオニックをフィーチャーした「Dark Sun」という背景世界も導入されていることですし、超能力縛りでD&Dを遊んでみると、あなたのファンタジー観はより深みを増すことと思います。何より、D&D第4版のルール・メカニズムの奥深さを垣間見ることができるでしょう。

 DMにとって、『サイオニックの書』や、サイオニック・キャラクターが対峙するモンスターを数多く収めている『モンスター・マニュアルIII』は、フレーバー・テキストも特に充実した内容となっており、奥行きのあるシナリオをデザインする際、大いに役立つことと思います。

 「でも、私はあくまでハイ・ファンタジーが好きなんだ。超能力を入れたら世界観や雰囲気が壊れるだろ?」と心配に思っている方もいるかもしれません。

 ただ、D&D第4版でのサイオニックは、SFやアメリカン・コミック、香港映画などを彷彿とさせるエキゾチックな色合いを残しながらも、自然な形でハイ・ファンタジーとの融合が模索されています。それゆえ、ご心配は杞憂です。

 つまりサイオニックの英雄たちは、“彼方の領域”からやってくる異形と呼ばれる存在(大雑把な言い方をすれば、クトゥルフ神話に登場するクリーチャー群を思わせる存在)と対峙するという、明確な存在意義を与えられているわけです。サイオニックだからといって、武勇や秘術の力を軸にした英雄たちから、浮いてしまうことはないのです。

 とりわけ第5章の「サイオニック系キャラクター用選択肢」は、既存のキャラクターにサイオニックな背景を与えるためのアイデアが豊富に盛り込まれています。

 また本作のメイン・デザイナーのロバート・J・シュワルブは『ウォーハンマーRPG』をはじめとした各種RPGに深く関わっているキャリア豊富な実力派デザイナー/ライターであり、セッションに深みを与えるアイデアの数々と卓越した文章力には目を瞠るものがあります。翻訳も原文の面白さを引き出した愛あるものになっており、とりわけモンクの章は一見の価値があると言えるでしょう。

 さあ『サイオニックの書』を活用し、“彼方の領域”から自然世界を侵食せんと企てる、恐るべき狂気を食い止めましょう!

精神の力を解放せよ!
 この世界と“彼方の領域”の狂気の間に立ちはだかるのは君しかいない!
 心身を律する旧き教えを学んだ君は、自らの意志の力を操る力を身につけた――君の意志は思考と夢の、そして君の精神を外に投影し、他者の精神を支配する魔法として働くのだ。
 心身を合一させてひとつの武器と成し、外界からやってくる狂気の力に立ち向かう君は、すなわちサイオニックの英雄、鋼の意志で築いた砦である。
 本書は『プレイヤーズ・ハンドブックIII』を用いて作成したサイオニックのキャラクターに、今まで見たこともないような選択肢を贈るものである。本書には、アーデント、サイオン、バトルマインド、モンクのクラス用にデザインされた新たなパワー、特技、伝説の道、そして神話の運命が収録されている。
 また、サイオニックの伝統に関する背景情報や、荒々しい様々な才能のためのルール、2種の新たな種族、それに新たな作成オプションやクラス特徴は、君のお気に入りのサイオニック系クラスをプレイするにあたっての新たな選択肢を与えてくれるだろう。

『サイオニックの書』のプレビューはこちらから読めます(D&D日本語版公式サイト):
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/4th_psp/index.html

プレイヤーズ・ハンドブックIII (ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版) [大型本] / マイク ミアルズ, ブルース R コーデル, ロバート J シュワルブ (著); 桂 令夫, 岡田 伸, 北島 靖巳, 楯野 恒雪, 塚田 与志也, 柳田 真坂樹 (翻訳); ホビージャパン (刊)サイオニックの書 (ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版) [大型本] / ロバート・J・シュワルブ, アリ・マーメル (著); 滝野原南生, 柳田真坂樹, 桂令夫, 塚田与志也 (翻訳); ホビージャパン (刊)モンスター・マニュアルIII 第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版) [大型本] / マイク ミアルズ, グレッグ ブリスランド, ロバート J シュワルブ (著); 桂 令夫, 岡田 伸, 北島 靖巳, 楯野 恒雪, 塚田 与志也, 柳田 真坂樹 (翻訳); ホビージャパン (刊)人間以上 (ハヤカワ文庫 SF 317) [文庫] / シオドア・スタージョン (著); 矢野 徹 (翻訳); 早川書房 (刊)ファンタスティック・フォー[超能力ユニット] (Blu-ray Disc) / ヨアン・グリフィズ, ジェシカ・アルバ, クリス・エヴァンス, マイケル・チクリス (出演); ティム・ストーリー (監督) 投稿日: カテゴリー 新作紹介

ケイティ・サレン/エリック・ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』(山本貴光訳、ソフトバンククリエイティブ)が刊行されます

【新作紹介】ケイティ・サレン/エリック・ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』(山本貴光訳、ソフトバンククリエイティブ)が刊行されます
 高橋志行


 翻訳書『ルールズ・オブ・プレイ(上) ゲームデザインの基礎』が、今年01月27日、ソフトバンククリエイティブ社から刊行されます。

ルールズ・オブ・プレイ(上) ゲームデザインの基礎 [単行本] / ケイティ・サレン, エリック・ジマーマン (著); 山本 貴光 (翻訳); ソフトバンククリエイティブ (刊)
 ケイティ・サレンとエリック・ジマーマンによるこの共著は、2004年にMITで刊行されてから今まで、主にビデオ・ゲーム業界や各国のDiGRA(デジタルゲーム学会)で非常に高く評価され、多くのゲーム開発者、ゲーム研究者、また映像論の研究者(*1)などに引用・参照・言及されてきました。

 また、〈意味ある遊び/meaningful play〉や〈魔法円/magic circle〉などといったテクニカルタームは、単にビデオ・ゲームのみならず、伝統ゲームや卓上ゲームなど、アナログゲームの分野の考察にも十分活用できる、射程の広いものになっています。

 AGS読者の皆さまにも、自信をもっておすすめできる一冊です。

 監訳者の山本貴光さまによる紹介はこちらです(帯付き写真があります):

・山本貴光,2011.01.21,「見本が届きました」
http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20110121/p1


【脚注】

(*1) 例えば北野圭介『映像論序説』(2009,人文書院)第二章の前半で、サレン&ジマーマンが編纂したゲーム研究のリーダー Game Design Reader と共に、このRules of Playについての議論(特に magic circle についての解釈)が展開されている。